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夢鬱🪐
49
夏の終わりが、少しずつ近づいていた
朝、窓を開けると、湿った風がカーテンを揺らした
蝉の声はまだ大きい 空はどこまでも青くて、雲はゆっくりと流れている
いつもと変わらない夏の朝だった
けれど、部屋の隅に積まれた段ボールを見るたびに、俺は思い出してしまう
――もうすぐ、この町を離れるんだ
昨日、もふくんにそのことを話した
寂しいと言ってくれた もっと早く教えてほしかったとも言われた
それでも最後には、これからも連絡を取ろうと約束してくれた
その言葉が嬉しかったからこそ、今はまだ、いつも通りに過ごしたかった
そんなことを考えていると、スマートフォンが震えた
もふくんからだった
俺はすぐに返信を打つ
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少しして、返事が届いた
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その言葉を見て、俺は自然と笑っていた
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たったそれだけのやり取り
でも、それだけで今日が楽しみになった
待ち合わせ場所に着くと、もふくんは道端の木陰で俺を待っていた
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もふくんが笑う
俺もつられて笑った
それだけで、なんだかいつもの夏が戻ってきたような気がした
俺たちは、町の中心から少し離れた道を歩き始めた
普段なら通らない細い道 塀の向こうから顔を出す植物 日差しを避けるように、道の端で丸くなっている猫
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もふくんは楽しそうに笑った
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くだらない話をして、ふたりで笑う
本当に、いつも通りだった
こんな会話を何度しただろう これから先、何度できるだろう
ふと、そんなことが頭をよぎった けれど俺は、その考えをそっと追い払った 今は、まだ 隣に、もふくんがいるのだから
昼が近づくころ、俺たちは小さな公園にたどり着いた 遊具は少し古びていて、ブランコの鎖が風に揺れている 俺たちは近くの自動販売機で飲み物を買い、木陰のベンチに腰を下ろした
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そう言いながら、もふくんは飲み物を一口飲んだ 俺も真似して、冷たい缶を頬に当てる
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もふくんの笑い声が、公園の静けさに混じった しばらく、ふたりで何もせずに座っていた 遠くから子どもたちの声が聞こえる 木の葉が揺れる 雲が、ゆっくりと空を横切っていく いつもなら、何か話題を探していたかもしれない でも今日は、不思議と沈黙が気にならなかった 隣に誰かがいる それだけで、時間はちゃんと流れていく
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もふくんが口を開いた
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俺は、少しだけ背筋を伸ばした
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もふくんは空を見上げた
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その声には、寂しさだけじゃなく、少しの期待も混じっていた
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もふくんは笑った
その笑顔を見て、俺も少しだけ安心した 離れることは、寂しい でも、離れた先に何もなくなるわけじゃない 俺たちには、これからも話せることがある 一緒に行きたい場所も、まだたくさんある そう思えたら、ほんの少しだけ、前を向ける気がした
公園を出たあと、俺たちは川沿いの道を歩いた 午後の光が水面に反射して、きらきらと揺れている 風が吹くと、草むらがさらさらと音を立てた
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もふくんが言った
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俺たちは並んで歩いた ときどき水面を覗き込んだり、流れていく雲を眺めたりしながら 何か特別なことをするわけでもない 遠くへ出かけるわけでもない ただ、いつもの町を歩いているだけ なのに、今日は何もかもが大切に思えた
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もふくんは俺を見た
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少し照れくさくなって、俺は笑った
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もふくんはしばらく黙っていた
それから、柔らかく笑った
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その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった
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もふくんは、いつもの穏やかな声で続けた
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俺は大きく頷いた
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ふたりで笑った いつか離れてしまうことを、なかったことにはできない でも、離れる前から、離れたあとの約束をしてもいい そのことが、少しだけ嬉しかった
夕方、空がオレンジ色に染まり始めたころ 俺たちは、いつもの待ち合わせ場所へ戻ってきた ここで会って、ここから歩き始めて またここへ帰ってくる いつもと同じ一日の終わり
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もふくんは、少し照れたように笑った
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その言葉に、俺はすぐに頷いた
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もふくんは手を振って、帰り道を歩き始めた
俺も手を振り返す いつもなら、姿が見えなくなるまで見送ったりはしない 「また明日」と言って、それぞれの家へ帰る それだけだった でも今日は、もふくんの背中が角を曲がって見えなくなるまで、なんとなくその場を動けなかった 明日も会える 明後日も、まだ会える それなのに、いつか来る最後の日のことを考えてしまう
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小さく呟いて、俺は歩き出した 今から寂しがっていたら、もったいない もふくんと一緒に過ごせる時間は、まだ残っているのだから
家に帰ると、部屋の隅には相変わらず段ボール箱が置かれていた 少しずつ荷物をまとめなければいけない 出発の日も、もう遠くはない 俺は箱の前に座り込んで、しばらく何もせずにいた 今日のことを思い返す 猫を見つけて笑ったこと 公園で飲み物を飲みながら、のんびり過ごしたこと 川沿いの道を、ゆっくり歩いたこと どれも、誰かに話したら「普通の一日だね」と言われるようなことばかりだ でも、俺にとっては もふくんと一緒に過ごした、忘れたくない一日だった スマートフォンが震えた
俺はすぐに返事を打った
『俺も! また明日ね、もふくん!』
送信して、スマートフォンをそっと置く 窓の外では、蝉がまだ鳴いていた 夏は、もう少しだけ続いている だから今は、明日のことを考えよう もふくんと、どこへ行こう 何を話そう どんなことで笑おう いつか、君もいない街で暮らすことになっても 今日みたいな一日が、きっと俺を支えてくれる 君が隣にいてくれたことを、何度でも思い出せるように ――明日も、君に会いに行こう そう思いながら、俺はゆっくりと窓を閉めた
コメント
1件
うわあ……もう、すごく切なくて、でも温かかったです🥀🤍 「いつも通りの一日」がこんなにも愛おしく感じられるのは、離れることが決まってるからこそなんだなって。公園のベンチで「向こうの町ってどんなところ?」って聞くもふくんの声に、寂しさと期待が混ざってるのがすごく伝わってきました。川沿いの道を歩きながら、「今日みたいな日をこれからも作ろうね」って言える関係、尊すぎます…… 明日も会えるのに、もう大切にしたくて仕方なくなる。そんな気持ち、すごく分かります。続きがどうなるか、ちゃんと読ませていただきますね🌙