白橋 沙祈
(わぁっ、大きなお屋敷!)
白橋 沙祈
(燭野(ともの)君って)
白橋 沙祈
(すごい家に住んでるんだ)
ピンポーン!
白橋 沙祈
(…………)
白橋 沙祈
(風邪が治らなくて)
白橋 沙祈
(まだ寝てるのかな?)
白橋 沙祈
ん?
玄関の横に何かがうずくまっている
白橋 沙祈
(あれは…?)
白橋 沙祈
って──きゃっ!
白橋 沙祈
(猫の死体だ!!)
白橋 沙祈
(…かわいそうに!)
白橋 沙祈
(でも、どうしてここに?)
ギィーッ、とドアが開く
燭野 彗十
──誰?
白橋 沙祈
あ、燭野君!
燭野 彗十
君は、同じクラスの…
燭野 彗十
どうして、僕の家なんかに?
白橋 沙祈
燭野君、この1週間
白橋 沙祈
風邪でお休みだったでしょ?
白橋 沙祈
高3の今の時期って
白橋 沙祈
大事なお知らせが多いから
白橋 沙祈
プリント類を持っていくよう
白橋 沙祈
先生に頼まれて
燭野 彗十
先生に?
燭野 彗十
ああ、そうか…
燭野 彗十
君は学級委員だもんな
燭野 彗十
わざわざ大変だったね
白橋 沙祈
ううん
白橋 沙祈
元気になってきた顔見られて
白橋 沙祈
安心した!
白橋 沙祈
それじゃ、お大事に
燭野 彗十
ちょっと待って!
白橋 沙祈
え?
燭野 彗十
軽くお茶でもどう?
燭野 彗十
美味しい紅茶があるんだ
燭野 彗十
せっかく来てくれたんだし
白橋 沙祈
だけど、まだ無理しない方が
燭野 彗十
体調は、もうだいぶいいんだ
燭野 彗十
ずっと誰とも会っていなくて
燭野 彗十
寂しかったから
白橋 沙祈
(ちょっ…)
白橋 沙祈
(そんな優しい笑顔…)
白橋 沙祈
(ハーフでカッコいいし)
白橋 沙祈
(少し影もあって…)
白橋 沙祈
(女子に人気あるのわかるな)
燭野 彗十
さあ、入って?
白橋 沙祈
…それじゃ、お言葉に甘えて
白橋 沙祈
ちょっとだけ、お邪魔します
コポコポ…カチャッ
燭野 彗十
さあ、飲んで
燭野 彗十
紅茶が冷めないうちに
白橋 沙祈
ありがとう、燭野君
燭野 彗十
彗十(すいと)、でいいよ
白橋 沙祈
えっ?
白橋 沙祈
じゃ、すっ、彗十君
白橋 沙祈
(うわっ…なんか照れるな)
白橋 沙祈
(お家の中も)
白橋 沙祈
(ヨーロッパのお城みたいに)
白橋 沙祈
(すごく豪華だし)
白橋 沙祈
(…でも、なんだろう?)
白橋 沙祈
(この肉の腐ったような異臭…)
白橋 沙祈
(それに、床のあちこちに)
白橋 沙祈
(いろんな虫が這い回ってて…!)
燭野 彗十
どうかした?
白橋 沙祈
ううん…なんでもない!
白橋 沙祈
紅茶、とっても美味し…
白橋 沙祈
あっ!
白橋 沙祈
(あんな大きい虫が…)
白橋 沙祈
(テーブルの上にまで…!)
燭野 彗十
ごめん、虫が多くて
燭野 彗十
今、両親が海外赴任中で
燭野 彗十
1人暮らしだから
燭野 彗十
掃除がいき届いていないんだ
ブチッ!!
白橋 沙祈
…!!
白橋 沙祈
彗十君、今、指でつぶし…!?
燭野 彗十
ああ──とても美しいな
白橋 沙祈
え!?
燭野 彗十
いや、この虫の死骸がさ
燭野 彗十
どんな生き物でも
燭野 彗十
死体は美しいよね
燭野 彗十
エゴにまみれた感情も欲望も
燭野 彗十
全て抜け去った無垢な姿だ
白橋 沙祈
す…彗十君?
白橋 沙祈
そういえば…
白橋 沙祈
玄関先に猫の死体が…
燭野 彗十
ああ、あの猫?
燭野 彗十
今朝…
燭野 彗十
近所の野良猫を僕が殺したんだ
燭野 彗十
死体が見たくてね
白橋 沙祈
ええっ!?
燭野 彗十
でも
燭野 彗十
猫や犬の死体は見飽きたかな
白橋 沙祈
(ちょっ…彗十君…)
白橋 沙祈
(一体、何を言ってるの?)
白橋 沙祈
(…あ…なんだろ…)
白橋 沙祈
(急に…頭がボウッと…)
白橋 沙祈
私…なんだか…すごく…眠…
燭野 彗十
あれ?
燭野 彗十
もう効いてきたんだ
白橋 沙祈
…効…く…?
燭野 彗十
そうだよ
燭野 彗十
君の紅茶に
燭野 彗十
睡眠薬を入れたんだ
燭野 彗十
だって
燭野 彗十
そろそろ人間の死体も
燭野 彗十
見てみたくなったから