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妃翠が生まれた日のことを、家族は今でもよく覚えている。
妃翠は生まれたとき、首に臍の緒が巻きついていた。
体も小さく、まだ十分に成長していなかったため、生まれてすぐにNICUへ入ることになった。
小さな体にたくさんの管。
ガラス越しに見守るしかない家族の胸は、不安でいっぱいだった。
おばあちゃんも、お父さんも、毎日のように様子を見に来てくれていた。
それでも、妃翠がいちばん安心するのは、お母さんの声だった。
妃翠は、お母さん子だった。
妃翠には、姉と弟がいる。
姉の名前は瑚柏(こはく)。
弟はまだ幼く、いつも元気いっぱいだった。
姉と弟はお父さんにそっくりで、
不思議なことに、妃翠だけがお母さんにそっくりだった。
目元も、笑い方も、どこか柔らかな雰囲気も。
家族はよく言っていた。
「妃翠は本当にお母さんに似てるね」
その言葉に、お母さんは少し照れたように笑っていた。
けれど――
その「そっくり」が、やがて悲しい出来事を引き起こすなんて、
このときは、まだ誰も想像していなかった。
体の小さな妃翠は、お母さんのミルクを飲んで、少しずつ大きくなっていった。
妃翠という名前は、姉の名前が瑚柏だから付けられた。
宝石のようにきれいな名前を並べたい、という家族の願いからだった。
小さな命。
小さな体。
それでも確かに、家族に囲まれて生きていた。