少女よ、勇者よ。応答願う。

佐藤サナは拳を握り締めた。

『ガサッ』

茂みから姿を出したのは、

巨大な刃を首から生やした

四足歩行の黒い獣。

飛び掛かってきた悪魔の腹に

レモンの拳が突き刺さり、

その肉体が吹き飛ぶ。

それが狼煙となった。

およそ30の悪魔が茂みから現れる。

最初の一体が気を引いたうちに、

こうして大群に囲まれていたのだ。

突き出した右掌。

そこから黒の球が放たれる。

その一撃は

悲鳴すらも許さず、

悪魔の肉体を抉り飛ばした。

恐れを知らぬ悪魔が、次々と飛び出す。

その度にサナの攻撃が炸裂し、

悪魔は二人に近づけない。

サナは脱力しきって、天を見上げる。

滴る汗が足元を濡らした。

あれほどいた悪魔の姿はもう無かった。

全てサナの出す球によって殺された。

黒球《こくきゅう》。

安直だが、それが私たちの付けた

この技の名だ。

通常、潜在能力《セクト》の覚醒には

3つの段階がある。

STEP1、エネルギーの発生。

STEP2、身体強化。

STEP3、エネルギー変換。

つまり、能力の覚醒。

今の佐藤サナは

エネルギーだけを得た状態。

まだ、身体強化を習得する段階でしかない。

だが、彼女には本来得られる筈の無かった。

エネルギーの運用回路が出来上がっている。

あの神様が使ったエネルギー弾を

作り出すためのものが。

もちろん、サナ自身の本来の能力は別にあるのだろうが。

だからといって、この強力な攻撃手段を活かさぬ手はない。