僕らは歌が好きだった。
勉強をする時も、学校から帰る時も、 起きてさえいれば歌を歌っていた。
言葉を紡ぐことはできなくても、 音色を奏でることはできる。 ……それだけで、幸せだった。
それだけで、幸せだったのに。
ある日を境に、僕らは歌えなくなった。
俺は生まれつき、不具合を孕んでいた。
悪意、敵意、殺意……そういうものに触れると、決まって動悸が激しくなるのだ。 例えそれが、自分に向けられたものでなかったとしても。 怖くなる。頭が沸騰するように熱くなり、身体から力が抜けていく。苦しくなる。
一度起きた発作を治すには、暫く横になって安静にしておくしかない。
俺はエラーを起こし、狂ったような視界の中で必死に保健室を探していた。 はやく横にならなければ、小学校の時のように気絶して、白い眼で見られることになる。 生憎処方された薬も切らしており、助けを呼ぼうにも“ 声が出せない ”。
ヤバい、気絶する……
死を覚悟した。
これで終わりなのか。 必死に生きた一生は、こんなふうに終わるのか。 大袈裟だけど、大袈裟なんかじゃなかった。 死ぬんだ、俺は。 なら、最後くらい……
意識が飛ぶ。 視界が闇に侵されていく。
情報が処理の臨界点を超える寸前。 俺は視界の端に、桃色が咲いたのを見た。 酷く鮮やかな、花だった。
Note 1. 『エラー』
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