ぼくの家の隣のアパートには、殺人鬼が住んでいる。
おんぼろアパートで築十数年というところだろう。
そのアパートの二階の端の部屋に殺人鬼の男は住んでいるんだ。
殺人鬼と言っても10年以上前の話だ。
殺人の罪で捕まって、罪を償って出てきたんだろう。
男が警察に連れて行かれるのをぼくはこの目で見ている。
見たのはテレビの中だけど、あの男はカメラに向かって ものすごい目つきで睨みつけたんだ。
3〜4才だったぼくは一瞬で動けなくなった。 まさに狂犬そのものだった。
男はいつも顔を少し伏せるようにして歩いている。 ちゃんと仕事に就いているとも思えない。
ある日、男が公園のベンチに座っていた。 口元がせわしなく動いていた。
男の尋常じゃない迫力に、気持ちがのまれていた。
あの時と同じように、ぼくは、その場から動けなくなった。
そこに、ふいに男が視線を向けてきた。
直樹
ーゾッとした。
それは10年前と何も変わらない狂犬の目だった。
あんな目をする男のことを、どうして、世間は忘れているんだろう。 ぼくには理解できなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!