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続きだよ
2月の頃だった。
何となく体調が悪かったおれは、いつも行っている病院に足を運ぶ。
診断を終えて、看護師さんと他愛ない話をして手を振る。
その時、手前の椅子の下に、手帳のようなものが落ちていた。
名前も書いていない、
ただ表紙には、『しぬまで日記』と書かれており、その横に耳がちぎれかけている猫の人形の絵が描かれていた。
1ページ目をめくると、持ち主であろう字で、文章のようなものが書かれている。
『20××年 12月6日』
『大事な誕生日の前日、胸が苦しくなったから病院に行ったら心臓病って診断されてびっくりした!w』
『お医者さんによると後2年らしい!』
『その後皆に報告しようと思ったけど辞めておきました!!』
『だってなんか嫌じゃん?』
『ということで!この事はぼくだけの秘密として!』
『ここに残しておきます!!』
『ついでに今日からこの日記に今日あったことかいてくよー!!』
丸々とした可愛らしい字。
おれが次のページに手を置きかけた時、後ろから誰かがおれの方を叩いた。
驚いて後ろを振り向くと、そこには彼が居た。
確か同じクラスの、いつも大声で話したり笑ったりしている人。
名前は残念ながら思い出せない。
だけど、その声と顔だけは、1番覚えていた。
彼は、凄く申し訳なさそうな、困った瞳をしていた。
こむぎ
こむぎ
こむぎ
行き場の無い手を引っ込めることなく、首をこてんと傾げる彼。
おれは一旦目を逸らし、こくりと頷く。
すると彼は、おれの方へゆっくりと近づき、目の前でしゃがんだ。
おれは出来るだけ目を合わせないように逸らしながら、ゆっくりと本を閉じる。
彼は、その本を優しく触り、受け取る。
おれが恐れながら彼の顔を見ると、優しく微笑んでいた。
こむぎ
彼は立ち上がって頭を搔く。
そして俺の方へ向き直して、笑顔でこう言った。
こむぎ
こむぎ
そして、彼がおれの手首を掴み、広場へと足を運ぶ。
おれは、言われるがままに従った。
その後、彼は全て話してくれた。
心臓病のこと。
ドナーを探しているうちに少し悪化してしまったこと。
このままでは数年しか生きられないこと。
その事は、家族にも友達にも言っていないこと。
彼の声は、いつも通りの声だった。
授業終わり、目覚めると必ず聞くあの声。
『うははっ』と笑うあの声。
でも、その眼は何故か寂しそうに感じた。
誰かに助けを求めているかのような、そんな眼。
おれは黙って、彼の話を聞いた。
彼が話し終わるまで、ずっと。
やがて彼が立ち上がり、体をおれの方にくるりと向けた。
こむぎ
こむぎ
すち
すち
おれが言葉を続けるよりも先に、彼が話し出す。
こむぎ
こむぎ
そう言うと、おれの両手を包むように握り、微笑む。
その後、聞いた話によると、
彼とおれは同じ部活だった。
お互い予定が合わず、というか、
転入してすぐ、入部届けは出したものの、すっかり忘れてて来ていなかっただけ、
それを言うと、彼に笑われた。
どうやら、彼も同じらしかった。
彼は忘れていたのともう1つ、病気で行くのにも苦労する、と言って笑っていた。
彼はそのまま、おれの少し前を歩きながら、聞いた事のない曲を歌っていた。
聞くと、彼は歌い手グループで活動していることを知った。
セブプラというグループで、
子麦粉という名前で、活動をしているらしい。
おれも、彼に歌い手をやっていることを話してみた。
そしたら、全然知らない、とまた笑われた。
おれが少しだけ機嫌を損ねると、笑いながら謝ってきたから、デコピンを食らわせてやった。
すると彼は、おでこを軽く叩かれた子供のように、額に手を当てながら軽く仰け反った。
それでも、彼が笑顔を絶やすことは無かった。
おれは初めて、家族以外の人に興味を持った。
初めて、家族以外の人と似ていると思えた。
少しくらい、一緒に居てやろう、って、
そう、思えた気がした。