蘇枋
桜君からこう言うお誘い
してくれるの
桜
桜
必死にこの差恥に耐えながら 絞り出した声は なんとも汐らしく、 さらに俺の羞恥心を抉った。
そんな俺を見てなのか、 蘇枋は「フフっ」と 手を口元に添え 上品に笑っていた。
何時もと変わらぬ、 同じ様な会話をしている筈なのに、 俺の心臓は高鳴り、 蘇枋の顔を直視出来ないでいる。
蘇枋は、俺の事を 恋愛対象として見ていない。 良き友人として、 俺に接していると言う事を 自分自身に言い聞かせ、 この激しく鼓動する心臓を 抑えようとした。
蘇枋
蘇枋
一瞬桜の発音が、 俺の名前に聞こえ、 ドキリと心臓がはねた。 そんな訳無いと、 再び激しく動き 収まりを知らない心臓を 俺は押さえつけた。
桜
桜
きっと聞こえてないであろう 言葉を、 胸を押えつつそっと零した。 急にピタリと 蘇枋が隣で固まった様な気がした。
桜
蘇枋
なんでもない……
その表情は笑顔であったが、 何やら何時もの胡散臭いものではなく、 硬い笑顔だった。 喋り方も、 どこがぎこちなく、 何時もの大人っぽい喋り方と 違い、年相応の言葉に見えた。
桜
桜
蘇枋
ちょっと自販機寄らない?
喉が渇いちゃってね〜
桜
お前ジュースなんか
飲むのかよ
蘇枋
蘇枋
何時もなら絶対自販機で 飲み物なんか買わないのに、 珍しくそこへ行きたいと 言い出した蘇枋に、 不信感を抱きながらも 付き合うことにした。
桜
蘇枋
している人みたいだよ
桜君……
桜
人も居ねぇし
蘇枋
蘇枋
蘇枋
桜
少し歩き続けると 微々たる光を放つ自販機が 見えてきた。 蘇枋は自販機に金を投入し、 真っ先にお茶を買った。 蘇枋が自販機に金を入れる姿は、 収まりかけてた俺の胸を、 またもやドキリとさせた。
白く長い指が、 丁寧に金を入れてゆき、 お茶を買った。 それだけなのに、 俺の心臓は打ち付けられた。
蘇枋
桜
ぶっきらぼうに そっぽを向きながら返事をすると、 ペットボトルのキャップを開け、 蘇枋がお茶をゴクリと飲んだ。 喉仏が、上下していた。 そんな姿を見つめていると、 蘇枋がこちらに目をやった。
蘇枋
蘇枋
はいこれあげる
蘇枋
桜
お前
桜
蘇枋
桜
正直、 さっきから顔は暑く火照っているし、 心臓もうるさく鳴っていて 俺の体温を上昇させて居た。 蘇枋の上着と合わせ 少しの暑さを感じていたので、 この水分は結構有難かった。
開いたままのペットボトルの口を、 自分の口に入れ、 勢いよくお茶を飲み干した。 喉に冷たいお茶が流れ込んできて、 体が冷えて行くのを感じた。
飲み干し口元を自分の腕で 拭っていると、 蘇枋が目を丸くしてこちらを見ていた。
桜
桜
欲しかったのか?
蘇枋
蘇枋
蘇枋
桜
分かんねぇよ
蘇枋
蘇枋
そのゴミかして?
無言でゴミを渡すと 蘇枋は 自分の近場にあったゴミ箱へと ほおりこんだ。
蘇枋
脱いでいいんだよ?
桜
桜
羽織っているものから、 もう蘇枋の体温は感じられないが、 ふわりと蘇枋の匂いがして、 気恥しさと共に、 少し落ち着く感じがした。
蘇枋
暑くないならいいんだけど…
辺りは静かに静まり返って居て、 蘇枋と俺の足音しか 聞こえてこなかった。 正確に言えば、 聞こえていたかも分からない。 俺の心臓の音がドクドクと 激しく脈打っており、 周りの音なんて気に ならない程だった。、
「そろそろ帰ろう。」 そう言う言葉が 口から出そうになるも、 俺の口から漏れ出ることは無かった。 蘇枋も、口を閉じ 静かに歩いているだけで、 何も言ってこなかった。
俺が誘ったんだ。 満足した もう帰ろう。 そう言わなければならない。 優しいこいつの事だ、 きっと俺が言い出すまで 何も言わないだろう。
心に括りを決め、 俺はいざ口を開こうとした。
桜
蘇枋
もうちょっとだけ
付き合ってくれる?
蘇枋
いいからさ、
桜
柔らかく笑う、 深い赤き瞳を持つこの男 の言うことに俺は 静かに、 YESと答えた。