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明日ノート

How to use this notebook ~使用法~

①このノートに書かれた「明日」は すべて現実の「明日」となる

②ただし、記された「明日」に 物理的に矛盾が生じた場合 整合性のある現実が 「明日」となる

③「明日ノート」の最初に 「明日」を記した者のみが その「明日ノート」の所有者となる

④「明日ノート」の所有者以外が 記述した場合 その「明日ノート」はそれ以降 無効となる

⑤いかなる理由があっても このノートによって生まれた 「明日」という決定事項を 変更することはできない

⑥このノートの すべての記述の末尾に 「(了)」と書き込むことで このノートに書かれたすべての事項を 保持することができる ただし 物理的に保持できない事項は 初期状態にできる限り近い状態のまま 残存する可能性がある

記述したとおりの明日が 訪れることがもしあれば

わたしはけっして ほしいままの明日を書いたりは しないだろう

綿密に入念に計画をたてて 完全無欠の未来を 書かなければならない

なぜなら明日という時間は いちどしか訪れることのない 一方通行の未来なのだから

なぜ未来の話に拘泥するのか その理由は いまわたしの目の前に

このノートに書かれた「明日」は すべて現実の「明日」となる

という趣旨の例言が付された 1冊のノートが存在するからだ

あすみ

明日ノート…

いまのわたしにとって 明日とは

恐れるべき存在ではなく 歓迎すべき対象である

数日前 わたしはクラスメイトの生見柊真と 肩をならべて帰り道を歩いていた

柊真

明日から12月だね

柊真

今年っていつから冬休みなんだろ?

あすみ

たしか24日が終業式だったよ

柊真

そっかあ

柊真

クリスマス土曜日だったもんね

あすみ

そういえば

あすみ

柊真はさぁ

あすみ

クリスマス誰かと遊んだりするの?

柊真

柊真

ううん

柊真

特には…

あすみ

24日は?

柊真

うーん

柊真

特にはないかな

あすみ

だったらさ

あすみ

わたしと街にいこうよ

柊真

柊真

いいの?

あすみ

うん!

あすみ

今年は柊真と過ごしてみたい

柊真

ほんとに!

柊真

楽しみだね

あすみ

ね!

そのときわずかに 柊真の肩がわたしにぶつかった

ふたりで顔をあわせて なんだかおかしくて笑った

ひっそりと 鼓動が早まっていたのを感じた

わたしは思いきって こんな提案をした

あすみ

ねえ

あすみ

ちょっと寒いし…

あすみ

こうしてて

あすみ

いい?

柊真

えっ

いつの間にかわたしの左手は 柊真の制服の袖口をつかんでいた

柊真ははにかみながら

わたしのてのひらに みずからの手を重ねた

柊真

嬉しい

柊真

すっごくあったかいよ

柊真

あすみの手

望んでいたことなのに 緊張とはずかしさで 顔がかーっと火照った

柊真

えへへ

柊真

今日は駅着くまで

柊真

こうしていようね

あすみ

あすみ

うん!

そのあと駅についてからも 熱気をおびた心臓は鳴りやまず

どうしようもない気持ちを 柊真にうちあけるほかないと

意を決して 運命のメッセージを送った

あすみ

気づいていたかもしれないけど

あすみ

わたし

あすみ

柊真が好きです

あすみ

いつもわたしの隣でわらってくれて

あすみ

辛い時も柊真を思い出せば苦しくない

あすみ

帰り道いっしょにいてくれることも

あすみ

今日手を繋げたことも

あすみ

ぜんぶもっともっと続けばいいと思って

あすみ

もっと柊真との時間がほしくて

あすみ

柊真の人生のなかに居たいって思って

あすみ

だから

あすみ

わたしと付き合ってください

いまにして思えば

あんなことを伝えてしまった わたしが愚かだったかもしれない

なぜなら30分後

柊真から思いがけない 返事が来たからだ

柊真

返事遅れてごめんね

柊真

好きって言ってくれてありがとう

柊真

こんなにもおれを大事に思ってくれてるって

柊真

とっても幸せなことだ

柊真

でも

柊真

おれはいまの関係性が

柊真

心地よかったんだ

柊真

恋人同士になったら

柊真

いまの関係が壊れそうで

柊真

だからあすみとは

柊真

これからも友達でいたい

柊真

あすみの気持ちは

柊真

とっても嬉しかった

柊真

でも

柊真

ごめんね

真っ暗闇

そのときの心情は 暗闇以上でも以下でもない

呼吸をすればするほど その泥濘に足をとられ 沈んでゆくような気がした

恋をするという感覚 本気で大事にしたいという この思いは

たんなる片想いに過ぎない わたしの盲信だったと

現実が無情にせせら笑う

手元の画面にうつる 柊真の「ごめんね」が 心の奥底に虚像をおとした

気がつくと朝だった

眠っているのか起きているのか それすらわからぬまま モノクロームの景色を眺めていた

机の上で 通知のこない画面を

つけたり消したりして 時間を浪費していた

ふと その下敷きになっていた ノートが目にはいる

わたしがいつも使うノートと違う柄

あすみ

表紙を開くと 「明日ノート」と印刷されており

控えめなサイズの文字で 「使用法」が記されていた

あすみ

…このノートに記された明日は

あすみ

すべて現実の明日になる…

あすみ

明日に矛盾があってはならない

あすみ

記述できるのはわたしだけ…

あすみ

わたし以外が書いたら無効

あすみ

明日は書いたあと変えられない

あすみ

(了)を書くことで内容が保持される

あすみ

つまり 明日を自由に選ぶことができる ということだ

そんな空想科学的な話は 到底信じられないし

むしろわたしが 誰かにばかにされているような 気さえした

でも それにすがるくらいしか 手のほどこしようがなかった

あすみ

わたしはペンを握って

ありえないような幸福を 想像してみた

あすみ

「明日生見柊真から 昨日の話はなかったことにしよう とメッセージがくる」

それは

一晩じゅう 頭の片隅にひっそり横たわっていた

もろい希望だった

そんなことあるわけない

ここは現実なのだから

色彩をとりもどしかけた世界は 再び白と黒の2階調になった

気がつくと新しい通知が来ていた

柊真からだった

柊真

ごめんね

柊真

あのあとおれも悩み続けちゃって

柊真

このままじゃいけないよな

柊真

どうすればいいかなって…

柊真

おれ

柊真

あんなこと言ってしまったけど

柊真

もう一度まっさらな状態で

柊真

あすみといたいって思ったから

柊真

あの話はなかったことにしよう

柊真

無理だったら

柊真

それでもいい

柊真

返事待ってるよ

文意はどうあれ

柊真からふたたびメッセージがきた それじたいが

涙が出るほど嬉しかった

ことばをそのとおりに 信じてしまうのは 愚直だろうか

でもそれは わたしにとっては光だった

そうと決まれば ほしいままの未来など 書いている場合ではない

わたしが書くべきなのは 完全無欠の未来だ

あすみ

明日ノート

あすみ

これは

あすみ

未来を変えることができるノートだ

わたしはメッセージを 返そうとしたが

ふと指をとめ 考えをめぐらせた

あすみ

…次の一手は?

あすみ

単純に柊真と仲をとりつくろっても

あすみ

結局友達でいたいと言われて

あすみ

恋人未満の関係になる

あすみ

一方的にわたしの好きを押しつけても

あすみ

柊真が振り向いてくれる可能性は

あすみ

低いかもしれない

あすみ

だったら…

あすみ

…でも

あすみ

まずはわたしが変わらなければ

「わたしは明日のテストで 生見柊真の手助けをする」

あすみ

…よし

あすみ

些細なきっかけでいい

あすみ

自然に柊真を振り向かせるんだ

わたしは机の引き出しに 明日ノートを

誰の目にも触れないよう そっとしまいこんだ

そして次にとりだすとき なにを書くべきか

ああでもないこうでもないと 頭の中で 考えては打ち消した

そうしながら 柊真におくるメッセージのことを 考えた

未来に矛盾が生まれないよう 慎重に言葉をえらぶ必要がある

でも メッセージを送るより

面と向かって話をした方が いいのかもしれない

朝日をあびる机で 柊真がノートを手に なにか書き込んでいる

その姿をみてどきっとする

昨日のこと なかったことにしてくれるだろうか

あすみ

ゆっくり忍びよって 驚かせないように傍から声をかける

あすみ

…柊真

柊真は顔を持ち上げて わたしを見た

柊真

柊真はノートをそそくさとしまって にこっと顔をほころばせた

柊真

おはよう

あすみ

おはよ

あすみ

勉強中だった?

柊真

いや

柊真

勉強というほどのものじゃないけどね…

その笑顔はいつ見ても わたしのいちばん好きな顔だった

いまもう一度面と向かって 好きを伝えたら

すこしは明日が変わるだろうか

柊真

あすみ?

あすみ

あっ

襲いかかる邪念を 頭のなかから追いだすのに 必死になっていた

あすみ

大丈夫

あすみ

なんでもないよ

柊真

そっか

柊真

あのさ

柊真

ちょっと聞きたいことがあるんたけど

あすみ

少しでも思わせぶりな 言葉をかけられると

心臓が跳ねあがる

柊真

これ

柊真

この問題だけ教えてくれないかな?

あすみ

えっ

柊真が机からとりだしたのは 学習参考書だった

柊真

これ

柊真

絶対テストに出るって

柊真

先生が言ってたからさ

柊真

あすみならわかるかなって

それは たまたまわたしが

先日解いた問題だった

あすみ

いいよ

柊真

やっぱりわかるんだ!

柊真

あすみはすごいなぁ

あすみ

ありがと

あすみ

隣座っていい?

いつものように 椅子を柊真の机に引きよせる

でもいつもと違って

わたしの緊張は どくどくと弾けんばかりに

全身をめぐった

すこしでも柊真に身体がふれると その部分がかーっと熱くなった

柊真

今日はありがと!

柊真

あすみのおかげで

柊真

今回のテストめっちゃできた

柊真

90点以上とれてたらいいな!

あすみ

それは柊真の実力だよ!

あすみ

いつもよくがんばってるもんね

柊真

いやいや

柊真

ほんとにあすみのおかげだよ

柊真

あすみはさ

柊真

塾通ってたりするんだっけ?

あすみ

わたし?

あすみ

自分で勉強してるだけだよ

柊真

でもすごいよなぁ

柊真

よっぽど勉強好きなんだなって

柊真

ほんとにそう思う

あすみ

そんなことないよ!

あすみ

またいっしょに勉強しようね

あすみ

いつでも声かけてね

柊真

ありがと!

わたしは きっとこの先も

柊真と一緒にいることができる

この 明日ノートのおかげだ

うまく使えば

柊真と一生を そいとげられるかもしれない

この距離を どんどん縮めたい

あすみ

柊真…

名前を口に出すたび 切なさに心がさいなまれる

焦ってはいけない

けれど

つい不安になってしまう

今日だって

柊真が持っていたノート

すぐにわたしのまえから隠した その理由があるとするなら

考えたくないけれど もしあれが

柊真がもっている もう1冊の明日ノートだったら

一生 このままの関係で 終わってしまうかもしれない

柊真は意図的にわたしを 遠ざけているのかもしれない

あすみ

でも…

言葉どおりの意味を 信じこんではいけない

そのうらに隠された ほんとうの心を読み取らなければ

言葉に欺かれることになる

あすみ

…明日は

わたしはペンを手にとる

「柊真と放課後にふらりと イルミネーションを見にいく」

そう

それでも信じるべきものを 信じるだけだ

あすみ

クリスマスツリー!

あすみ

すごい綺麗だね

柊真

ほんとだ!

柊真

すごく高いね

柊真

20メートルくらいありそう!

あすみ

ねえねえ

あすみ

いっしょに写真撮らない?

柊真

え!

柊真

撮る撮る!

あすみ

じゃあ

あすみ

このトナカイさんを背景に

柊真

うん!

あすみ

いくよー!

あすみ

はい

あすみ

チーズ!

柊真

あれ

柊真

なんかちょっと離れてない?

柊真

ぴったりくっついた方いいよ!

あすみ

えっ

柊真

もう一回!

あすみ

あっ

柊真

こんどおれが撮るね!

柊真

もっと寄って寄って!

柊真

おれにくっついて!

あすみ

あ…

柊真

はいチーズ!

柊真

なんかこれあすみ表情固くない?

あすみ

んー

あすみ

…もう一回いい?

柊真

あはは

柊真

いいよ!

あすみ

くっついて…

あすみ

はいチーズ!

あすみ

どうかな?

柊真

あ!これめっちゃいいね

柊真

あすみ、ありがとう!

あすみ

こちらこそだよ

日々着実に わたしと柊真の距離はちぢんでいった

けれど それは

ちぢまることはあっても けっしてなくなることのない距離だった

わたしにはそう思えた

最後の最後でつきはなされはしないか

心配はつきることがない

なぜなら柊真も 明日ノートを持っているかもしれないからだ

これは今日気づいたことだが

とんでもない事実を 見落としてしまっていた

わたしの持っている 明日ノートをよく見ると

最初のページをちぎったような 痕跡があったのだった

つまり

明日ノートは

最初から柊真が所持し なにかを書いていた

そういうことかもしれない

いや そうとしか考えられない

クリスマスのデートをする前に 柊真に問いたださなくては

わたしの計画はなにもかも 灰燼に帰してしまう

柊真

明日は

柊真

たくさんあすみと遊べる!

柊真

楽しみだなぁ

柊真

…ん?

柊真

あすみ?

柊真

なんか浮かない顔してるね

わたしたちだけが とりのこされた教室には

重々しい空気が たちこめていた

あすみ

あのね

あすみ

ちょっと聞きたいことがあって…

柊真

ん?

あすみ

柊真はさ

あすみ

このまえノートに何か書いてたよね

柊真

ノート?

あすみ

このまえ朝

あすみ

なにか書いてたでしょ

柊真

柊真

それは…

柊真

あのときのノートってこと?

あすみ

そう

あすみ

あのノートは

あすみ

なんのノート?

柊真

…それは

柊真は口ごもった

あすみ

それは

あすみ

明日ノートじゃないの?

柊真

な…

柊真

明日ノート?

柊真

…明日ノート?

柊真

明日ノートって

柊真

なんだよそれ?

あすみ

柊真はわたしに隠して

あすみ

未来を変えようとしたでしょ

あすみ

わたしを突き放すために!

わたしは目頭を熱くしながら そう言いきった

感情をおさえられない 状態だった

柊真

なんだよそれ…

柊真

なんでそんなこと言うんだよ!

柊真

…わかった

柊真

ああわかった

柊真

そんなに知りたいなら見てみろ!

柊真は冷酷にそう告げると

かばんから1冊のノートを取りだし わたしの胸元に投げつけた

そしてわたしを 睨みつけるように一瞥して

教室から出ていってしまった

あすみ

……

わたしはすすり泣きながら 床にあるノートを広いあげた

表紙を開くと そこには小さな文字が

連ねられていた

エンディングノート

もし 生見柊真が死ぬときがきたら

このノートを大事なひとたちに 開示すること

両親、すべての親戚 そして良きクラスメイトの 九嶋あすみにも

わたしは 再び絶望という名の坩堝に 叩きおとされた

わたしの身勝手な推論のもとに うちたてた現実が

わたしを欺いた

なぜ感情的になってしまったんだろう

なぜもっと 柊真に寄り添って 考えられなかったんだろう

後悔してもしきれなかった

柊真の持っていたノートは 文字通り柊真の遺書だった

ノートによれば

柊真は5年のうちに 持病が悪化して

最悪の場合死にいたる ということらしい

許されない過ちを おかしてしまった

わたしはわたしを恨んだ

それでも わたしは明日ノートを開いた

「柊真ととっておきの プレゼントを交換する」

そうすればきっと 未来が変わる

拭えない背徳感を感じつつ そっとノートを閉じた

あすみ

柊真…

なんだか

このままノートを持っているのも落ち着かない

わたしは机の引き出しをひらき そこにノートを仕舞おうとした

あすみ

…?

するとそこから 1枚の紙が出てきた

左端をちぎったあとのある 罫線入りの紙

そこにはこんなことが 書かれていた

わたしは

九嶋あすみ

わたしにはきっと幸せな未来が 訪れるように

そして

こんなノートのことなど 明日には綺麗に忘れてしまうように

それは わたしがいちばんはじめに書いた

明日ノートの最初のページらしかった

わたしは このノートのことを

すっかり忘れてしまうようにしたのだ

けれどまた 未来が変わってしまった

つまり

明日ノートの効力は まだ続いているということだ

柊真と また仲直りできるかもしれない

夜が来た

眠っているのか起きているのか わからない長い夜を過した

学校が終わってから わたしたちは街へと

足をはこんだ

柊真とわたしは 無口に並んで歩いた

でも少し歩いたところで 柊真が口火を切った

柊真

あのさ

柊真

昨日ごめんね

柊真

つい感情的になって

柊真

悪かったよ

あすみ

ううん

あすみ

わたしこそ

あすみ

あんなこと言ったりして

あすみ

ごめんね

柊真

ううん

柊真

気にしないで

柊真

柊真

よかったらさ

柊真

こうしてていい?

柊真は わたしの手をぎゅっとつかんだ

あすみ

あ…

わたしはすかさず その手を強く握り返した

柊真

えへへ

柊真

ありがと

わたしは嬉しくて 泣きだしそうになるのを

必死にこらえた

柊真

ずっとこうしてたいな

あすみ

わたしも

あすみ

…あっ

わたしは とんでもないことに気づいてしまった

柊真

どうしたの?

あすみ

プレゼント…

あすみ

家に置いてきちゃった

あすみ

どうしよ…

柊真

大丈夫!

柊真

また明日とかでもいいし

柊真

あとであすみの家に

柊真

取りに行ってもいいよ!

あすみ

え…

あすみ

ありがとう…

柊真

ごはんたべたら

柊真

おれからも渡したいものがあるし

あすみ

じゃあさ

あすみ

うちに

あすみ

来てくれる…?

柊真

えっ

柊真

いいよ!

柊真

でもお父さんとお母さんいるよね?

あすみ

大丈夫だよ!

柊真

へー!

柊真

ここが家なんだね

あすみ

ちょっと待っててね

あすみ

準備してくる!

わたしは 引き出しを開けて

ノートを開いた

すばやくこう書いた

「お父さんとお母さんに気づかれないように 柊真を部屋に泊める」

柊真

お邪魔します…

あすみ

お父さんもお母さんももう寝たし

あすみ

大丈夫だと思うよ

柊真

わかった

柊真

ありがとね

あすみ

あすみ

ちょっと目つぶってて?

柊真

柊真

うん

あすみ

あすみ

いいよ!

柊真

あっ

あすみ

これ

あすみ

わたしからプレゼント!

柊真

わ!ありがとう!

柊真

早速あけていい?

あすみ

いいよ

柊真

なにかな…

柊真

あっ!

柊真

マフラーだ!

柊真

へー

柊真

めっちゃおれ好みの色!

柊真

嬉しい

柊真

あすみ、ありがと!

あすみ

よかったぁ

あすみ

喜んでくれて嬉しい

柊真

柊真

おれからもプレゼントあるんだ

柊真

目つぶっててね!

あすみ

柊真

いい?

あすみ

うん…

柊真

柊真

いいよ!

あすみ

はいっ

あすみ

あすみ

ええっ!時計!?

あすみ

とってもかわいい!

あすみ

柊真、ありがとう!

柊真

こちらこそ

柊真

それとね…

柊真

もうひとつプレゼントがあるんだけど

柊真

これはこの質問に

柊真

「はい」って答えられないと

柊真

あげられないけど

あすみ

あすみ

なにー?

柊真

おれはね

柊真

あすみのこと、好きだ

柊真

あの日

柊真

あすみの告白を断ったのは

柊真

おれがきっと

柊真

あすみのことを不幸にしてしまうって

柊真

思ったからなんだ

柊真

あのノートを見たなら分かるかもしれないけど

柊真

近いうちに死ぬかもしれない

柊真

おれは

柊真

約束できない未来を

柊真

あすみを裏切る未来を

柊真

避けたかった

柊真

でも

柊真

やっぱり自分の気持ちに

柊真

嘘はつけない

柊真

だから

柊真

おれと付き合ってほしい

あすみ

わたしは頬に涙を落としていた

身体の熱が 涙に収斂されて流れでた

もう偽る必要などなかった

あすみ

…こんな

あすみ

こんなわたしでよければ

あすみ

付き合ってください

柊真

ありがとう

柊真

これで

柊真

おれたちは恋人同士だね

柊真

じゃあ

柊真

約束どおり

柊真

プレゼントあげるね

柊真

目をつぶって

柊真

いい?

あすみ

うん…

次になにがくるか ありもしない妄想を

頭のなかに並べたが 無意味だった

わたしの唇に 柔らかくあたたかいものが

そっと触れたからだった

柊真

目開けていいよ

あすみ

…ずるくない?

柊真

えへへ

あすみ

はじめてのキス

あすみ

柊真でよかった

柊真

ありがとう

柊真

おれもだよ

あすみ

あすみ

もう一回

あすみ

だめ?

柊真

いいよ…

柊真が言い終わるのを待たず わたしは柊真にくちづけた

荒い呼吸がかさなり わたしは柊真の口腔をあじわうように

舌を絡ませた

待ち望んでいた時間が ついにおとずれた

ベッドに2人で転がってから

絶頂を迎えるまでの時間は 一瞬だった

それからうっとりと お互いの顔を見つめたまま

やさしい夢のなかに ふたりで旅立った

すでに朝日がカーテン越しに 部屋の中を照らしていた

あすみ

柊真

あすみ

朝だよ

あすみ

今日もデートしたいな

あすみ

どこかに行こうかな

柊真の身体はあたたかい

包み込まれるような感じがする

でも

今日はなぜか少し苦しそうだった

あすみ

柊真?

あすみ

ねえ

あすみ

柊真?

呼び掛けに応じない

肩を揺さぶっても起きない

あすみ

柊真!

あすみ

柊真!!

緊急搬送されてから 6日後の朝

柊真は17年の生涯を経て 永遠の眠りについた

それを知ったとき

なにもする気が起きなかった

死を認めたくなくて

葬儀にも

お墓参りにも 行かなかった

手もとに残ったのは

柊真のくれた時計と 明日ノートだけだった

わたしは柊真のことを すこしも慮らなかったことを

後悔した

わたしもいつかけじめをつけて 死のうと思うようになった

でもある日

このままでは明日ノートを 自分勝手に使っただけだと

もういちど柊真のために 何かしたいと思うようになった

だからわたしはこう書いた

「いつか柊真の生きた証を 手に入れる」

もしそれがうまくいけば

それ以上の希望はなかった

とここまで わたしのありのままの過去を書いた

なぜ明日ノートに過去を書いたか

それは すこしでも柊真のことが損なわれたら 意味がないからだ

「記述したとおりの明日が 訪れることがもしあれば わたしはけっして ほしいままの明日を書いたりは しないだろう」

この部分からはじまって 柊真の死にいたるまで

すべてありのままの現実を書いた

もし明日ノートが まだ機能するのであれば

いや きっと機能する

ならば

今度こそ 完全無欠の未来を書く

つまり

こんな未来だ

あれから10年

わたしに希望が生まれたのは あのときお腹に柊真との 赤ちゃんができたからだ

産まれた子どもを見て 柊真みたいな男の子に なってくれたらなと思った

柊次

お母さん

柊次

今年もサンタさんくるかなあ?

あすみ

うーん

あすみ

柊くん大きくなったから

あすみ

くるかなぁ?

柊次

来たらいいな!

その子は ほんとうに柊真そっくりだった

わたしはいま あのとき自分を信じてよかったと 痛感している

柊次

朝起きたら

柊次

ほしいゲームがありますように!

あすみ

来たらいいね!

柊次

うん!

柊次

じゃあおやすみ!

あすみ

おやすみ、柊くん

いまごろ 柊真は天国から わたしたちをちゃんと見ているかな

きっと 柊真も幸せな空の上の世界に いるだろう

わたしもいま とても幸せだ

そんなことを思いつつ

調理台の下に隠していた ゲームソフトを持って

柊次の部屋の前にそっと置いた

そんな未来が

訪れるように――

(了)

最後までお読みくださり ありがとうございました

この物語は フィクションです

この作品はいかがでしたか?

330

コメント

8

ユーザー

初コメント失礼します!面白かったです。あすみの明日ノートの使い方で、愛を成就させること自体はノートに書けば一行で、できてしまうことなのに、あえてテストの手助けをするだとか、あくまで関係のきっかけとなることに使っていたところに、あすみの正義感と愛情の深さを感じました。

ユーザー
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