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暗闇に灯りがひとつ
画面テレビの前にわたしが座っている
平面的にしか映像が映らない、一世代前のデジタルなテレビ
今ではホログラムテレビが一般的だ
こんな古いもの 家にあっただろうか…
そしてなぜか私は"小さなわたし"を俯瞰で見ている
黄色い帽子を被り、まだ元気いっぱいに遊んでいた小学生のわたし
小さな視線の先には祖父が映っていた
様々な楽器の中心で指揮棒を振って、演奏をしている
"わたし"はハミングをしながら、それを聴いていた
いや…何かおかしい…
祖父は髭を伸ばさなかった
でも…画面の中の祖父は真っ白な髭をたくわえている
なら、この指揮棒をもったこの人は……?
よく見えない
小さなわたしは画面に顔を近づける
さっきまで見えていた顔がぼやけて見える
目をこするとさらにぼやけてしまう
いつの間にか視界が白一色に染まっていた
浅野
やっとそんな単純な言葉が口から零れた
重たいパソコンのようにゆっくりと脳が覚醒していく
再び現れる顔…しかしそれは……
浅野
松本
自分の叫び声がズキリと頭痛を呼び起こす
浅野
ふたりして脳に響く痛みに、しばらく悶絶していた
松本
頭に巻かれた包帯をさすりながら先輩が低い声になる
浅野
松本
先輩によると、あの後私たちは火災に巻き込まれたらしい
依頼主が心配して様子を見に来てくれたのが幸いしたようだ
とにかく、生きている実感があるのが心の底からうれしい
死んでいたらわからないのだけど…
浅野
松本
浅野
松本
やはり先輩は何か知っている
私が口を開こうとすると…
松本
浅野
松本
いつになく弱々しいその声は、確かに先輩が発していた
松本
松本
松本
手をひらひらさせながら背中を見せる
先輩はいつもの調子に戻っていた
…しっかり休めよ
浅野の病室を出て、退院の手続きを済ませてから自分の病室へと向かう
あいつを巻き込むわけにはいかない
足音が白い廊下に冷たく響く
まったく……
お人好しがすぎるな…
どっかで頭でもぶつけたか…?
『ブブッ』
松本
きっと会社の奴らからだ
俺は確かめもせずに電話に出る
松本
『………』
返事がない
ただただ耳障りなノイズが流れている
いや……
ちがう
俺はこれを知っている
忘れもしない
あのゴーストが発見された日-
ジ ッ
突然 廊下の電気が落とされる
俺はさっと振り返る
…誰もいない
そう 誰一人いない
人の気配が病院から失せていた
なんでお前が存在してるんだ…
チリリッ
廊下の奥の蛍光灯がパッとひとつ灯る
ぼうっと白い床が照らしだされる
暗闇に現れた光は本来、安堵すべきもの
しかしその光は、こちらに手招きをしているような不気味さを隠していた
俺はゆっくりと後ずさる
光は待ちかねたように手前の灯をまたひとつ灯す
少しずつ光の道がこちらにのびてくる
獲物を追い詰める捕食者のように
かかとに何かがあたる
ちくしょう……
これ以上は後ろにいけない
突き当たりだ
覚悟を決めてゆっくりと目を瞑った
そして、最後の光が俺を照らした
……
…………
……?
何も…起こらない……?
恐る恐る目を開く
廊下には光が灯っていた
しかし他におかしな所はない
はは…と乾いた笑い声がでた
緊張の糸が切れ、体の力が抜ける
何だなんともないじゃないか…
安堵して後ろの壁にもたれかかった
……はずだった
スッと体が浮遊感に包まれる
咄嗟に首を後ろに回す
後ろにあるはずの壁がなかった
代わりにあったのは…
口が大きく空いた虚空の闇
そのまま俺は闇に引きずり込まれた
『白い記憶』へ 続く