ムルル・デール

ムルル・デール
一つ目の鐘が鳴り始めたぞ!

ナルル・エピログ
急いでゼンマイを巻きに行かなくちゃ!

ナルル・エピログ

ナルル・エピログ
今日も正常に時は流れ続けてるね

ムルル・デール
そりゃそうだろ?

ムルル・デール
俺たちが時を動かす原動力である

ムルル・デール
ゼンマイを巻く仕事をしたんだから

ナルル・エピログ
そんな情緒のないことを言わないでよ

ナルル・エピログ
時という絶対に逆らうことのできない大きな波に

ナルル・エピログ
敬意と畏怖を感じることは必要だと思うよ?

ムルル・デール
そうか?

ムルル・デール
俺たちがゼンマイを巻かなかったら

ムルル・デール
時は流れなくなるんだ

ムルル・デール
時なんて無力なものさ

ナルル・エピログ
まったくムルルは!

ナルル・エピログ
そんなこと言ってたら

ナルル・エピログ
神様に怒られるよ?

ナルル・エピログ
時のゼンマイを一日に一回巻くことは

ナルル・エピログ
神様が僕たちに与えてくれた大切な仕事なんだからね!

ムルル・デール
分かってるよ

この小人たちの名前はムルルとナルル、二人は森の中に住み過ごしている
この木にあるゼンマイを巻くことが、彼らが神様から与えられた仕事である
二人はそんな単調だけれども重要な仕事を任されながら楽しく過ごしていた
ナルル・エピログ

ナルル・エピログ
ほら
出来上がったよ

ナルル・エピログ
イチジクのパウンドケーキ!

ムルル・デール
おおっ
美味しそうだな!

ナルル・エピログ
毎日仕事をする僕らへのご褒美として

ナルル・エピログ
神様がこうして森に恵みをもたらしてくださっているんだ

ナルル・エピログ
感謝しないとね

ムルル・デール
だったら俺にも感謝してくれよな

ムルル・デール
深い森の中でイチジクを採りに行ったのは俺なんだから

ナルル・エピログ
それを言ったら

ナルル・エピログ
このパウンドケーキを作ったのは僕なんだから

ナルル・エピログ
僕にも感謝してよね

ムルル・デール
プッ…アハハ!

ムルル・デール
そうだな
俺たちは二人で一つ

ムルル・デール
最高のパートナーだな!

ナルル・エピログ
そうだね
アハハ!

ムルル・デール

ムルル・デール
しかしさ
神様に与えてもらったとはいえ

ムルル・デール
本当に俺たちがゼンマイを巻かなかったら

ムルル・デール
時はどうなるんだろうな

ムルル・デール
時が止まるってことだよな?

ナルル・エピログ
さっきも言ったけど

ナルル・エピログ
そんなことしたら神様に怒られちゃうよ?

ムルル・デール
だけど
時が止まっちゃうんだ

ムルル・デール
生物の動きは止まるだろ?

ムルル・デール
それは神様だって例外じゃないはずだ

ムルル・デール
だったら怒られないはずだ

ナルル・エピログ
うーん

ナルル・エピログ
確かに神様の時まで止まっちゃうとしたら

ナルル・エピログ
もう二度と時が動き出すことはないってことだよね?

ムルル・デール
そうだろ?

ナルル・エピログ
でも
神様なんだから

ナルル・エピログ
時に逆らうことくらいはできるんじゃない?

ムルル・デール
まあ
そうだよな

ムルル・デール
神様なんだから止まった時の中で

ムルル・デール
動くことくらいできそうだよな…

ムルル・デール
なあ
一度に時を止めてみないか?

ナルル・エピログ
え?

ムルル・デール
一度にゼンマイを巻かずに放置してたらどうなるか

ムルル・デール
試してみないか?

ナルル・エピログ
ダメだよ!

ナルル・エピログ
今さっき二度と時が動かなくなるかもって話になっただろう?!

ナルル・エピログ
どうしてそんな発想になるのさ!

ムルル・デール
気にならないか?

ナルル・エピログ
ならないね!

ムルル・デール
堅物だなあ

ムルル・デール
神様の言われた通りに仕事をして生活をして

ムルル・デール
それで満足かねえ

ナルル・エピログ
ムルルは満足してないの?

ムルル・デール
俺はナルルと違って好奇心があるからな

ムルル・デール
時を止めたらどうなるんだろうなとか

ムルル・デール
この森を抜けた先はどうなっているんだろうとか

ナルル・エピログ
よくそんなことを考えるね

ナルル・エピログ
この広く暗い森を抜けるなんて

ナルル・エピログ
命を捨てるようなものだよ?

ムルル・デール
でもその先に
とっても美味しいものが

ムルル・デール
あるかもしれないじゃないか?

ナルル・エピログ
結局食べ物なんだね…

ムルル・デール

ムルル・デール
でもさ…最近
ある夢を見るんだよ

ナルル・エピログ
夢?

ムルル・デール
うん

ムルル・デール
真っ暗でほとんど景色が見えないんだけど

ムルル・デール
俺はすごく幸せそうに生きているんだ

ムルル・デール
そこでは毎日のゼンマイを巻く仕事なんてなくて

ムルル・デール
自由に生きているんだ

ムルル・デール
好きなように生きて

ムルル・デール
好きなことをして

ムルル・デール
周りに何も言われずに自分の意思で生きている

ムルル・デール
なあ
どうして神様に言われた通りに

ムルル・デール
俺たちは仕事をしないといけないんだ?

ムルル・デール
言われたからといって

ムルル・デール
それ以外の生き方を選ばないなんて

ムルル・デール
人生損をしていると思わないか?

ナルル・エピログ
ムルルはゼンマイを巻く仕事を辞めたいの?

ムルル・デール
辞めたい…というか

ムルル・デール
その夢を見てから

ムルル・デール
他に俺の幸せがあるような気がするんだ

ムルル・デール
どうしてだろうか?

ナルル・エピログ

ナルル・エピログ
もし君が本気で辞める気なら

ナルル・エピログ
僕は止めないよ

ナルル・エピログ
君の思う通りに生きたらいい

ナルル・エピログ
ゼンマイの仕事も僕一人で何とか…なると思う

ムルル・デール
お前はやっぱりついてきてくれないのか…

ナルル・エピログ
うん…

ナルル・エピログ
君はここを出ていくんだね?

ムルル・デール
まあ…

ナルル・エピログ

ナルル・エピログ
それならとっておきの材料で

ナルル・エピログ
君の好きなパウンドケーキを作ってあげるよ!

ナルル・エピログ
ムルルは旅のしたくでもしながら待っててよ!

ムルル・デール
う、うん…

ナルル・エピログ

ナルル・エピログ
お待たせ!

ナルル・エピログ
沢山のドライフルーツが入ったパウンドケーキだよ

ナルル・エピログ
これなら日持ちもするし

ナルル・エピログ
旅に持って行って…

ナルル・エピログ
って旅の用意もせずに寝てるじゃん!

ナルル・エピログ
ちょっと起きて!

ムルル・デール

ムルル・デール
んん~…

ナルル・エピログ
何してるのさ
旅の支度は?!

ナルル・エピログ
自分の幸せを探しに行くんじゃなかったの?

ムルル・デール
ああ~それなら

ムルル・デール
すでにここにあった

ナルル・エピログ
は?

ムルル・デール
確かにゼンマイを巻く仕事は地味で面倒くさいけど

ムルル・デール
俺の幸せはナルルの作ってくれた料理を食べることだから

ムルル・デール
一人で外へ行ってもそこには何もない

ナルル・エピログ

ナルル・エピログ
アハハ!
なんだよそれ?

ムルル・デール
結局
幸せは何をするかよりも

ムルル・デール
誰といるかだったってことだ

ムルル・デール
あっ
一つ目の鐘が鳴り始めた!

ナルル・エピログ
急いでゼンマイを巻きに行かなくちゃね!

こうして今日も時は流れ続け、二人の共同生活も続いてゆく