外で小鳥の鳴く声がする
カーテンごしに感じる光
いよいよこの日がやってきた
昨日の夜 寝られないと思っていたけど
いつの間にか寝ていたみたいだ
時計を見ると5時48分
寝不足だけど、気分は最高だった
元気よく布団を飛び出して
鏡の前に立つ
気合を入れるため頬をパチンと叩いて
鏡に映る自分に笑いかけた
佳奈
昨日決めておいた服が
頑張りすぎてるかな、なんて思って
また白紙に戻して考え直す
大丈夫 集合時間の10時まで まだまだ時間はある
って思ってたけど
佳奈
お母さん
お母さん
佳奈
ネックレスはさすがに気取りすぎか…
そう思って棚にそれを置く
お母さん
お母さん
結局、つけてきてしまった
大丈夫かな
変に見えてないかな
スカート短すぎたかな
ネックレスって引かれないかな
いいんだ
今日は、デート、だもん
しっかりしたあの人は
きっかり10分前とかに ついてるんだろうな
通行人がいなければ
鼻歌でも歌いたいところだが
早歩きで我慢しておいた
やっぱり、いた
後ろ姿までかっこいいとか反則でしょ
お母さんに貸してもらった 大人な腕時計を見ると
9時55分
いい時間だ
1度立ち止まって、深呼吸
たぶん顔は赤く染まっているけど
急いで来たと
そういうことにしておこう
佳奈
海斗
海斗
体中の血液が顔に向かうのを感じる
佳奈
海斗
彼がいたずらに笑う
佳奈
海斗
海斗
クールな彼が珍しく照れている
私だけにみせてくれる
いたずらな笑みや照れ隠し
その全てが大好きで
でも恥ずかしくて
まだいい、まだ大丈夫
そう思ってここまで引きずり続けた
だけど中3にあがったら
賢くて努力家な彼は きっともう付き合ってくれない
だからこの前勇気を出して
この思いだけでも、と伝えた
まさかOKをもらえるとは
夢にも思っていなかった
それで、今デートなんだから
やっぱり思いは伝えないとダメだ
佳奈
目線は合わせられない
合わせたりなんかしたら、私、もう
海斗
佳奈
海斗
佳奈
会話が途切れる
あんなに楽しみにしてたのに
話題なんて 数え切れないほどあったはずなのに
やっぱり本人目の前にするとダメだ
海斗
佳奈
海斗
海斗
佳奈
佳奈
佳奈
佳奈
佳奈
佳奈
海斗
佳奈
上目遣い、してんなぁ、私
でもこれは一応恋人として
いい…よね?
海斗
海斗
海斗
佳奈
見ないで欲しい
照明、もっと強くして
私の火照り、隠して
佳奈
海斗
素直になれない
せっかくデート、なのに
頑張って頼んだカフェオレは
苦くて重くて
私の心まで沈めた
佳奈
佳奈
海斗
海斗
佳奈
いつもの彼とのテンポ
やっぱり心地いい
彼といると
最高に
楽しい時間は あっという間に過ぎてしまう
ジェットコースターもお化け屋敷も
彼と行けて最高に楽しかった
海斗
海斗
佳奈
佳奈
海斗
ゆっくり空に近づく私たちのゴンドラ
2人きりの、彼との最後の時間
だんだん空も暗くなっていく
佳奈
海斗
海斗
そこで区切って、地面を見下ろす
私もつられてのぞいた
てっぺんまではまだもう少しある
海斗
向かいに座る彼が
すっと私を見据える
海斗
いいかな、なのか
いい、佳奈なのか
わからないけど、彼は真剣で
彼の手がこちらにゆっくり伸びる
私の顎に触れる
手は頬に添えられ、彼の顔が
私の顔に
近づいて
私は慌てて目を閉じて
そしたら
唇に、ほのかなぬくもりを感じた
それは、他でもない彼の唇
2人きりの空間に
ひとつのキス
彼はすぐに唇を離して
恥ずかしそうにそっぽを向いたけれど
私の唇には まだ彼のぬくもりが残っていて
顔が染まっていく
夕焼けよ、どうか 私の顔を染めてください
彼にこの頬の色を、知られないため
最高だ
これは私にとって
忘れられない思い出になる
家まで送る、と言われて
もうすっかり日の落ちた街を
彼と2人歩いた
お互い言葉は発さなかったけれど
私の左手は彼の右手と繋がっていた
その時だった
何が起きたかわからなくて
だけどすごい音がして
ワンテンポ遅れて
激痛が走った
海斗
海斗
大丈夫じゃ…ない
痛い…助けて
佳奈
佳奈
佳奈
海斗
海斗
海斗
海斗
海斗
笑う気力も返事する声も
もうなかった
彼の恐怖に歪んだ顔
それが私が1番最期に見たもの
そして彼の私との初デートの思い出
それの最後は、私の死に際
なんで…
これは彼のトラウマになってしまう
忘れたいのに忘れられない思い出に なってしまう
今日のデートことのなんて 忘れられたっていいから
綺麗な私のまま忘れてほしかった…!
海斗
ずっと好きだった佳奈に告白されて
すごく嬉しくて
デートまで誘われて
俺なりに精一杯佳奈が楽しめるように
準備に準備を重ねた
デートのおすすめスポットとか
オシャレなカフェとか
調べまくって
キスも、した
とにかく彼女に喜んでもらいたかった
俺は彼女が大好きで
あの初デートを
一生忘れられない思い出にしたかった
なのに
あの大型トラック
居眠り運転で彼女に突っ込んできた
あの大型トラックのせいで
彼女は無惨な姿で死んだ
そして
あの時庇ってあげられなかった自分も憎い
あの血だらけでズタズタの彼女が
どうしても
忘れられない
コメント
2件
読んでいただきありがとうございます! 久遠さんの作品、いつも読んでて憧れてたので嬉しいです…✨✨
フォローありがとうございます(* ´ ꒳ `* ) 拝読しました とても繊細な表現で素敵です…! 甘々ラブラブで終わるのかと思いきや、最後でガクンと絶望に落とされる…落差の作り方が凄いなと思いました! フォロバさせていただきますm(_ _)m