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どういう物語なんだろう!?
恋人がこの世から消えた。
その知らせは
まるで遠くの国のニュースのように
淡々と届いた。
けれど私は泣くことも
取り乱すこともできなかった
ただ
心のどこかで
「あぁ、やっぱり」
と思った
薄い朝の光が
カーテンの隙間から差し込んで
湯気をあげるケトルの向こうに
ぼんやりと埃が舞っていた
休日の午前
静かすぎるリビング
乾いた空気
空いたままの向かいの席
〇〇
棚のカップに手を伸ばすと
ひとつのマグカップに視線がいった
白地に青いラインのペアカップ
隼人との物だ
…いつから使ってないんだろ
コーヒー豆の香りのあと
胸の奥がキュッと縮む
なんで
このカップだけ捨てられなかったんだろ
あの日の記憶が
波のように押し寄せてくる
22歳の冬
インターンへ向かう電車の中で
スマホの通知が震えた
〇〇
タップしてニュースを開くと
見覚えのある名前が出ていた
死亡者 青柳 隼人
〇〇
指が冷たくなるのを今でも覚えている
スクロールをする手が震える
【交通事故により…】
その文字が目に焼き付いた
世界が音を失った
何も聞こえない
なのに、涙も出なかった
私は葬儀に行かなかった
行けなかった、が正しいのかもしれない
誰かに出会うことも
声をかけられることも
全てが怖かった
家の中に閉じこもり
ただ時間だけをやり過ごした
後々お母さんに聞くと
バイクに乗った隼人と
居眠り運転をしたトラックの事故だったと
ピーとケトルが鳴り響いた
〇〇
〇〇は火を止めコーヒーを入れた
3年の月日が経ち、この家から
彼に関するものが少しずつ消えていった
写真、服、香り
どれも見ているだけで息が詰まる気がした
〇〇
〇〇はもう一度マグカップへ目を向けた
やっぱり
あれは捨てられないんだよね…
そして今。
25歳になった私は
変わらない部屋でまたコーヒーを飲んでいる
あの日から時間だけが過ぎ
心は未だに置き去りにされている
お母さん
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通話
00:00
〇〇
少し間を置いて通話を取る
〇〇
お母さん
お母さん
〇〇
少しの沈黙が訪れた
〇〇
お母さん
お母さん
お母さん
母は少し心配症だ
特にあの日から
より一層
〇〇
〇〇
お母さん
〇〇
〇〇
受話器の向こうで
微かに息を飲む音がした。
お母さん
〇〇
〇〇
お母さん
お母さん
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通話
02:34
優しいのに
どこか脅えたような声だった
でもその理由を考える前に
電話は切られた
リビングの隅
陽の当たらない棚の上に
花の写真とひとつの腕時計
どちらも思い出せない
どこで買ったのか
誰が置いたものか
だけどそんな違和感にも慣れてしまった
〇〇
〇〇は立ち上がり
冷めたコーヒーを流しに捨てた
その時一瞬だけ影がふたつ写った
〇〇
目を凝らした時には既に消えていた
その日は夢を見た。
誰かが
私の名前を呼ぶ夢だった。