ドア♯１

その日はテニスサークルの飲み会だった。

テニスサークルのメンバーは私、華南(かなん)と

イケメンな瑛斗(えいと)、

ギャル風だけど純粋な千春(ちはる)。

そしてリーダーで勇敢な雄平(ゆうへい)と

運動神経も悪く大人しい結実(ゆうみ)、

ヤンキー風で小さいことですぐにキレる武彦(たけひこ)。

あとはモテモテマドンナ萌乃(もえの)に

いつも盛り上げ役の和樹(かずき)。

あと、大人しいが人一倍優しくて健気な貴弘。

楽しくやってたんだけど…

目が覚めると、そこは…

すべてコンクリートで作られた立方体の部屋。

赤いスイッチと小さな穴が開いているだけの部屋だ。

そして、サークルのみんな。

不思議な事に、あのとき瑛斗から話しかけられたあとの記憶が無い。

不安になり、皆を起こす。

みんなも他の人たちを起こして

私と同じように辺りを見回した。

私は武彦を睨み付ける。

武彦も私を睨み付けた。

それにしても、寒い…

不気味だ。

恐怖が芽生える…

結実は、パニックで震えていて、失神寸前。

誰よりも早く動いたのは、雄平だった。

ポチッ

ｸﾞｶﾞｶﾞｶﾞ…

だが…

ガチャンッ！

雄平の手がスイッチを離れた瞬間、ドアは閉まる。

頭のよい瑛斗はすぐに気付いた。

萌乃も続いて…

萌乃がそういった瞬間、小さな穴から水が吹き出てきた。

勢いはものすごかった。

もう、くるぶしのところまで水が迫っていた。

和樹は上着を脱いでドアに巻き付けた。

そして、スイッチをさわっていた雄平は指を離した。

和樹が何かを言いかけた瞬間、ドアは勢いよく閉まる。

すると、そこまで口を開かなかった貴弘が言った。

千春は貴弘が好きだった。

生きていて一番愛した相手なのだそう。

意外にも奥手な千春がこんなに泣きわめくことはなかった。

貴弘は、自分のためにこんなに泣いてくれる人がいることが嬉しかった。

武彦は何の感謝も躊躇いもなくドアの向こうに向かっていく。

続いて萌乃、和樹、瑛斗が出ていく。

放心状態の結実を雄平が連れていき、戻ってきた。

いつの間にか水は腰まで迫っていた。

死を逃れるために…仲間を見捨てる…

バンッ！

ドアが勢いよく響く。

そのとき。

チャプン。

プシュー

水が止まった。

それは、貴弘の死を表していた。

千春の冷たい声が部屋に響き渡った。