食後、食器が片付けられると、代わりに冷えたデザートが運ばれてきた
透明なガラス皿の上には、きらきらとした翡翠色の粒
東條 絢斗
これ、マスカットっていう果物だよ
高峰理人
甘くて美味い
東條 絢斗
、、、食べてみて?
東條の声にうながされて、朔弥は一粒を指先でつまんだ
そっと口に入れると――
柊 朔弥
、、、っ!
果肉が弾けて芳醇な甘みが舌の上に広がる
それはこれまでに口にしたことのない、みずみずしさ
まるで果実の中に光が閉じ込められているみたいだった
柊 朔弥
(なに、、、これ)
噛み締める
喉に落ちるその瞬間、胸の奥がじん、と熱くなる
東條 絢斗
、、、美味しい?
柊 朔弥
、、、
東條 絢斗
?
高峰理人
?
玖堂 徹
、、、
ポロリ、と――涙がひと粒、静かに頬を伝った
東條 絢斗
っあ、ご、ごめん!
東條 絢斗
口に合わなかった、、、っ?
東條が困ったように眉を下げながらも、落ち着いた声で朔弥の反応をうかがう
そのすぐ隣で、高峰がバタつくように椅子を引いた
高峰理人
えっ!なに!ちょ、どうしたの!
高峰理人
泣いてんの!?なに!
高峰理人
俺!?いや俺じゃないよな
東條 絢斗
ちょっと落ち着いて
東條 絢斗
うるさい
高峰理人
だって!泣いてんじゃん!
テーブルの奥で静かに箸を置いた玖堂徹は、無表情のまま朔弥をじっと見つめる
玖堂 徹
、、、
ほんのわずかに、視線に戸惑いの色が滲む
だが、朔弥は誰の声にも反応しなかった
ただ、何も言えず、泣きながらマスカットをもう一粒、口に運ぶ
玖堂 徹
、、、ホッ
東條 絢斗
、、、おぉ
高峰理人
泣きながら食ってる、、、?
高峰理人
どゆこと、
東條 絢斗
ふふ
高峰理人
ねぇ、なにって
柊 朔弥
、、、(*^^*)
あたたかい
あまい
そして
やさしい
こんなものが、世の中にあったなんて―― 信じられなかった
涙を拭うでもなく、止めるでもなく、朔弥は静かに食べ進めた
その夜から、朔弥の中で「マスカット」は、特別な味になった