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恋人になれば自然と甘い関係になるもんだと思っていた。
蓋を開けてみると、恋人同士になった後も、俺達の関係は平行線だった。
水と油って、言葉がしっくりくる程に、全くもって交わらない。
例えば、俺が右だと言えば、小峠さんは左だと言う。
俺が距離をつめようにも、小峠さんは一定の距離を保とうとする。
その証拠に、今の俺達の関係を、ソファの座る位置が示めしている。
俺が小峠さんの隣に座ると、小峠さんは、一つ間隔を開け、少し横にずれる。俺が距離をつめると、また小峠さんは横に寄るを繰り返す。
恋人同士になれたというのに、これだと意味がない。
どうにかこうにかして、距離を埋めたい。そして、あわよくば、あんな事やこんな事もしたい。
ただ、あんな事やこんな事をする仲になる為には、距離を詰める必要があるのだが、現状詰んでる。
久我虎徹
そこで俺は、苦肉の策として、水族館デートを思い付く。
古今東西(ここんとうざい)、スマートにエスコート出来る男は、モテる。
今回のデートを成功させて、関係の進展をはかりたい。
小峠華太
肯定的な返事の割りに、小峠さんは、余り気乗りしない様子だ。
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
極道になる奴は、大抵、家庭環境に恵まれない奴が多く、俺もその口だが、小峠さんも例に漏れず、同じだったようだ。
久我虎徹
親には連れていって貰えなかったが、学校行事で連れてかれた記憶がある。小峠さんとは、年齢差があるといえども学校行事なんてどこも似たようなもんだから、一度も行った事はないだろうと思い、尋ね返す。
小峠華太
小峠華太
小峠さんの言葉が、俺の征服欲を擽(くすぐ)る。
久我虎徹
もっと、小峠さんの『初めて』になりたい。
俺の爪痕を残したい。
小峠華太
だから、この初デートは、何がなんでも成功させてみせる!
俺はそう決意した。
初デートの日、生憎、天気は雨。
水族館は屋内レジャーなので、天候関係なく、楽しめるが、どうも、水を刺された気がしてならない。
じめじめとした思考を振り払う為に、頭(かぶり)を振る。
時計を確認すると9時49分を指している。
待ち合わせは、10時に現地集合にしていたので、水族館には、10分前に着くように家を出た。
待ち合わせ場所に、既に小峠さんがいた。
久我虎徹
小峠華太
小峠さんはそう言ったが、小峠さんの持つ傘は濡れてなかった。
雨は20分前くらいから、降りだした。さっき着いたのなら、小峠さんの傘も俺と同じように、水滴がついてないとおかしいのだ。傘が濡れてない事を考えると、約束な30分前から待っていたんだろなという事に気がついた。
ただ、本人がその事を口にしない以上、此方も気づいてない素振りをするのが優しさだとして、口には出さないでおく事にした。
久我虎徹
小峠華太
水族館が開演するまで、他愛ない話を続ける。
水族館が開園すると同時に、中へと入る。
今日が平日の午前中だというのもあって、水族館は人は疎らだ。また、水族館に訪れる客層も、家族連れよりも、カップルと老夫婦が多い。
小峠華太
キョロキョロと周りを物珍しそうに見回しながら、小峠さんが呟いた。
小峠さんのその様子から、言葉通り、水族館に来るのは、初めてだったようだ。
小峠華太
小峠さんの性格上、賑やかな場所よりも、静かな場所を好む。
だから、ショッピングデートよりも、水族館みたいな場所の方が性に合うのだろう。
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
落ち着いてみて回りたいなら、時間帯は平日の午前中の方がいい。それにこういうレジャー系は、祝日関係なく、昼食後を境に、人が増えてくる傾向にある。
俺達は取り敢えず、パンフレットを片手に、館内に表示された順路順に進む。
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
水族館に入館した時は、少し興味津々といった様子だったのに、館内を回るにつれて、いつものように、返事が素っ気ないものに戻っている。
なんというか、俺との温度差を感じる。
久我虎徹
小峠華太
楽しいとは言うものの、表情はいつもの渋面(しぶつら)で、とても楽しんでいるようには見えない。
小峠華太
小峠華太
久我虎徹
小峠さんに言われて、腕時計を確認すると10時25分だった。イルカショーは、10時30分開始だ。
ショープールの場所を確認しょうと、俺がパンフレットを開こうとするのを小峠さんが止める。
小峠華太
小峠華太
入館前に、俺がイルカショーの話をしていたので、パンフレットを渡された時に、予めプールの場所を把握していたのだろう。道案内をするように、俺の前を歩く、小峠さんの足に迷いはなかった。
小峠さんの道案内のお陰で、滑り込みセーフで、イルカショーには間に合った。
開園時間から、余り時間経っていない事もあって、ショー開始直前なのに、空席が多く、どこでも座れる状態だった。
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
水族館が初めてなら、やっぱり、あの体験はしとくべきだろうと思って、理由をつけて、なんとか小峠さんを最前列席に座らせる事に成功する。
俺達が着席すると同時に、イルカショーが開始する。
ショーに主演している、イルカ達の紹介とイルカの生態についての説明が一通り終わると、イルカ達は飼育員のサインとホイッスルに合わせて、大ジャンプを披露してくれる。
イルカが飛ぶ度に、場内は歓声と拍手に包まれる。
高さ1.5mに吊るされたボールに向いて、水面から跳び上がり、嘴(くちばし)でボールに触れる。
水面から、跳び上がった後に、二回転を決めての着水。
水面から上体だけだし、立ったまま泳いだりして、イルカ達は観客を楽しませてくれる。
飼育員
ついにきた!
俺は身構える。
イルカが水槽ギリギリで勢いよく、大ジャンプ。
着水と同時に、津波のような水飛沫が観客席に向いて飛んでくる。
久我虎徹
久我虎徹
横を振り向くと小峠さんの姿がなかった。
小峠華太
俺の後ろから、小峠さんが顔を出す。
イルカが水面から跳んだ直後、何かを察知した小峠さんは、いち早く俺の背中に周り、俺を盾に、ずぶ濡れを回避したようで、俺ほど濡れてなかった。
小峠華太
ポケットから取り出したハンカチで、俺についた水滴を拭き取っていく。
大人な態度の小峠さんと、イルカを前に子供のようにはしゃぐ俺。
対照的な態度が、俺の羞恥心を煽り、急に恥ずかしくなり、俯いてしまう。
小峠さんは、そんな俺に気づかないふりをして、平素の態度で接してくる。
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
ショーが終わった後も、俺は小峠さんにエスコートされながら、館内を見て回った。
当初の予定では、俺が卒なく、エスコートして、俺に惚れて貰う予定だったのに、蓋を開けてみれば、小峠さんに、エスコートされてしまっている始末。しかもスマートに。こういう所が、俺と違って、女性にモテる由縁なのだろうな。
本当、世の中不幸だよなと痛感(つうかん)する。
久我虎徹
だからといって、いつまでも落ち込んではいられない。当初の目的を思い出す。
このデートを成功させて、関係を進展させるのだと、意気込み、巻き返しを図る。
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
休憩所に小峠さんを残し、俺は自販機で飲み物を購入する。
休憩所に戻る道すがら、どうやって挽回(ばんかい)するのかを考えながら歩く。
久我虎徹
席に戻ると、小峠さんの姿がなかった。
久我虎徹
数分待ってみるが、帰ってくる気配はない。
もしかして迷子になってるんじゃと思い、その変を探す。
探し始めて2分で、小峠さんを発見する。
小峠さんは休憩所近くのミュージアムショップで、商品を見ていた。
久我虎徹
小峠華太
小峠さんは、特大サイズのオレンジ色のチンアナゴのぬいぐるみを手にしていた。
小峠さんは、何故か俺とチンアナゴのぬいぐる見比べ始める。
小峠華太
ぼそっと、一言と呟いた。
小峠華太
チンアナゴを購入する為、小峠さんはレジへと向きを変える。
どうやら、小峠さんは、チンアナゴがいたく気に入ったようだ。
今、思い返してみれば、他のエリアの水槽は2分程度だったのに対し、チンアナゴの水槽の前で、5分くらい留まり、砂の中から出たり入ったりする姿を見ていた。
小峠華太
レジに向かう、小峠さんの口から聞き捨てならない名前が飛び出す。
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
このよく分からない口論は、小峠さんの会計が終わるまで続いた。結局、小峠さんは、ニシキアナゴ(仮)の、こてつを購入したのであった。
小峠華太
ベッドの真ん中で寝ていた俺に対し、小峠さんは横に寄れと言って、俺をベッドの端へ追いやろうとする。
久我虎徹
小峠華太
小峠さんは、ニシキアナゴ(仮)のこてつと一緒に寝るつもりなのか、自分の横に寝かせて、布団まで掛けてやっている。
いやいや、俺とこてつの待遇が、どう考えても反対だろ!
久我虎徹
小峠華太
久我虎徹
小峠華太
やっと俺の気持ちが通じたのかと思ったのは、束の間だった。
小峠華太
ベッドの下から、白に斑点模様のついた、チンアナゴを取り出してきた。そういえば、ニシキアナゴ(仮)のこてつを買った時、袋のサイズが異様に大きかった事を思い出す。あの時、こてつ以外にも、チンアナゴのぬいぐるみも購入していたようだ。
やっぱり、俺に似てるとか関係なく、カラーリングで選んでんじゃねぇか!
小峠華太
小峠華太
小峠華太
一方的に会話を打ち切ると、小峠さんは布団の中に潜り込んだ。
こうして、俺の初デートは
ニシキアナゴ(仮)のこてつに、彼女を寝とられて、失敗に終わったのであった。
久我虎徹
おわり
あとがき この前、名古屋水族館に行った時に、チンアナゴ見てたら、付き合いたての初々(ういうい)しいような、くがかぶを思い付いた。 うちが、ぬいぐるみ好きなんで、必然的に華太ちゃんもぬいぐるみ好きにされてしまう。華太の部屋は、性格と酷似してて、無駄なもん一切置かれてないけどな。華太には、キャバ嬢に言い寄られるシーンあるけど、虎徹は見ないよね。 ぴよりんチャレンジ失敗に終わった。イチゴが一番脆いようで、ラ○ュタの古代兵器の「腐ってやがる」みたいな状態になっとった。三重まで足を伸ばして、伊勢神宮行こうか思ったけどしんどかったんで止めた。 しばらく停滞する。10月は、持病かま悪化するんで、10月までにはリク消化しときたいので、リク消化しつつ、投稿出来そうならする感じ。
おまけ 小峠視点
さっきまで文句を垂れていた、久我が静かになってから30分経過した頃、のっそりと起き上がる。
俺は不貞腐れてます言わんばかりの表情で、ふて寝する久我に対し、小峠はくっくっと喉を鳴らし、笑う。
小峠華太
久我はチンアナゴのかぶとを抱っこしたまま、眠りについていた。
小峠華太
俺と違って、サラサラのストレートの髪に指を絡め、感触を楽しむ。
小峠華太
反応が面白くて、いけないとは分かりつつも、やり過ぎてしまう。
久我が寝ていて時と、久我が聞いてない時だけ、俺は素直になれる。
小峠華太
額に、ちゅっとフレンチキスをする。
小峠華太
そろっと、久我の腕からチンアナゴのかぶとを引き抜く。
引き抜いた後は、ニシキアナゴのこてつと寄り添うよにして、かぶとを寝かす。
小峠華太
俺は、久我の腕の中に潜り込む。
小峠華太
久我の温もりに包まれながら、今度こそ俺も眠りについた。
自分の腕の中にいるのが、かぶとから華太に入れ替わってた事に驚いた久我が、ベッドから落ちるのは後、5時間後の事。
おわり