この作品はいかがでしたか?
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この書斎に入りどれほど時間が経ったか
おかげで色々と分かったことがある
まず何故深淵の主の亡骸をこの国は見つけられたのか
それは至極単純でこの国は深淵で滅んだ国の上に建っているからだ
長い年月をかけてあの国は土などで埋もれその上に建ったこの国がその存在を知ったのだろう
この辺に落ちている文献もその国から取ってきたものもあるだろう
では次に先程襲われたあのゼリー状の黒い物体はなんなのか
あれはこの国が実験して生まれたいわゆる深淵の子供とでも言おうか
本体から摂取した深淵を解析しそれを人工的に再現したものがアレだ
恐らく軍事利用でもしたかったのか
しかし現実はそう上手くは行かない
結果的に滅びを招いたのだから
その深淵の子供のようなものも実験記録がこの書斎から見つかった
内容を見る限りやっぱりな…と思うものである
あれ自体には特別名前なんて与えられてはいないようだ
研究者たちはそのまま”深淵の子”と呼んでいたようだが…
ここではスライムと呼ぶことにしよう
そのスライムの特徴だが前提として深淵を蓄えていることだ
ではこのスライムが誰かにまとわりつくとどうなるか
誰しも予想した通り深淵に飲まれることになる
深淵に取り込まれるとそこに自我はなく、ただ本能で行動する生き物に変わる
人間などがいい例だろう
さて、ではここでひとつ疑問が湧いてくるはずだ
そもそも深淵って何?
これについては答えが見つかっている
深淵の正体は一種の承認欲求のようなものと思ってくれていいだろう
例えば人にスライムがくっついた時顔が肥大化し蜘蛛のような見た目に変わる
いわゆる変態したと言えるのだ
この時この姿になる理由として挙げられるのが見て欲しいという欲望
承認欲求だと思われる
誰からも興味を引かれるそんな見た目に変わるのが証拠になるだろうか
しかしその欲も求めすぎると毒となりまた狂気にと変わる
だから結果としてこの深淵の主は暴れだしたのだろう
自分という存在を認めて欲しくて
なんとも悲しい話である…
これがひとつの魔法から生まれた副産物
その副産物が厄災となるとは当時の人々は思いもしなかっただろうに…
とにかく深淵の正体も掴めたのでこの場を後にし下層にと進むことにする
きっとこの問題の中心にいるのは深淵の主だと言うのは確実だ
亡骸で見つかったはずだがこの国もまた何らかの方法で生き返らせたのだろう
予想できるのは先程のスライムを生み出しそれを深淵の主に分け与えることで生命を吹き返したということだ
あのスライム自体は知的生命体とは言い難く本能に従ってるはず
つまりこの国の者の命令を聞くかと言われればそうはならないだろう
むしろ国の者を襲うはずだ
元になってるのが深淵の主ならばそうなる運命だろうな
そうなると本体を蘇らそうと動くはずだ
だから至る所に深淵に取り込まれた人間が徘徊してるって訳だ…
まぁ、あくまで予想の域を過ぎない
真実は下層に埋まっている
エヴィエニスと共に部屋を後にし下に下にと進んでいく
なるべく下をめざしていた時エヴィエニスが足を止めた
突然足を止めたものだから驚きはしたがすぐに辺りを警戒する
獣の勘は神や人よりもよく当たる
野生ゆえの突出した個性とでも言おうか
もちろん物の見事にその野生の勘は当たりを引く
突如地面からあのスライムが幾匹も現れたのだ
このスライムにまとわりつかれたが最後自由を奪われ為す術なく滅ぶことになる
ルウスは剣や盾がある分なんとかなるが
エヴィエニスは狼だ
剣も盾もないため攻撃すること自体にリスクがあるのだ
今まではせいぜい3匹程度だったが今回は少なくとも20はいる
それらを相手にするのはかなり難しい
さらに言えばエヴィエニスはこのスライムとの相性も良くない
実質的な一対多数という状況
幸い襲い来るのに時間が掛かっている
ルウスは少し思考したあと縦を捨てた
正確に言えば盾をエヴィエニスに渡したのだ
ルウスの盾は魔を寄せ付けない刻印が入っている
それをエヴィエニスに渡しその先はルウスたった1人で行こうというのだ
元々1人であったルウスにたまたま助けてくれた狼エヴィエニス
しかし彼女と深淵は全く関係はない
関係ないものをこれ以上巻き込む訳には行かなかった
だからルウスはその盾をエヴィエニスに渡し1人最後の決戦にと足を運ぶ
エヴィエニスもそれを察したのか今まで1度もルウスに吠えなかったのに
初めて反抗の意図を持ってルウスに吠え続けた
彼女のその声をルウスは聞こえていたが無視をして先に進む
この国のものたちのような犠牲を減らすために……
ある程度進むと城内の壁に異変が訪れた
明らかに風化しているものや苔が生えてるものヒビが入ってるもの
それらが数多く見られるのだ
恐らくこの辺りからが古の国城内ということだろうか
辺りの様子が変わるだけでなく空気感もかなり変わっている
温度の冷たさではなくいわゆる悪寒などに近しいだろうか
この区域に足を踏み入れてからその寒さがどうも離れない
とにかく今自分がいる場は相手の区域
いつどこから襲われるかそれは分からない
だからこそ常に気を張っていないと一瞬で死んでしまう
警戒を解かずに確実に一歩ずつ進んでいると、ある場所で道が途切れている
それが地下に続く螺旋階段の途中である
その下は何も見えぬいわゆる闇という世界が広がっていた
この先に深淵の主が居るはずだ
そう確信したルウスは戸惑うことをせず闇の中にと飛び込む
一定の高さまで落ちると地面らしきものに足が着いた
その後すぐに辺りを警戒する
すると軽く4mはあるだろう人型の何かが4体現れた
彼らは自らを【深淵の虚王】と名乗る
主の居場所を聞くがそれに答える気はなかった
代わりに明らかな殺意を持ってこちらを襲いくる
主に近づくためにはこの虚王を倒さなければならない
数で不利なうえ身長差でも不利
こちら側に勝つビジョンは見えなく絶望的でしかないが
それでもやり遂げなければならない
王の為…世界のため…そして何より………
置いてきたエヴィエニスの為に
盾を捨てたルウスはその大振りな剣を巧みに扱い三人の虚王を仕留める
最後の一人と殺り合う時には息も切れ切れであった
その満身創痍な状態でも戦う姿勢だけは捨てずただ虚王を見る
少しの間の後虚王が突如口を開く
そして放った言葉にルウスは驚愕した
【狼の命はこちらにある】
恐らくその狼はエヴィエニスで間違いはないだろう
続けて虚王は深淵と契約を結べば狼の身は案じてやるとのこと
それが受け入れられぬのならば狼の身は少なくとも無事では済まない
つまり戦いをやめろというのだ
戦いをやめればエヴィエニスの身は助かる
しかし代償として王とエヴィエニスの裏切ることとなる
選択肢はふたつにひとつ
たった1匹を救うためにあまたの犠牲者を出すか
大勢の者たちの命を救う代わりに自分の命を救ってくれた者を犠牲にするか
責務を全うしないといけない
だが……
ルウスはその両方を取った
虚王の言葉を信じずその命を狩りとった
虚王を倒し終えると辺りが明るくなっていった
明るくなった先に見えたものは地底湖の上に立つ何者か
直感的にそれが深淵の主というのは察せられた
残念ながらルウスにはもう戦うほどの体力は残っていない
強敵に次ぐ強敵…
ルウスの体はもう立つことが手一杯なほどの傷を負い
戦闘継続は不可能と言っても過言ではない
そんな満身創痍なルウスに深淵の主は近づきただ何かを呟いた
ルウスが深淵と戦い数多の時が流れた
彼の安否は確認できてはいない
しかし言えることは深淵の主の存在はこの世から失われた
帰ってこない彼にはある勲章を渡された
そして神の国ではルウスの名がより多くのものに知れ渡り
騎士たちの憧れの存在となった
帰ってこない彼を思う人々は彼に関する文献なりを調べあげ
巨大な彫刻を掘り出しそれを崇め奉った
いつしかルウスは騎士ルウスではなく
英雄ルウスと語り継がれ、それは書物にと書き写され後世にまで残した
コメント
1件
ルウスがどうなったかは皆さんのご想像にお任せします