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梅雨の走りの冷たい雨が、しとしとと大地を叩いていた。 その日の霧雨館は、いつにも増して重々しい空気に包まれていた。山奥にひっそりと佇むこの館は、元々は明治時代に建てられた洋館であり、数々の改修を経て、今は三好家の別邸として使用されている。周囲を囲む深い森、鳴き止まぬ雨音、そしてどこか鈍く響く雷鳴が、まるでこれから訪れる惨劇の前触れのようであった。 霧島志貴は、レインコートのフードを深く被りながら、館の重たい扉を叩いた。
霧島 志貴
誰に聞かせるわけでもなくつぶやいた言葉は、すぐに重く湿った空気の中に吸い込まれていった。 扉を開けたのは、無表情の老人——篠原紘一だった。
篠原 紘一
霧島 志貴
篠原 紘一
そう言って、篠原はわずかに頭を下げると、館の中へと招き入れた。 ロビーに足を踏み入れると、昔と変わらぬ重厚なインテリアと、暖炉のぬくもりが出迎えてくれた。
水瀬 駿
そう声をかけてきたのは、30代半ばの男、水瀬駿だった。スーツの着こなし、無精ひげ、そしてその眼の鋭さ——職業は明らかだった。
霧島 志貴
水瀬 駿
霧島 志貴
そこへもう一人、軽やかな足音が響いた。
相澤 玲奈
現れたのは、ジャーナリストの相澤玲奈だった。スリムなジーンズとレザージャケットという軽装にもかかわらず、彼女の表情は鋭い好奇心に満ちていた。
霧島 志貴
そのとき、階段の上から柔らかな声が響いた。
三好 美月
ロングドレスを纏った美しい女性、三好美月が姿を現した。その隣には、車椅子に座った初老の男性、三好圭吾がいた。
三好 美月
だが、その言葉に含まれていた「ごゆっくり」が、まさかあれほどの皮肉になるとは、この時点で誰も知る由もなかった。
その夜——雷雨の中、第一の殺人が起きる。