あの日のことを、よく覚えている
猫のようにしなやかな身体から放たれる ジャンプサーブ
ネットの上に伸びた手が ボールを相手コートに叩き落とす 上がった口角を見た時、 私はそれが彼の思惑通りだったのだと 確信した バレーのことなど何も知らないのに
弾むボールの音
選手たちの掛け声。応援の叫び
久しく感じていなかった高揚感が 頬を熱くさせる
碧
疎遠になりつつあった友人からの誘い
レオ
レオが高校でバレー部の マネージャーになったことは知っていた
でも、それだけ
楽しい?とかどんな感じ?とか、 聞く勇気はなかった
聞く権利が自分にはないと思った
碧
近くに知り合いはいない 誰かに向けた言葉じゃない
コートの脇で記録を取っていたレオが 私に気付いて視線を向けてくる
少し驚いた顔をしたのは、 私が満面の笑みを浮かべていたからだろう だって、ずっと頬が降りてこないのだ
レオがこちらに顔を向けたまま、 口を大きく動かす
レオ
レオ
レオ
レオ
碧
ここからじゃ聞こえないとか、 近くの人が怪訝な目で見てるとか、 そんなのどうでもよかった
丁度試合の合間のタイミング
レオの行動に気付いた選手の1人が、 レオの視線を追ってこちらに顔を向けた
スラリと伸びた長身 汗だくの首元。少し眠そうな目 特に特徴的なのは、 トサカみたいに立ち上がった黒髪
さっき、相手のボールをネット際で叩き落とした、あの選手だった
ピーーーーーッッ!
試合再開の笛が鳴る
心臓が走る
私はまだ、彼の名前を知らない
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