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とある夏の日の奇跡

とある夏の日の奇跡

「とある夏の日の奇跡」のメインビジュアル

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夏仕様のきたかぶ。勿論、北岡は死んでる。

♥

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2023年08月02日

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4年ぶりの盆祭りとあって、祭りは盛況(せいきょう)だ。

小峠華太

凄い混みようだな

宇佐美純平

・・・・・

小峠華太

宇佐美、どうした?さっきから、ボーッとしてるようだが、大丈夫か?

この人混みだ。暑気(あつけ)したのか、人混み酔いしたのかもしれないと思い、宇佐美に体調を尋ねる。

宇佐美純平

い、いえ!大丈夫です

宇佐美純平

こ、小峠の兄貴、浴衣が、よくお似合で

俺が今着ている浴衣は、無地のネイビー、帯は芥子色で、落ち着いた色味の物だ。

小峠華太

そういえば、この浴衣、宇佐美が買ってきてくれたんだってな

浴衣を持っていないと話していたのを、偶然、宇佐美が聞いていたらしく、その日の夕方、速水経由で、浴衣が俺に届けられた事を思い出す。

小峠華太

礼を言うのが、遅くなったな。助かったよ。ありがとう

宇佐美純平

いえ、小峠の兄貴のためなら何だってします!だから、何でも申し付けて下さい!

食いぎみで話す、宇佐美の勢いに気圧(けお)され、愛想笑いだけ返しておく。

宇佐美純平

それにしても、人多いですね

宇佐美純平

確か、野田の兄貴と飯豊の兄貴が、タコ焼き屋で、和中の兄貴と工藤が的屋で、小林の兄貴と速水の兄貴がチョコバナナの店でしたね

祭りなどの人が集まるイベントには、荒事が付き物だ。なので、祭りを取り仕切る自治会から、警護依頼を受けたのだ。

強面の集団が連れだって、歩いていると、目立ち過ぎるので、祭りに溶け込む為に、見回り組と屋台組と別れる事になった。

見回り組は、俺と宇佐美、青山の兄貴と香月の兄貴、屋台組は、野田の兄貴と飯豊、和中の兄貴と工藤、小林の兄貴と速水に別れている。

小峠華太

ああ、早く、兄貴達に差し入れを届けないとな

宇佐美純平

一番近いのは、和中の兄貴の的屋なので、そちらから回りますか?

小峠華太

いや、そこは後回しで構わない

小峠華太

先ずは、小林の兄貴の所からだ

宇佐美純平

小林の兄貴の屋台は、一番奥なのにですか?

宇佐美は、さも不思議そうに尋ねてきた。

宇佐美の言う通り、並んでいる店順に回る方が、効率的に良いのだが

小峠華太

小林の兄貴、バナナが好きだからな

宇佐美純平

それは早く届けないと不味いですね

俺の一言で、宇佐美は俺が言わんとしている事を悟ったようだ。

小林の兄貴は、フルーツの中では、バナナが好きだ。

小林の兄貴が担当する屋台は、チョコバナナ。

よって、空腹の小林の兄貴が、商品のバナナを食い尽くす前に、小林の兄貴に、早急に、差し入れを届けなければならいのだ。

小峠華太

小林の兄貴、野田の兄貴、和中の兄貴の順で回る

宇佐美純平

了解しました

本殿前にある、小林の兄貴の屋台を目指す為に、人でごった返す、参道に飛び込んだ。

俺の見通しが甘かったようだ。4年ぶりの開催とあって、何時もよりも人が多かったのも原因なのだろうが

人だかりに飛び込んで、数分もしない内に、俺と宇佐美は見事に、はぐれちまった。

スマホで電話するも、祭囃子(まつりばやし)と人の話し声によって、俺達の声は、かき消されてしまって、聞き取りずらい。

もし、連絡が着いたとしても、この人だかりだ。合流は難しいだろう。

通話を切り、メール画面を開く。目的地で合流するように、とメールに打ち込み、送信ボタンを押す。

小峠華太

本殿はこっちか?

人の波に流されてしまい、今、自分がいる場所が何処なのか、把握しきれていない。だからといって、ぼけっと突っ立てっても意味はないので、取り敢えず、人の波に従って、進もうと歩を進めようとした時だった。

くん、と俺の浴衣の袖丸(そでまる)を後ろから、引かれた。

もしかして、宇佐美かと思い、後ろを振り返る。

そこには紫色の浴衣を着た、狐面の青年が立っていた。

こいつは誰だ?

そんな疑問が、俺の頭に浮かぶ。

困惑する俺を余所に、狐面の青年は、俺の進行方向と反対の道を指差す。

もしかして、道を教えようとしてくれいるのか?

青年の目的は分からないが、青年から敵意が感じられない事もあって、俺は取り敢えず、礼の言葉だけを述べる。

小峠華太

ありがとう

青年は、急に俺の手を掴み、さっき指差した方向に歩を進め出した。

突拍子もない、青年の行動に呆気にとられた俺は、手を引かれるまに、歩を進めてしまった。

直ぐに、俺は正気を取り戻し、青年の手を振り払おうとしたが

屋台から漂ってくる香ばしい、ソースや醤油などの調味料に紛れ、青年から漂ってきた、線香の香りが、手を振り払おうとする、俺を踏みとどまらせた。

なんで線香?お香なら浴衣に焚き染める(たきしめる)事はあるだろうが、線香を焚き染めたりするもんなのか?

そんな疑問が浮かんだ時だった。俺達に向かって、向かい風が吹いた。

風が運んできた、線香の匂いに混じり、メンソールの匂いが、俺の鼻腔を通り抜けた。

!!

今日がお盆といえど、そんな事があるはずがない!あるはずがないのに

でも、この匂いは・・・・

匂いに紐付けられた記憶が、俺の記憶を呼び覚ます。

一服する為、事務所の屋上に来たのだが、屋上に着いてから、煙草を切らしていた事を思い出す。

北岡隆太

小峠の兄貴もヤニ休憩っすか?

先に屋上にいた、北岡が俺に気付き、話しかけてきた。

小峠華太

そのつもりだったんだがな。生憎、煙草を切らしちまってな

事務所に戻れば、机の中に、予備の煙草はあるにはあるが、登ってきたばかりの階段を降りるのは、億劫(おっくう)だ。

北岡隆太

軽いやつですけど

北岡隆太

良ければ、俺の吸います?

そう言って、北岡が差し出してきた煙草は、タールの含有量の少なく、初心者向けの銘柄の物だった。

有り難く、一本頂戴する。

北岡隆太

火着けます

北岡はジッポを取り出そうとする。

北岡がジッポを取り出す前に、俺は煙草を咥え、北岡の吸っている煙草に、煙草の先を押しつけた。

所謂、シガーキス。

北岡隆太

え?え?こ、こ、こ、小峠の兄貴?

近くで見る、慌てふためく、北岡の様子に、自然と俺の口角もゆるむ。

小峠華太

嫌だったか?

俺達は付き合っている。

北岡隆太

そんな事ありません!嬉しいっす

北岡隆太

でも、もし、贅沢言って言いなら、そろそろ、次の関係に進みたいな~って

付き合っているが、キス以上の関係には、未だ進んでいない。

北岡隆太

・・・やっぱり駄目ですか?

申し訳なさそうにしながら、北岡が尋ねてくる。キス以上の関係に進展しない、原因は俺にある。男に抱かれた経験がない為、俺が怖じ気づいている。ただ、それを口にしたことはないが、俺の様子から、北岡は薄々、感じとっていた。だから、今まで、進展について、北岡から話をされた事はなかった。

そんな北岡が、直接言葉に乗せてきたって事は、まんじりとも進まない関係に、ついに痺れを切らしたって事だろうな。

一方的に押しきる事だって出来た筈なのに、それでも、俺に決定権を委ねようとしてくれている、北岡の健気な様に、俺もようやく腹を決める。

小峠華太

・・・ブラジルマフィアとの交渉が上手くいけば、考えておいてやるよ

北岡隆太

北岡隆太

俺、頑張りますから!絶対に成功させてみせます!

俺の返答を聞いた北岡は、子供に返ったかのようにはしゃぐ。

煙草を吸うと清涼感のある、メントールの匂いが、俺の鼻腔を通り抜けていく。

小峠華太

北岡、なのか?

俺が名を呼ぶと、胡瓜で出来た精霊馬(しょうりょうま)を差し出してきた。

差し出された精霊馬には、ラッキーちゃんに齧られた跡が残っていた。俺が北岡の仏壇に飾ったやつだ。

北岡隆太

俺の為に、精霊馬を作ってくれてありがとうございます

北岡隆太

お陰で、小峠の兄貴に早く会いにくる事が出来ました

懐かしい声が、俺の鼓膜を通り抜けていく。

小峠華太

その面を外してくれないか?顔がみたい

北岡隆太

駄目です

小峠華太

なんで?

北岡隆太

兄貴の顔をみたら、俺が兄貴から離れがたくなるから

小峠華太

そうか

顔が見えない事を残念に思いながらも、幻覚かもしれないが、もう一度、北岡に会えた事の喜びが俺の心ごと包む。

北岡隆太

勝手な事、言ってすいません。それに、本来なら生者に姿を見せるのも駄目なんですが、どうしても俺、小峠の兄貴に会いたかったんです!

北岡隆太

それと、初めて肌を交わした日、一緒に花火見ようと約束してたのに、守れなくてすみません

北岡隆太

だから、今日、約束を果たしにきました

北岡の言葉を待ってましたとばかりに、タイミング良く、夜空に大輪の火花が咲き誇る。

小峠華太

綺麗だな

北岡隆太

兄貴と見るから、今日の花火は格別に綺麗だ

夜空に大小様々な花を咲かせては、宵闇に溶けていくを繰り返している。

今まで繋がれたままになっていた手を、スッと北岡が離す。

小峠華太

北岡?

北岡隆太

すみません、時間が来ちゃいました

小峠華太

もう少しだけ、花火が終わるまで

北岡を引き留める為に、俺が掴もうとするが、北岡の手は透過(とうか)しており、掴む事がかなわなかった。

北岡隆太

また来年も貴方の側で・・・

その言葉を最後に、花火のように北岡も闇夜に溶けて消えてしまった。

気づけば、俺は雑踏の中に佇んでいた。

参道の真ん中に佇んでいる俺を、他の客は気にも止めず、参道を進んでいく。

今まで俺が、みていたものは幻だったのか?

コッン、と俺の雪駄に何かがあたった。

視線を落とすと、そこには齧られた精霊馬が残されいた。

あれは幻じゃなかった。

気づいたら、俺の眼から大粒の涙がこぼれ落ちる。

来年もまた、北岡が、俺に会いに来られるように、精霊馬を作らなければ。

今度は、茄子の精霊馬の足を短くしてしちまおう。

そうすれば、北岡と長くいられるかもしれない。

俺は拾い上げた精霊馬を抱きしめた。

おわり

あとがき もうすぐお盆だな~って、思ったら、きたかぶが浮かんだ。北岡が生きていたのが短かったせいか、きたかぶ書くと死ネタよりになってしまうよな。最近まで、南雲ニキは生きてたから、生存している呈で書くこと多い。 シガーキス好きだけど、中々、話に落とし込むのが難しいから、書いたことなかったけど、今回、入れてみた。 小説とは関係ないけど、煙草の煙りを顔に吹き掛けるのは『お前を抱くぞ』って、合図なのも好き。是非とも野田ニキに、華太ちゃんの顔に煙りを吹き掛けて欲しい。 因みに、断る場合は相手の顔に煙りを吹き掛けるらしい。

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