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加賀春樹

それでは、やっぱり誰もアリバイがなくて、事件当夜に何かを見たもの聞いたものもいないということですね。

新城賢太郎

そうみたいだね。

新城賢太郎

どうだい。犯人の目処は付きそうなのかい?

新城賢太郎

加賀くん。

加賀春樹

それは……まだ分かりません。

新城賢太郎

ふうん。そうか。

新城秋穂

私はいつまでこの天候が続くかも分からないなか、ここにいる人達と疑い合うなんて反対です。

新城貴恵

秋穂……。

新城秋穂

お義父さんが殺されるなんて思いもしなかったんです。それだけで精神的にかなり辛いの。

新城秋穂

だから、更に追い込むようなことはお控えください。加賀さん。

加賀春樹

それは確かにそうです。

加賀春樹

しかし、警察がいつ来るかも分からないこの状況だからこそ、早い段階で犯人を特定して、僕たち自身の身の安全を考えた方がいいと思うんです。

新城秋穂

それは……。

新城貴恵

秋穂、加賀さんのいうことも一理あると思うの。

新城秋穂

お義母様!!

新城貴恵

警察の方々が到着すると、必ず私たちの身に何が起こったのか事情聴取される運びとなるわ。その時に、貴方は要領よく説明することができる?

新城秋穂

できないと思うわ。それでもこんなことが起こったのだから、それは当たり前ですよ……。

新城貴恵

当たり前かもしれないわ。立ち直るのも難しいわよね。それでも、前を向かなくちゃ。あなたは、いつまでも後ろを見て生きて行くの?

新城秋穂

……。

新城貴恵

大丈夫。不安かも知れないけれど、もっと希望を持って生きなさい。

新城貴恵

可能性にかけましょう。

新城秋穂

……。

僕達は食堂に会していた

時刻は19時30分

今日初めての食事だった

僕はあの後 こっそりと資料を自室に持ち帰り 新居に呼ばれて食事の席に着いた

少し遅れて新城家の人々はやって来た

 やはり初日に比べると 全員がやつれている雰囲気がある

顔には疲労の色が見え 休息が必要なことは明らかであった

しかし 僕は形式的に全員のアリバイと事件当夜の動きを聞いた

それにより 全員が似たことを言って収穫はないことが分かってしまう

……それでも

僕は前方に座る男を見た

落ち着き払っている

まるで無実のように思えるが この新城賢太郎という男は……

疑いの目を向けていると 金田直斗が声を上げた

金田直斗

まあまあ、皆さん方。

金田直斗

親友のお母様が仰られた通り、希望が持てるような可能性はありますとも。こんな辺鄙な土地に建つ別荘でも、"外部犯"がいるかも知れない。

金田涼子

あなた、外部犯って?

金田直斗

財宝の噂が囁かれる著名家の別荘がこの新城さんのお屋敷だろう?

金田直斗

だとすれば、遠路はるばる大金を狙ってここまでやって来る奴も居ないとは限らないんじゃないか。

加賀春樹

外部犯の可能性……それは残念ながら無いでしょうね。

新居宗介

……外部犯?

新城賢太郎

それはないだろうね。

私が金田直斗の言葉を指摘すると 皆が一斉にこちらを向いた

よほど、意外だったのだろうか

金田直斗

加賀君、どういうこと?

加賀春樹

外部犯がいるとして、そいつは一体どこに潜んでいるんでしょうか。

金田直斗

そりゃあ、少し離れた木陰に潜伏しているとか……。

加賀春樹

この天候のなか、ずっと外に隠れて様子を伺うというのは変な話です。仮にそうしていたとしても、屋敷内に入る際に、必ず泥や水滴の跡が残るはずです。

金田涼子

夫の肩を持つようで悪いけれど、それじゃあ邸内に隠れているという可能性はないかしら?

加賀春樹

それもないです。

新居宗介

加賀様、何がないのですか?

加賀春樹

邸内に外部犯が潜んでいる可能性、ですよ。

新居宗介

なるほど。それは確かにありえません。

新居宗介

私が保証できると思います。

加賀春樹

……そうですね。

加賀春樹

新居さんは毎日、家事や仕事で家中を歩き回らなければなりませんから、同様にホールの玄関先にある痕跡や、邸内に隠れている外部犯の存在に気付かないわけがありません。

加賀春樹

だから、外部犯の存在はあり得ず僕達のなかに犯人がいる……ということになります。

金田直斗

ううん。なるほどね。

金田涼子

……そういうことでしたら、よく分かりました。

新城賢太郎

加賀くん、いきなり何を言い出すかと思えば、ソクラテスも満足するであろう、素晴らしい推理を披露してくれた。

新城賢太郎

しかし、この場合は控えたほうがいいこともあったようだね。

新城秋穂

そんな……。

新城秋穂

この中に犯人が……?

新城賢太郎

私の最愛の妻も怖がってしまう。

加賀春樹

それはそうですね。

加賀春樹

すみません。

僕は分かっていた

 論理的に考えたつもりだが 実際にあの佐久間は部外者なのだ

その人間が、いまもこの新城邸にいる

突然表れては、突然と消える

ましてや 脱出不可能な状況で消えてしまったなどと言い出せば、頭の様子を心配されるのは間違いないだろう

複雑な心境で 矛盾した推理を合理化したのだ

結果的に 秋穂を怖がらせ、自身を惑わせただけだ

何が正解だというのだ

僕が無駄なことを考えていると 新居は席を立って言った

新居宗介

……私はキッチンに向かいます。何かお申し付けがあれば、何なりと。

新居宗介

それでは。

だだっ広い食堂内に コツコツと革靴の音が響き渡る

やがて その場に沈黙が降りた

僕は、何となく窓を見た

風によって ガタガタと窓が震えている

雨は天から水の張ったバケツを落としたように 今も勢いが一向に収まる気配はない

先行きが思いやられた

視線を転じて テーブルに並べられたものを見る

まだ湯気がゆらゆらと出ているスープ 焼き上がりの良さそうなクロワッサン ふわふわのスクランブルエッグに 脂ののったベーコン

ホテルの朝食のようだった

しかし 未だに手をつける者は少ない

手をつけたところで 大して食も進まなかった

だから、晩餐は画廊と化していた

カチャッ

シュボッ

目の前で金属音がした

目を上げると 珍しく新城賢太郎が煙草をくゆらせていた

煙はスープの湯気と交差した

一つの生物のようにその場を漂う

ゆらゆら

ゆらゆら

次第に湯気は勢いを弱め 煙草の煙しか見えなくなった

ぼうっとして、また前を見る

煙越しの新城家の人々は 姿が曖昧に見えた

まるで 創りものの人形のような……

ガタッ

新城賢太郎が席を立った

新城賢太郎

そろそろ解散しようか。

新城貴恵

……そうね。

新城賢太郎

僕はトイレに行って来る。もうみんな、部屋にでも戻って休んだ方がいいね。

新城貴恵

そうしましょう。

金田直斗

そうだな。じゃあ、涼子、俺たちも部屋まで戻ろう。

金田涼子

……ええ。

新城秋穂

……私、先に部屋に戻ってます。

新城賢太郎

わかった。それじゃあ。

各々が食堂を出て行く

僕は夢を見ているような感覚のまま 後を追う

新居宗介

加賀様、明日も朝食を用意する予定でございます。

新居宗介

ぜひ、残されてもよろしいですのでどうぞ。

加賀春樹

……ええ。

声はほとんど無意識に出た

時刻は21時

まだ寝るには早い

しかし 今日1日で膨大な情報量があったのだ

だから、とにかく疲れていた

そのまま ベッドに身を投げ出す

そしてすぐに目を閉じる

 眠れてしまいそうだった

しかし シャワーを浴びないと……

……いいや、面倒だ

もう、このまま寝てしまおうか

頭を休めるためにも 暫くそうする

部屋の空気が肌に伝った

夏だというのに ひんやりとしている

心地が良かった

ああ、もう意識が遠のいている

これは

眠れる

……

"殺せ"

"殺してしまえ"

あいつらは気持ちが悪い

結局、利益しか考えていない猿だ

抑えられない衝動に

従順になれ

その手に握ったナイフで

額を突き刺して

"殺せ"

無意識のなかで

人を殺してしまったような

感覚が……

ドンドンドンドン

ドアを激しく叩く音がする

もう少し、寝ていたい

ドンドンドンドン

加賀春樹

ううん。

うっすらと目を開ける

窓からの光はまだ少ないようで 朝か夜かの判断がつかない

「起きるんだ」

「起きるんだよ」

扉越しに声がする

加賀春樹

うん……?

「起きるんだよ、加賀君」

この声は……

加賀春樹

し、新城さん……?

「そうだ。僕だ」

「とにかく、扉を開けてくれ」

新城賢太郎が僕を呼んでいた

目を擦る

重い身体を起こして 転びそうになりながら、扉へ向かう

扉に付いた内鍵を外す

ノブに手をかけて 扉の隙間から顔を出した

そこには 息を切らした新城賢太郎がいた

どうやら 走ってここまで来たらしい

「加賀くん」

息が整う前に、学者は話し出した

新城賢太郎

加賀くん、大変だよ。

加賀春樹

どうしたんですか?

加賀春樹

いま、何時ですか……。

腕時計を見ると まだ、午前5時だった

こんな早朝に、どうしたのだろうか

加賀春樹

新城さん……何ですか。

新城賢太郎

君の睡眠を邪魔して悪いが、いまは寝ぼけている暇はないんだ。

新城賢太郎

大変なことが……起こってしまったようなんだ。

その瞬間、嫌な予感を覚えた

加賀春樹

……え?

新城賢太郎

落ち着いて、ほしい。

新城賢太郎の顔は焦っていた

それに、明らかに動揺していた

様子を鑑みるに ただならない事態が起こったのだ

僕は、恐る恐る質問した

加賀春樹

何か……あったんですか?

新城賢太郎

……ああ。

息を呑む

徐々に 鼓動が早まって行くのが分かる

目も冴えてきてしまった

残念ながら これを夢だと否定するのは難しい

身体も脳もリアルに 予測される恐怖に対して身構えていた

筋肉が緊張して固まっていく反応は

更に促進されることになった

新城賢太郎

……朝から嫌な話になる。それに驚くと思うが、聞いてくれ。

加賀春樹

は、はい。

新城賢太郎

……また。

新城賢太郎

また、"人が殺されてしまった"

人が、殺された

何だって?

まだ、続いているというのか?

終わってはいなかったのか?

気が動転する

確かに 犯人探しの意図はそこにあった

犯人をさっさと特定して 身の安全を守るためであった

しかし、現実に起こった事実だと認識するのは容易でなかった

推論の域を出ないものだったからだ

それがいま……

加賀春樹

……ほ、本当なんですか。

新城賢太郎

僕は冗談が好きだ。

新城賢太郎

しかし、こんな下品な冗談はつかないということを、君は知っているだろう?

加賀春樹

そ……んな……!!

新城賢太郎

……。

加賀春樹

だ、だれ。

震える声を絞り出して

その名を聞く勇気を出す

加賀春樹

誰が……殺されたんですか?

新城賢太郎

それが……。

新城賢太郎

……。

加賀春樹

新城さん……?

ふう、と息をついて

新城賢太郎は 僕の目を真っ直ぐ見てきた

僕は怖気付きながらも 励ますように頷いた

そして 新城賢太郎は口を開いた

新城賢太郎

そう。

新城賢太郎

僕の母親、"貴恵"だよ。

新城賢太郎

"貴恵が殺された"

加賀春樹

な、そ、そんな……!!

新城貴恵が殺された?

新城賢太郎

それも、また……。

新城賢太郎

また、"ナイフで額を刺されて"いる。

何が起きている

そもそも

なぜ?

なぜ、貴恵が殺されなければならない

僕は思ったことをそのまま口にした

加賀春樹

な、なんでですか。

加賀春樹

なんで、貴恵さんが?

新城賢太郎

分からない。個人的な怨みなのか何か理由があるのか……。

新城賢太郎

しかし……。

僕は嫌な予感が収まらなかった

その理由

なぜか

なぜか "2人殺された"のではないかと思った

どこからそんな発想が出てきたのか 自分でも分からない

それが嫌な予感の正体であり 拭えきれない不安だった

……聞きたくなどない

しかし 質問せずにはいられなかった

ほかに、他に殺された人は……

加賀春樹

ほ、他には……?

新城賢太郎

……察しているんだな。

新城賢太郎

そう、その通り……。

新城賢太郎は間を置いて

ある人間の名を告げた

新城賢太郎

"かねだ"

加賀春樹

か、かねだ……さん。

新城賢太郎

……うん?

加賀春樹

うん? じゃないですよ……。

加賀春樹

人が、殺されているんです。

新城賢太郎

……それはそうだが。

新城賢太郎

君も予想していたことなんじゃないのか?

加賀春樹

予想……は、してましたが。

加賀春樹

そんな、詳しい人までは……。

新城賢太郎

……そうか。

新城賢太郎

財宝を持つ、僕の父である聡太郎が殺された。つまり身内による犯行なら遺産を目的にしていると考えるのが普通だな。

新城賢太郎

犯人は欲張ったのか、母の貴恵まで殺害するとは……予想外だった。それはそうだ。

それは気にかかるが いまは違う

それよりも 2人の人間が一晩で殺された

そんな非常識なことが起こっている

僕は狼狽した

新城賢太郎

……加賀くん、ショックが大きいみたいだが、こっちにきてくれ。

加賀春樹

こっち……?

新城賢太郎

"犯行現場"に案内する。

加賀春樹

は、犯行現場……。

新城賢太郎

そうだ。

新城賢太郎

行こうじゃないか。

新城賢太郎は、さっさと歩き出す

少しのあいだ あまり急なことで背中を見ていたが

覚束ない足取りで 僕は急いで後に続いた

……

 扉を開けてすぐに

椅子に座ったままの老婦人

新城貴恵が生き絶えていた

額にナイフが刺さったまま、である

そのまま 視線をその下に向けると

つまり 新城貴恵の死体が座る

椅子の傍ら

地面に仰向けに倒れ 額にナイフが突き刺さっている

金田直斗がいた

マーダーゲームZERO

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