コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
朝目を覚ますと静かだった
いつもなら雨の音が目覚まし代わりになるのに─今日はそれがない
音ノ乃
カーテンの隙間から外を覗いた
灰色でも
青でもない
ぼんやりとした空
だけど雨粒は落ちてこない
それなのに店の看板は出ていた
"ミリプロ喫茶 雨の日限定"
音ノ乃
首を傾げながらいつものようにエプロンを結ぶ
コーヒーミルを回し始めると豆の香りが店中に広がっていく
晴れているのに喫茶店は在る
それが1番不思議だった
眠雲
眠雲さんが夢の続きを引き摺ったような声で挨拶をする
眠雲
眠雲
音ノ乃
眠雲
眠雲
ののは返事をしようと思ったが言葉が詰まった
こころのどこかで其の夢が他人事じゃない気がした
ドアベルが静かに鳴った
入ってきたのは昨日の青年だった
今日は濡れていない
逆にまるで晴れを連れてきたように光が背後から差し込んでいる
青年
青年は少し照れたように言う
その笑顔を見てののの胸がざわつく
この店は雨の日にしか現れないはず
でも彼は雨が止んでいる今日もここにいる
音ノ乃
ののが思わず呟いた
青年
そう言われて差し出されたのは古い小瓶だった
中には乾いた雫のような透明な粒が入っていた
音ノ乃
青年
青年の言葉をよく理解出来なかった
けれどその小瓶を受け取った瞬間
店の奥でリズのピアノが一瞬だけ止まった
ツクリが記録帳になにかを書き足す音が響いた
"雨のない日に店が開いた"
その記録が全ての始まりだった