千夜
先生…

翔
ん?

千夜
先生。人生相談です。

翔
…ん?

千夜
人生相談です。

赤塚のか細い声は、たしかに俺の耳をそう言って貫いた。
翔
…まず、ここ座りなさい。

俺は机を事情聴取するときのような1対1の机に並び替えた。
翔
で?人生相談ってのはなんだ?

千夜
…私、いじめられてるんです。

千夜
いらない子みたいなんです。

翔
赤塚、いじめられてるのか?

千夜
…はい。

翔
誰…に?

千夜
東條さんと杉崎さんと…あと井上さん…です。

翔
あの子たちが?

千夜
はい。

千夜
先生がいるときとか、クラスのみんなの前では優等生なのに!

千夜
私の前だと耳を塞ぎたくなるくらいの罵声を浴びさせてくるんです!

千夜
あの人たち、いい人ぶりっ子なんです!!!

そして骨のような細い足しか持たない小さい体のどこからそんな大きい声が出るんだ。というような声を俺にかける。
千夜
しかも、お母さんっ!

千夜
あの人は…!いつも私が帰ると不機嫌な顔をしていて、ただいまも返してくれないんです!

千夜
私は1年生の時からいじめられてきた!

千夜
耐えられなくてお母さんに話したんです!

千夜
そしたら、優しい言葉はかけてくれた。

千夜
けど、参観日や運動会…音楽会にも!

千夜
お母さんは何1つ学校行事を見にきてくれなかったんです!

千夜
それは、いじめられてる私のお母さんは自分だと、

千夜
いじめられてる子の母親が自分だとバレたくなかったからなんです!

千夜
私、話してるところ聞いたんです!

千夜
あんな子産まなきゃよかったって…!

千夜
お父さんは、優しい言葉かけてくれないし…

千夜
いっつも無視だし!

千夜
先生!人生相談です!

千夜
この先どうなら楽ですか!

千夜
私は綺麗な青空のような世界だけを見たいんです!

千夜
そんな世界で生きたいんです!

千夜
青空だけを見たいと思うのはわがままですか!?

千夜
先生!

千夜
私はなんでこんなにいじめられるんですか!?

千夜
なんで私じゃないとダメなんですか!?

千夜
なんで私何ですか!?!?!?

千夜
…はぁ……はぁ……

翔
…赤塚。

千夜
なんですか!?

翔
…ごめんなさい。

千夜
!?

翔
俺はこの小学校の6年2組の担任なんだ。

翔
なのに、生徒の悩み事に気づかない俺は…

翔
教師失格だな。

千夜
先生は悪くないんです!

千夜
悪いのはあの人たちなんです!

千夜
でも、なんでなんでしょう。

翔
ん?なんだ?

千夜
私は東條さんたちもお母さんも憎くて憎くてたまらないのに…

千夜
なんで死んで欲しいとは思わないんでしょう…。

翔
それは、思わないんじゃなくて、思えないんじゃないか?

千夜
え?

翔
心の黒い人は、いじめを受けるとやり返したり、殺したり…

翔
「復讐」をすると先生は思う。

翔
だけど赤塚は、死んで欲しいなんて思っていない。

翔
普通だったら疲労困憊で自殺する人だっている。

翔
けど、赤塚は、あの憎くてたまらない母親からもらった命までもを大切にしているもんな。

千夜
…!?

翔
それは、心が成長している証拠だ。

翔
赤塚の心は、美しい純白に、地球より大きい心を持っているだろう。

翔
こんなに心の広い人に出会ったことはなかったよ。

翔
東條たちには俺から言っとく。

翔
今日、赤塚のお母さんにも電話して謝ってもらうように言っておくよ。

翔
赤塚は誰がなんと言おうと前だけを向くんだ。

千夜
…はい!

それから、東條達は赤塚へのいじめに対して深く反省した。
赤塚の母親も、自分を見直し、今は楽しいと赤塚は語っていた。
千夜
先生。

翔
どうした?

千夜
私の人生相談。

千夜
聞いてくれてありがとうございました。

翔
いえいえ。

千夜
もう卒業だけど、

千夜
私絶対先生のこと忘れませんから。

翔
…ありがとう。

千夜
じゃあ、中学校になったらたまに見学しに来ますから。

千夜
先生は、私の恩人ですしね。

翔
言い過ぎだぞ。

千夜
ふふふっ。

千夜
さようなら。先生。
