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花梨
148
江戸川コナン
深緒は顔を上げなかった。
江戸川コナン
言いかけて、止まる。何を言っても軽くなる気がした。 深緒は小さく首を振る。
松田深緒
江戸川コナン
松田深緒
掠れた声だった。コナンは眉を寄せる。
深緒は笑おうとして、うまく笑えなかった。
松田深緒
松田深緒
江戸川コナン
コナンは少し迷う。 でも。今の深緒に、自分が踏み込めないことも分かっていた。
江戸川コナン
深緒は俯いたまま、小さく頷いた。
玄関の扉が閉まる。 その瞬間、部屋から本当に音が消えた。
深緒はしばらく立ち尽くしていた。時計の音だけが響く。
やがて、ゆっくり視線を落とす。
並んだ降谷の革靴。 ソファへ掛けられたジャケット。 冷蔵庫に貼られたメモ。 全部。“当たり前”だったもの。
風見の言葉が、頭の奥で反響する。
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風見
風見
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深緒は小さく息を吐いた。 苦しい。 でも、否定できなかった。
降谷は無理をしていた。 帰ってくるために。一緒に食事をするために。 自分は、それに気づきもしなかった。
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松田深緒
松田深緒
松田深緒
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自分の声が頭の中で反芻した。
松田深緒
松田深緒
深緒はソファーへ座り込む。力が入らなかった。 静かな部屋。
いつもは、 おかえりなさいがあって。 ただいまが返ってきて。 ご飯を作る音がして。 どうでもいい会話があった。
なのに今は、何もない。
松田深緒
松田深緒
松田深緒
そこまで言ったとき、目から涙が落ちた。
松田深緒
松田深緒
小さく息が漏れる。
松田深緒
その声は、自分でも驚くほど弱かった。
深緒は目を閉じる。 瞼の裏に浮かぶのは、笑顔で深緒の名前を呼ぶ研二と、憎まれ口を叩きながら満更でもない顔をする陣平。そして
いつもどこか困ったみたいに笑う、降谷だった。
松田深緒
呼吸がうまくできない。 深緒は顔を覆った。
でも。 泣き方を忘れたみたいに、声は出なかった。
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荷造りは驚くほど簡単だった。 元々、深緒の私物は多くない。
服を畳む。仕事道具をまとめる。洗面台の歯ブラシを取る。
でもときどき、視界に入る。 降谷のシャツ。 読みかけの本。 無造作に置かれた眼鏡。 それらが深緒の胸を締めた。
深緒は静かに引き出しを開け、便箋を取り出す。少しだけ迷って、ペンを走らせた。
『今までありがとうございました』
一度止まる。それから。
『ご迷惑をおかけしてすみません』
短い文。それ以上は書けなかった。
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三日後。 深緒は、久しぶりな扉の前に立っていた。
松田深緒
兄と暮らしていた家。 鍵を回す。静かに扉が開く。
その瞬間。時間が止まったみたいだった。
家具の位置。古いソファ。壁際のラック。小さな傷の入ったローテーブル。 全部、あの日のまま。
三年も経っているのに、生活感だけが綺麗に保たれていた。埃もほとんど無い。
松田深緒
松田深緒
松田深緒
鍵穴も変わってなかった。
深緒はゆっくり部屋を見回す。 キッチンには新しいスポンジ。洗面台には交換されたタオル。観葉植物は、枯れていなかった。
松田深緒
ぽつりと零れた。
何気なく洗面台の引き出しを開けると、見慣れない封筒が入っていた。
不動産会社の名前。中には、更新契約書。
支払い名義 『降谷零』
松田深緒
この部屋は維持されていた。 三年前から、ずっと。降谷の手で。
深緒が、いつ戻ってきてもいいように。
胸の奥が痛む。 この部屋も。あの家も。降谷はずっと、深緒の居場所を残していた。
深緒は静かに目を伏せる。
松田深緒
小さく息が漏れる。
松田深緒
静かな部屋。昔、毎日していた生活。
深緒はソファーへ腰を下ろす。 視線の先のラックの端に、古い灰皿。
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松田陣平
松田深緒
萩原研二
松田陣平
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不意に、声が蘇る。馬鹿みたいな会話。
研二もよくこの家に遊びに来ていた。
松田深緒
小さく零れた声に、自分でハッとする。当然返事はない。
深緒は静かに煙草を取り出し、火をつける。 紫煙がゆっくり天井へ溶けていく。
その夜。 深緒はベッドではなく、ソファーで寝た。
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それから数日。 深緒は、また以前みたいな生活へ戻っていった。
食事はカロリーメイトと栄養ゼリー。 最近減っていた煙草の量は増え、笑顔は消えた。
夜遅くまで起きて、そのまま科捜研へ行く日も増えた。時には研究室に泊まった。
誰もいない解析室。モニターの光。静かな機械音。 その無機質さが、妙に落ち着いた。
高橋
松田深緒
高橋
松田深緒
淡々と返す。そしてポケットを探って、深緒が呟いた。
松田深緒
ぽつり。研究室の空気が一瞬止まる。
先輩
松田深緒
即答だった。高橋が目を丸くする。
高橋
松田深緒
高橋
先輩
松田深緒
先輩
深緒は少し考えた。
松田深緒
その時、別の研究員が引き出しを開けた。
同僚
差し出された煙草を、深緒は「ありがとうございます」と受け取る。
でも。箱を見た瞬間、小さく首を横に振った。
松田深緒
松田深緒
同僚
同僚
松田深緒
即答だった。その声だけ、少し静かだった。
同僚
松田深緒
深緒は箱を返す。
先輩だけが、ちらりと深緒を見た。何も言わない。
ただ。 深緒がその銘柄しか吸わない理由を、この部屋で唯一知っていた。
深緒は空になった自分の煙草箱を握り締める。
ずっと変わらない銘柄。
三年前。それを初めて口にした日のことを、深緒は今でも覚えていた。
コメント
4件
見てない間にめちゃ出ててビックリ… 大事なとこリアルタイムで見られなかったのカナシイ 複雑な『人の想い』を上手いこと描いてる。流石… 次も頑張れ!

深緒は零くんにとって大事な存在だからね😭深緒まで零くんの前からいなくならないであげて😭それから深緒も零くんが心の支えになってるんだから零くんの側から離れないで😭 投稿ありがとうございます🙏今回も最っ高でした🥹 続きも楽しみに待ってます😭👍
読んだ……しんどかった🥀 風見の言葉が重くて、でも深緒が否定できなかったのが痛い。「帰る場所を作ってしまった」って、深緒の存在を否定されたみたいな言葉で。でも降谷が部屋を維持してたって分かった時の「なんで」がすごく沁みた。全部負担だって思っちゃう深緒が苦しい。 煙草の銘柄こだわるところ、あれ降谷との思い出なんかな……読んでて胸がぎゅってなった。次の展開気になる🌙