桃side
俺は現在、とんでも無い壁にぶち当たっていた。
転入生だと言えば当たり前の出来事なんだけど__クラスに向けての自己紹介をしなければならないのである。
奇跡的にまろと同じクラスにはしてもらえたけれど、やっぱり前の高校でのちょっとしたトラウマとかもあるから、正直みんなの前に出るのは怖い。
みんなからブスが来たとか、芋くさいのが来たとか、思われないだろうか。
ホームルームの最後で呼んでくれるという話だったが、担任の話が徐々に過ぎていくたびに不安と緊張が高まって足が震えてくる。
担任
背中をつけていた教室の扉の奥から、そんな声が聞こえてきた。
俺はギュッと自分の胸の前で拳を握り、唇を噛んで足に力を込める。
ないこ
担任
担任の声に合わせて、高まる動悸を抑えながら教室の扉をガラリと勢いよく開けた。
見えた景色は自分でもどんな感じかわからなかったが、その中で窓際の端の席にまろが座っているのを確認する。
見知った顔を見たからか、なんだか少しだけ緊張が和らいだ気がした。
ないこ
最初は静かにしていた教室の生徒たちは、俺の一言からこそこそと話し始めて、最終的にはザワザワと大きな騒がしさへと変わっていた。
女子1
女子2
女子3
男子1
男子2
ないこ
みんなが騒がしくなってしまったこの状況をどうすれば良いのか、あと自分は何を話せば良いのか。 混乱し始めて、俺は口籠る。
担任
担任がパンパンと手を叩いて、生徒の視線を自分へと向かせた。
担任
担任
ないこ
慌てて一度深々とお辞儀をすると、自分の鼓膜に教室のあちこちから拍手の音が入ってきた。
ゆっくりと顔を上げると、生徒たちが「よろしくね!」と声を俺に投げかけながら手を叩いてくれていた。
経験したことのない歓迎ぶりに、心の奥がジンと熱くなって瞳に涙が溜まりそうになる。
首を振ってなんとか涙を引っ込め、ニコリと微笑んでみせると、なぜか女の子たちからの悲鳴が小さくだが聞こえてきた。
ないこ
ないこ
女子3
一人で百面相しながら勝手に悲しんでいると、担任が「お前ら一旦落ち着け?」と呆れたように生徒へそう言い、一つの席を指差す。
担任
ないこ
そういえば黒木が二人いるから担任は最初から俺を名前で呼んでるんだなと一人納得し、俺は指定されたまろの隣の席に腰掛ける。
まろの隣で良かったと小さく息を吐いて安堵しつつ、頬杖をかいて右手の人差し指で何やら机を叩きリズムを取っているまろを横目でみる。
パチリと彼と視線があった。
まろはふふっと笑うと、俺に向かって口元を緩ませる。
すると窓から突如風が吹き、黄色いカーテンがふわりと揺れ、元々顔の良い笑顔が太陽の光でさらに美しいものへと進化した。
その姿に一瞬見惚れていると__気づけばホームルームは終わっていたらしく、俺の机目の前にはたくさんのクラスメイトたちが集っていた。
女子1
女子2
男子1
ないこ
グイグイと迫ってくるクラスメイトたちに気圧されて、俺は椅子に座りながらも後ろへと後ずさる。
聖徳太子でも無いんだから、そんなたくさん言われたところで聞き取れないんだけど?!
どうやってクラスメイトたちを一度静かにできるのか悩んでいると、ふと背後から頭に何かが乗る感覚がした。
いふ
いふ
ないこ
左肩を掴まれて体重が乗って、右手は優しくまろの手に絡め取られる。
なぜ俺たちはお互いの名前を知っているのか、知り合いなのか、と思っていることが全部顔に書いてあるほどわかりやすいクラスメイトたちの反応に少し笑いそうになりつつ、彼らの言葉を待つ。
すると一人の男の子が「あっ」と声を出して、俺とまろを交互に指差しながら何かを思い出したように言った。
男子2
男子2
いふ
女子3
突如として興奮し始めたクラスメイトたちに若干困惑しながらも、俺は助け舟を出してくれたまろに小さく耳打ちをして「ありがとう」と伝えた。
いふ
耳元で小さく返事が聞こえてくる。
すると後ろの扉から担任とは違う教師が顔を出し、「いふ来てくれないか」と彼を手招きした。
いふ
ないこ
「じゃあね」と片手を振って出て行った彼を見送っていると、 同じくまろを見送ったクラスメイトの一人の女子が、ポツリと呟いた言葉が聞こえてきた。
女子1
ないこ
女子2
男子1
ないこ
驚くべき事実に目を丸くした俺を、見たその男子が笑ったので、俺は恥ずかしくて少しだけ俯いた。
だがすぐに彼は 情報を提供してくれる。
男子1
男子1
男子2
ないこ
俺の知っているまろはほとけっちとよく喧嘩してて、ぽえぽえってよくわからない言語言ったり、必要以上に距離が近かったりする、ちょっと困った奴だ。
でも学校だとそんな別人みたいな性格だったなんて__
男子1
いや、もしかしたらこの男の子が言っているのが本当のまろなのかもしれない。
俺はまろのことをよく知らない。
夏休みの期間で知ったつもりでいたけれど、本当は全然知らないんだ。
アニキのことだって、ほとけっちのことだって、初兎のことだって・・・・・・きっと、りうらのことだって。
まだまだ知らないことがたくさんあるんだ。
教師
いふ
そんな会話が教室の後ろの扉の向こうから聞こえてきて、まろが扉を開けて帰ってくる。
それと同時に「始業式始まるぞー」と担任がファイルを脇に挟みながらやってきた。
男子1
ないこ
初めての「またね」を言えて感動している半面、席に着いたまろをジッと見つめていると、再び彼と視線があって、今度は笑顔ではなく困惑の表情を浮かべた。
いふ
いふ
ないこ
俺がそう返すと、いふはもっと混乱するような表情を顔に浮かべる。
担任から体育館に移動するように指示が出された。
『真面目で人を頼ろうとしないんだ』
さっきの男の子の言葉が俺の脳内で何度も繰り返される。
もしかしたらどれが本当のまろなのかは、まろ以外に知っている人は存在しないのかもしれない__
あくまで憶測にしか過ぎないが、俺はそう感じたのであった。
コメント
2件
すげぇ最高!!
ここまで一気読みさせて頂きましたが…最高でした!! 続き待ってます!!頑張ってください!!