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清々しい朝日が差し込む中、懐かしいトーク画面を見つめては胸にぽっかりと空いた穴に風が吹く。 美月が失踪してからどれだけ経っただろう。何日どころではない、それこそ通話で数学を教え合ってから数ヶ月が経った。 あれからテストなんてあっという間に終わってしまったし、高校二年生だった俺はもうすぐ大学へ行く。 それなのに未だ見つからない美月を思うとやるせなくなり、手元のスマートフォンをつい力強く握った。 美月のお母さん...おばさんもかなり参っているようで最近ふた周りも体が細くなっているのを見た。本人は何とか気を保とうとしているのか、痩せれたわなんて言って笑い話にしているが。 「美月、どこにいるんだよ...」 最後のよく分からない文が届いてから全く音沙汰のないトーク画面は、悲しい事に美月との思い出だけを鮮明に残している。ここに1文字でも良いから新しいトークが加わってくれれば良いのに...。 そんな事を何回も何十回も思った。
ポコンと音がしてニュースアプリの通知が入れば、通知欄の新たな失踪者が出たとの文字が目に入る。 最近はこういった事件が多い。 美月が失踪をして少し経ってから全国で失踪者が相次ぐようになった。関連性が全くないとは思わないが、何か大きな事件に美月が巻き込まれているとは考えたくない。それはきっとおばさん達も同じだろう。 何か美月の為になればとインストールしたニュースアプリを開いて、先程通知されていた記事を読む。
【ニュース】またしても失踪か!? 大阪での真田菜々美(28)さん失踪に続き、今度は青森の近藤聡(49)さんが帰宅途中に姿を消した。 近所の防犯カメラには失踪前に駅へ入っていく近藤聡さんが写っているも、依然見つかっていない。 警察は事件の可能性も視野に入れて捜査を続けている。
最近はこんな事件ばっかりだ。 警察も必死に探してくれてはいるのだろうが、失踪者の中で見つかった人なんて実は認知症で夜会徘徊していただけだった人のみ。他の人は軒並み見つかっていない。 勿論その中には美月も入っている。
俺は...きっと好きだったんだろう。 自分でも知らないうちに美月へ惹かれていたんだと思う。だからこそ何もしてやれない悔しさが胸の中で渦巻く。 今まで周りを歩き探してみたりチラシを作って配ってみたりしたが、全く手がかりがないのだ。 美月が失踪する前に言っていた“例の駅”も、何か関係性があるのかと探ってみたが場所は分からなかった。
またしても画面に表示された通知はいつも使っているチャットアプリのもの。 これで美月に一歩近づければ良いのだが...俺は制服を着込み学生鞄を持って高校へ向かいながらチャットを開いた。
佐藤
大地
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ある日俺がSNSで失踪者の情報を探している時に偶然見かけた佐藤さんは、美月のように失踪したお子さんを持つ人だ。何か情報が得られれば良いなとチャットアプリのIDを交換したが、まさか佐藤さんの息子さんも“例の駅”の夢を見ていたなんて。しかも他の失踪者の人も見ていたとなると駅が無関係とは俺は思えない。 少し、ほんの少しではあるが希望が見えた気がして頬が緩む。これでもし駅について分かれば、もしかすると他の失踪者についても何か分かるかもしれない。 席に座って美月の無事を祈るようにスマートフォンを握り締めていると、ふと周りからの視線を感じた。 1年前美月や俺と仲の良かったクラスメイト達も、今や俺を腫れ物を扱うかのように遠くから様子を見るようになっていた。だが、もし美月が見つかればそれも変わるのだろうか? チラリと周りに視線をやれば、慌てて視線を逸らす奴や気にせずこちらを見つめ続ける奴らが丁度鳴ったチャイムに席へ戻っていく。 確か1限目は数学だったか...懐かしいな。美月と教え合ってたっけ。 俺は懐かしみながらスマートフォンをカバンの中へ突っ込んだ。