やはり、屋上で食べるごはんが 一番だ。
それが数少ない屋上利用者の 特権なのに、
なぜ山田香凛がいて、 一緒に食べなければならないのか。
僕
なんで一緒なんだよ。
山田 香凛
え?
僕
なんで一緒に食べなければならないんだ。
山田 香凛
んと、感謝、とでも言おうか。
山田 香凛
私なりの感謝の表現。
分からないとこ、教えてくれたから。
分からないとこ、教えてくれたから。
どうやら、彼女なりの 感謝の表現らしい。
山田 香凛
だって君、ぼっちでしょ。
僕
その話、昨日もした。
山田 香凛
そうだっけ。
まあいいや。
まあいいや。
僕
気持ちだけ、いただいとく。
山田 香凛
いただいといて。
あ、そろそろ戻らないと、次の
授業に遅れるよ。
あ、そろそろ戻らないと、次の
授業に遅れるよ。
僕
うん。
こういったところにも、 やはり彼女の正しさや正義感を 感じられる。
彼女は、誰よりも正しい。
帰りのホームルームの時だった、
そのことを知らされたのは。
先生
山田さんは、あと一週間で
家の都合のため、転校します。
家の都合のため、転校します。
僕はわりと、冷静かつ客観的にとらえていた。
別に、だからどうというわけでもないし、ただ、あ、そうなの、 という感じだったと思う。
山田 香凛
今までありがとうございました。
山田の声がひどくゆっくりに、 そして遠くに聞こえた。
別に山田と関係は特にないのに、 なぜだかざらついた気持ちに なる。
いよいよ転校当日に、迫ったが 彼女の転校を悲しむ者は一人も いなかった。
彼女だって、悲しそうではない。
山田 香凛
榊。
僕
何?
山田 香凛
なんだかんだいって、ありがとう。
僕
別に大したことはやってないし。
山田 香凛
私、家の都合で転校をよくするんだけど、
山田 香凛
話す人なんていなかったの。
山田 香凛
でも、榊が話し相手になってくれた。ありがとう。
僕
僕は何もしてないよ。
山田とのお別れの時間は間近に 迫っていた。
山田 香凛
榊。
山田 香凛
じゃあね。
彼女はさようなら、とは言わなかった。
僕
………。
そんな彼女に対して、僕は 微笑んだ。
彼女は不思議そうな顔をした。
さようならを言わずに彼女は 行った。
僕
…。
僕はただ、微笑んでいた。
それからは、 彼女が転校してくる前の生活に 戻った。
平穏すぎる平穏なのに、 どこか物足りないと感じてしまう のはなぜだろう。
その答えに気づくことは、 きっと無い。