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セーブハウスへ戻ると、中から温かい匂いがした。

きっと中原が夕飯を作って待っていてくれたのだろう。

その横で太宰が不機嫌そうな顔で敦の手を握る。

中原中也

お、あれっ、敦さん!

中原中也

おかえりなさい、今日はシチュー……

中原中也

……あ?

玄関へと走ってきた中原の顔からは、スッと笑みが消え、

その目に映るのは敦の横にいる不機嫌な太宰だった。

太宰治

久しぶりだね、中也。

太宰治

もうくたばったのかと思ってたよ。

太宰治

まだ生きてたんだ

中原中也

手前、このやろう……あの日のこと、まだ忘れてねえからな!

太宰治

君が僕に負けて泣いたこと?

中原中也

泣いてねえし、負けてねえし!

中原中也

手前こそ俺の敦さんに認められたいとか、

中原中也

散々わけのわからねえことを喚いていやがったじゃねえか!

太宰治

なっ……それは……

敦の心は完全に無であった。

仲が良いのか悪いのかわからない会話をなぜ自分が聞かなくてはならないのだと面倒になっていた。

中島敦

はいはい。喧嘩はおしまい。

中島敦

僕はお腹が空いたから、中也くん、太宰くんの分もよそってあげて。

中原中也

はあ? なんで俺がこんなやつに……

これ以上の言い争いは無駄だと気付いたのか、二人は不機嫌そうに食卓へついた。

敦の席にあったのは、美味しそうなシチューだった。

そこから立ち込めた白い湯気に、色鮮やかなにんじんなどの野菜の色、再度、彼が料理上手であることを知る。

太宰治

僕にんじん嫌い。

突如、太宰は太宰の分をよそう中原に向かって云った。

中原はふざけるなと云った後、驚くほどの量のにんじんを入れ、

中原中也

食材に感謝ができねえようなやつは、そのまま野垂れ死ぬのがお似合いだ

とかなりお怒りの様子だった。

中島敦

ちゅーやくーん。噛みつかないよー。

中島敦

太宰くんも吹っ掛けないよー。

中島敦

平和平和ー、平和大事ー。命も大事ー

と、まあマフィアらしくないことを云い、

思いっきり中原が作ってくれたシチューを頬張る。

温かい中原のご飯を食べれるのも、あと残り少ないのか、

なんて思ったが、また踏ん切りがつかなくなるから考えるのをやめる。

太宰もしぶしぶシチューを食べ始め、男三人で食卓を囲む。

黙々と、ただ時間だけが流れていった。

夕飯を食べ終えた後は、ゆっくりと時間を潰す。

めったにゆっくりすることはできないから、こう云うゆっくりできる日はとことん疲れを癒しておきたい。

と云うことで、敦は湯加減のちょうど良い湯船にどぽんと浸かった。

じわりじわりと疲れが下へ下へと降っていって、頭は天にも昇る心地だった。

このままぼうっと過ごしていたら、ふと死んでしまいそう……

そんな莫迦けたことを平然と思ってしまうのは、きっと疲れが頭を巣食っているせいだろう。

中島敦

……人を救わぬ者に、生きる価値などは、ない……

そんなことを思っていたら、本当に意識が途切れてしまった。

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