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4年ぶりの盆祭りとあって、祭りは盛況(せいきょう)だ。
小峠華太
宇佐美純平
小峠華太
この人混みだ。暑気(あつけ)したのか、人混み酔いしたのかもしれないと思い、宇佐美に体調を尋ねる。
宇佐美純平
宇佐美純平
俺が今着ている浴衣は、無地のネイビー、帯は芥子色で、落ち着いた色味の物だ。
小峠華太
浴衣を持っていないと話していたのを、偶然、宇佐美が聞いていたらしく、その日の夕方、速水経由で、浴衣が俺に届けられた事を思い出す。
小峠華太
宇佐美純平
食いぎみで話す、宇佐美の勢いに気圧(けお)され、愛想笑いだけ返しておく。
宇佐美純平
宇佐美純平
祭りなどの人が集まるイベントには、荒事が付き物だ。なので、祭りを取り仕切る自治会から、警護依頼を受けたのだ。
強面の集団が連れだって、歩いていると、目立ち過ぎるので、祭りに溶け込む為に、見回り組と屋台組と別れる事になった。
見回り組は、俺と宇佐美、青山の兄貴と香月の兄貴、屋台組は、野田の兄貴と飯豊、和中の兄貴と工藤、小林の兄貴と速水に別れている。
小峠華太
宇佐美純平
小峠華太
小峠華太
宇佐美純平
宇佐美は、さも不思議そうに尋ねてきた。
宇佐美の言う通り、並んでいる店順に回る方が、効率的に良いのだが
小峠華太
宇佐美純平
俺の一言で、宇佐美は俺が言わんとしている事を悟ったようだ。
小林の兄貴は、フルーツの中では、バナナが好きだ。
小林の兄貴が担当する屋台は、チョコバナナ。
よって、空腹の小林の兄貴が、商品のバナナを食い尽くす前に、小林の兄貴に、早急に、差し入れを届けなければならいのだ。
小峠華太
宇佐美純平
本殿前にある、小林の兄貴の屋台を目指す為に、人でごった返す、参道に飛び込んだ。
俺の見通しが甘かったようだ。4年ぶりの開催とあって、何時もよりも人が多かったのも原因なのだろうが
人だかりに飛び込んで、数分もしない内に、俺と宇佐美は見事に、はぐれちまった。
スマホで電話するも、祭囃子(まつりばやし)と人の話し声によって、俺達の声は、かき消されてしまって、聞き取りずらい。
もし、連絡が着いたとしても、この人だかりだ。合流は難しいだろう。
通話を切り、メール画面を開く。目的地で合流するように、とメールに打ち込み、送信ボタンを押す。
小峠華太
人の波に流されてしまい、今、自分がいる場所が何処なのか、把握しきれていない。だからといって、ぼけっと突っ立てっても意味はないので、取り敢えず、人の波に従って、進もうと歩を進めようとした時だった。
くん、と俺の浴衣の袖丸(そでまる)を後ろから、引かれた。
もしかして、宇佐美かと思い、後ろを振り返る。
そこには紫色の浴衣を着た、狐面の青年が立っていた。
こいつは誰だ?
そんな疑問が、俺の頭に浮かぶ。
困惑する俺を余所に、狐面の青年は、俺の進行方向と反対の道を指差す。
もしかして、道を教えようとしてくれいるのか?
青年の目的は分からないが、青年から敵意が感じられない事もあって、俺は取り敢えず、礼の言葉だけを述べる。
小峠華太
青年は、急に俺の手を掴み、さっき指差した方向に歩を進め出した。
突拍子もない、青年の行動に呆気にとられた俺は、手を引かれるまに、歩を進めてしまった。
直ぐに、俺は正気を取り戻し、青年の手を振り払おうとしたが
屋台から漂ってくる香ばしい、ソースや醤油などの調味料に紛れ、青年から漂ってきた、線香の香りが、手を振り払おうとする、俺を踏みとどまらせた。
なんで線香?お香なら浴衣に焚き染める(たきしめる)事はあるだろうが、線香を焚き染めたりするもんなのか?
そんな疑問が浮かんだ時だった。俺達に向かって、向かい風が吹いた。
風が運んできた、線香の匂いに混じり、メンソールの匂いが、俺の鼻腔を通り抜けた。
!!
今日がお盆といえど、そんな事があるはずがない!あるはずがないのに
でも、この匂いは・・・・
匂いに紐付けられた記憶が、俺の記憶を呼び覚ます。
一服する為、事務所の屋上に来たのだが、屋上に着いてから、煙草を切らしていた事を思い出す。
北岡隆太
先に屋上にいた、北岡が俺に気付き、話しかけてきた。
小峠華太
事務所に戻れば、机の中に、予備の煙草はあるにはあるが、登ってきたばかりの階段を降りるのは、億劫(おっくう)だ。
北岡隆太
北岡隆太
そう言って、北岡が差し出してきた煙草は、タールの含有量の少なく、初心者向けの銘柄の物だった。
有り難く、一本頂戴する。
北岡隆太
北岡はジッポを取り出そうとする。
北岡がジッポを取り出す前に、俺は煙草を咥え、北岡の吸っている煙草に、煙草の先を押しつけた。
所謂、シガーキス。
北岡隆太
近くで見る、慌てふためく、北岡の様子に、自然と俺の口角もゆるむ。
小峠華太
俺達は付き合っている。
北岡隆太
北岡隆太
付き合っているが、キス以上の関係には、未だ進んでいない。
北岡隆太
申し訳なさそうにしながら、北岡が尋ねてくる。キス以上の関係に進展しない、原因は俺にある。男に抱かれた経験がない為、俺が怖じ気づいている。ただ、それを口にしたことはないが、俺の様子から、北岡は薄々、感じとっていた。だから、今まで、進展について、北岡から話をされた事はなかった。
そんな北岡が、直接言葉に乗せてきたって事は、まんじりとも進まない関係に、ついに痺れを切らしたって事だろうな。
一方的に押しきる事だって出来た筈なのに、それでも、俺に決定権を委ねようとしてくれている、北岡の健気な様に、俺もようやく腹を決める。
小峠華太
北岡隆太
北岡隆太
俺の返答を聞いた北岡は、子供に返ったかのようにはしゃぐ。
煙草を吸うと清涼感のある、メントールの匂いが、俺の鼻腔を通り抜けていく。
小峠華太
俺が名を呼ぶと、胡瓜で出来た精霊馬(しょうりょうま)を差し出してきた。
差し出された精霊馬には、ラッキーちゃんに齧られた跡が残っていた。俺が北岡の仏壇に飾ったやつだ。
北岡隆太
北岡隆太
懐かしい声が、俺の鼓膜を通り抜けていく。
小峠華太
北岡隆太
小峠華太
北岡隆太
小峠華太
顔が見えない事を残念に思いながらも、幻覚かもしれないが、もう一度、北岡に会えた事の喜びが俺の心ごと包む。
北岡隆太
北岡隆太
北岡隆太
北岡の言葉を待ってましたとばかりに、タイミング良く、夜空に大輪の火花が咲き誇る。
小峠華太
北岡隆太
夜空に大小様々な花を咲かせては、宵闇に溶けていくを繰り返している。
今まで繋がれたままになっていた手を、スッと北岡が離す。
小峠華太
北岡隆太
小峠華太
北岡を引き留める為に、俺が掴もうとするが、北岡の手は透過(とうか)しており、掴む事がかなわなかった。
北岡隆太
その言葉を最後に、花火のように北岡も闇夜に溶けて消えてしまった。
気づけば、俺は雑踏の中に佇んでいた。
参道の真ん中に佇んでいる俺を、他の客は気にも止めず、参道を進んでいく。
今まで俺が、みていたものは幻だったのか?
コッン、と俺の雪駄に何かがあたった。
視線を落とすと、そこには齧られた精霊馬が残されいた。
あれは幻じゃなかった。
気づいたら、俺の眼から大粒の涙がこぼれ落ちる。
来年もまた、北岡が、俺に会いに来られるように、精霊馬を作らなければ。
今度は、茄子の精霊馬の足を短くしてしちまおう。
そうすれば、北岡と長くいられるかもしれない。
俺は拾い上げた精霊馬を抱きしめた。
おわり
あとがき もうすぐお盆だな~って、思ったら、きたかぶが浮かんだ。北岡が生きていたのが短かったせいか、きたかぶ書くと死ネタよりになってしまうよな。最近まで、南雲ニキは生きてたから、生存している呈で書くこと多い。 シガーキス好きだけど、中々、話に落とし込むのが難しいから、書いたことなかったけど、今回、入れてみた。 小説とは関係ないけど、煙草の煙りを顔に吹き掛けるのは『お前を抱くぞ』って、合図なのも好き。是非とも野田ニキに、華太ちゃんの顔に煙りを吹き掛けて欲しい。 因みに、断る場合は相手の顔に煙りを吹き掛けるらしい。