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スマホが高らかに着信を知らせる

隣の運転席に座る先輩の顔が見るからに不機嫌になった

松本

また依頼かよ…

浅野

まあ、この時期ですから

浅野

ゴーストくらいでますよ

松本

今月でもう数十件目だぞ!?

松本

いい加減、自分で退治できるようになってほしいもんだね

浅野

そうしたら私たちの仕事、なくなっちゃいますよ

松本

ライトを当てるだけでいいんだ

松本

ここをやめられるんなら、皿洗いだってする

浅野

まあまあ…

なんで私の職場には男の人しかいないんだろう

私は、松本先輩が苦手だ

普段は気ままな自由人って感じで掴みどころがないけど

ゴーストのこととなると 人が変わる

私がちょっとでも気を抜くと叱咤の怒声が飛ぶ

ゴースト相手に厳しすぎ……と思わないでもない

けれど時折見せる、遠くを見つめるような目には

何か鋭い ゴーストの片鱗のようなものが宿っていた

浅野

ほら、もう着きましたよ

木漏れ日の森から さびれた洋館が姿を現す

ゴーストの好みそうな、典型的な"死息地"だ

松本

たいそうな屋敷だな

浅野

松本

いきなり何だよ

浅野

依頼者から伝言が…

スマホが再び着信を震わせていた

松本

またか

浅野

……

浅野

読みますね

松本

………

浅野

『出現するゴーストは叔母なので、ちゃんと成仏させてほしい』と-

松本

俺たちは、お坊さんじゃないんだぞ!?

松本

そもそも、ゴーストは人間の"念の塊"だ

松本

人間の魂とは違うんだよ

松本

そんなの無視しとけ

浅野

でも…

しかし先輩はすでに背を向けて、準備を始めていた

せっせと二人は腰に作業用鞄をつける

松本

スマホ 持ったか?

浅野

大丈夫です

松本

ったく、なんでうちの社長は無線機のひとつやふたつ買ってくれないのかね

松本

……まあいい

松本

今回のは1体だ

先輩は駆除用懐中電灯-ライトの調子を叩きながら確かめる

松本

はさみうちが手っ取り早い

浅野

了解

亀裂の入った扉に錆びた鍵を差し込む

ギチッ-

屋敷から冷気がどっと流れ出る

身震いのせいで手元のライトが揺れた

地球温暖化はどこにいったんだろう

今年は冷夏のせいで夏でも涼しく、おかげで 肌が乾燥してしまう

無意識に自分の頬に手を伸ばしていた

松本

今年はクーラー代が だいぶ浮くな

浅野

え…

先輩が私の考えを読み取ったように、そう口にする

窓が締め切られているのか屋敷の中は真っ暗だ

目が慣れてくると奥に大きな階段が闇へとのびていた

松本

右から俺がゴーストを追い込む

松本

それを捕まえろ

松本

お前がやると日が暮れる

ぶっきらぼうにそう言うと、

ちゃんと捕まえろよ と私の背中をバシッと叩き、奥へと消えてしまった

先輩のやり方、荒っぽいんだよな……

この前のお寺からの依頼では

読経中の小僧さんを押し倒して、前住職のゴーストを取っ捕まえていた

不動明王顔負けの形相だった

どうやら その日は見たいドラマの最終回があったらしい

今でも、小僧さんたちの怯えた表情を覚えている

浅野

かわいそうだったな…

そう口にしてはっとする

いけない、いけない

首を振って、意識を目の前の仕事に戻す

埃っぽい広間は闇に包まれている

ゴーストは光に弱く、明るいと出てこない

わざと真っ暗にして、上手くおびき寄せなければならないのだ

ブブッ-

松本

『あさ の……』

浅野

先輩!?

………

応答がない

冷たい汗が首を伝う

気づけば体が動いていた

まだそんなに離れたところにはいないはず…

本部では口数が少なく、年齢もまだ訊くことができずに不詳のままだが

彼はゴーストに関しては 相当なベテランのはずだ

………

一体何歳なんだろう

顔は20代後半なのだが、流行には無頓着で全然若者らしくない

見たかったドラマというのも、 『水戸黄門』だった

2064年の今、あんな大昔のドラマを見ることないのに

顔はいいんだけど…

やっぱり、性格がなあ……

そこまで考えてハッとする

何考えてるんだ私は…っ

私の頬をひっぱたく

先輩の身が危ないかもしれないのに…

けれど、どうしても先輩がゴーストに負けている想像ができなかった

"あの松本先輩だから" という絶対の安心感があるからだろう

そんなことを思っていると、ふと目をやったドアが薄く開いた

伸ばしかけたその手が止まる

"あの"先輩を襲ったゴーストだ

私なんかに駆除できるのだろうか…

ぎゅっと目を瞑る

一抹の不安を拭い捨て、慎重にドアを押し開いていく

ライトの端に何かをとらえる

そこには-

浅野

!!

黒い影が彼に覆い被さっていた

耳からは血が流れ出している

浅野

せんぱ……

……ん?

よく見ると、その影は何か小さなボトルのようなものを持っている

………

タバスコ……

そういえば、夜中に大好物のピザを食い散らかすからと依頼が来たのだ

老婆の影は、今にも彼のタバスコ味の耳にかぶりつこうとしている

ゴーストというのは強い感情や願いの塊なので、人間のような判断能力はほとんどない

その目的だけを遂行しようとする

そのため、たびたび厄介なことになるのだ

松本

笑ってないで、早く助けろ!!

こみ上げてくる笑いを抑えて、バックから解念剤を取り出す

さっと ふりかけるとゴーストは徐々に透明になり 消えてしまった

昔は、念と同調できる人間だけがゴーストたちを解念することができた

つい最近までは、洗濯機のような機械に入れて念を分解していたらしい

しかし弱霊用ならばコンビニでも、この解念剤が売っている

便利な時代になったものだ

浅野

何やってるんですか

ぽたぽたとタバスコを滴らせている先輩を助け起こす

松本

違うんだ…

松本

……ライトが効かなかった

浅野

…え?

ゴーストは光に晒されると弱体化するはずだ

松本

とりあえず、本部に戻るぞ

いつもとは違う雰囲気の先輩に違和感を覚える

ジッ-

突然、視界が光に包まれた

思わぬことに目をくらます

松本

浅野、俺にライト向けるな

松本

眩しいだろ

浅野

つ、つけてません

松本

は?

浅野

先輩じゃないんですか

光源を探して手を伸ばすも何も見つからない

眩しくて目も開けられず、聴覚を頼りするしかなかった

先輩の声が聞こえ、なんとなくどこにいるかはわかる

それと-

遠くで音楽が聴こえた

いや、音楽と呼ぶには程遠いかもしれない

呻くような重低音が身体に直接届く

聞き覚えのある曲だった

かなりメロディーは変えられているが……

たしかこの曲は-

松本

なんで、やつが…

音は段々とはっきりと形になっていく

瞼の奥の真っ白な視界の中で光が蠢いた

何かが、いる

少し目が慣れ、ゆっくりと瞼を開く

浅野

ひっ…

目の前に 光が いた

触手が渦巻いているような異形のもの

時折、ヒトガタのようなものが浮かんでは消えていく

ライトを向けたが、効果はみられなかった

松本

く、来るな!

しかし、光はじりじりと引きずるように近づいてくる

ヒトガタから放たれる光も増していく

音楽はすでに認識できないほどの音量になっていた

意識が遠のいていく

視界がぼやけていくなか、光の中で輪郭が結ばれていく

意識の途切れる最後の瞬間、私が見たのは

祖父の顔だった

『光のなかの闇』へ 続く

THE LIGHT ~三度目の光~

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