約束

お坊さんがお経を読んでいる

ポンポンポン…

木魚がなっている

言うまでもない

大輝は死んだんだって

涙なんかもうとっくに枯れちゃって

今はその事実が目の前にあるだけで

ただぼーっとしている

みんな泣いてる

あの日、私が別れを切り出した後

近くの踏切で…

もうちょっとはやくカフェから出ていたら

別のカフェで待ち合わせにしていたら

あの日、別れをきり出さなかったら

後悔が次から次へとでてくる

本当に私のことが好きなのか心配になって

私が一方的に切り出した別れだった

それなのに…

…結果的に1人の命を奪ってしまった

最低だよね…

次の日

素敵な友達を持ったな…

つくづくそう思った

それからはいつも通りで でもぽっかり穴があいたような日常を過ごした

少し肌寒くなってきた9月のこと

いつも通り学校に向かっていた時

少し先に見慣れた後ろ姿があった

男の人が振り返った

確かにそれは大輝だった

涙で前が見えづらい

まず何から話そう

話したいことがいっぱいだよ…

大輝にそっと手をとられた

久しぶりだな…

あ…離れてっちゃう…

大輝は背を向けて歩き出した

そのままスッと消えていった…

たぶんあの人は自分が死んだことに気づいてないんだろう

天然だな…

私はおかしくて少し吹きだした

それ以来、私の前に大輝が現れることはなかった

それが私と大輝の最後の出会いだった

おしまい