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放課後の校舎裏。 やわらかい日差しが降り注ぐなか 俺は彼女を待っていた。
秋保 楓花
現れた彼女は、どこか遠い目をしていた。
俺を見てるのに、まっすぐ見てない。 そんな顔、見たことなかった。
及川 徹
彼女に、わざとらしいくらいの笑顔が浮かぶ。
秋保 楓花
その言葉が、耳に入っても 意味をなさなかった。
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
さえぎるように言われて 俺の言葉が止まる。 彼女は、小さく息を吸って 目を伏せた。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
彼女は、顔を上げなかった。
及川 徹
気づいてた。 彼女が、ずっと無理してたこと。 体調がよくないのに、「平気だよ」って笑ってたこと。 目の奥にずっと隠してた、不安とか、痛みとか――。
及川 徹
秋保 楓花
秋保 楓花
ただ、彼女の背中を見送った。 歩いていく、華奢な背中が 小さく、小さくなっていくのに。 追いかけられなかった。
ただ、胸の奥が 空洞になっていく音だけがした。
世界から、色が消えた。 そんな気がした。
翌日の昼休み。 空気がざわつく廊下を 俺はまっすぐ歩いた。
教室の前で、笑いながら友達と話していた――絵梨奈。 その笑顔を見た瞬間 ドライアイスのような感情が湧き上がった。
及川 徹
俺の声は、いつもより低くて 冷静すぎるくらいだった。
周りの子たちがざわつくのを感じながら 彼女は一瞬きょとんとしたあと 「うん」と頷いた。
屋上へ続く階段の踊り場。 人気のない空間に、冷たい空気が流れる。
及川 徹
言葉を選ばずに、ストレートに切り込んだ。 絵梨奈は、ほんの一瞬だけ表情を曇らせたけど、すぐに笑顔を作った。
絵梨奈
及川 徹
絵梨奈
ぼそりと絵梨奈がこぼした。
絵梨奈
及川 徹
及川 徹
絵梨奈が唇を噛んだ。
及川 徹
言い切ったあとで、重い沈黙が落ちた。
絵梨奈
及川 徹
◈◇♡◇◈**:;;;;;;:**◈◇♡◇◈**:;;;;;;: 誰もいない音楽室のピアノの前で あたしはひとり、窓の外を眺めていた。
さっきの会話が 頭の中で何度もリピートする。
「楓花を守りたい」 「誰が何を言っても関係ない」 「突き放されても、信じたいって思える相手なんだ」
……あんな顔、初めて見た。 昔から、徹は“誰にでも優しくて” “ちゃらくて”“モテる”男だった。 本気なんて、わかりにくい人だったのに――
あの時の瞳は、真っ直ぐで、強かった。 楓花ちゃんに向ける感情だけは 嘘じゃないって、すぐに分かった。
悔しかった。 悲しかった。 中学のときからずっと見てた背中が あたしじゃない誰かを向いてることが 認められなかった。
絵梨奈
楓花ちゃんは、徹が好きで 徹も、楓花ちゃんが好きで。
ただ、それだけだった。
それを、あたしが勝手に踏みにじった。
傷つけたのは、楓花ちゃんだけじゃなくて 徹もだった。
あたしは、ずっと “徹の特別になりたかった”。 でもその“徹”にちゃんと 向き合ってこなかったのかもしれない。
別れ話のあと。 それからというもの、俺と楓花は 一言も話していない。
同じクラスなのに、まるで透明な壁ができたみたいだった。 朝の挨拶すら交わせないまま 何日も過ぎていた。
俺が話しかけようとすれば 彼女は気づかないふりをした。
何度も目が合いかけて すぐに逸らされた。 声に出せない想いが 教室の空気を張り詰めさせていた。
そんな日々の中で 再び彼女は学校を休み始めた。
最初は「風邪かな」と誰かが言っていた。 けれど、二日経ち、三日経っても 彼女は戻ってこなかった。
不安が胸の中で膨らんでいく。
なんで、話しかけなかったんだろう。 なんで、ちゃんと謝れなかったんだろう。
——何を怖がってたんだ、俺。
楓花が、また何かをひとりで抱えているんじゃないかって思うだけで、胸がざわざわする。
そして、確信する。 このままじゃ、だめだ。 ……会いに行かなきゃ。
何があっても、今度こそ向き合わなきゃいけない。 今度こそ、彼女の心の奥まで ちゃんと届くように。
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