ふと、あることに気がついた。
あれほど本を好いていた兄が
図書館に寄り付かなくなったり、
シュウジとの会話を避けたり、
礼拝室に行かなくなったり。
笑顔もなんだか嘘っぱち見えたり。
だから、とある日の朝。 思いきって兄に聞いてみた。
津島修治
兄の顔はわかりやすく動揺した。
そしてわかりやすくうろたえて、
目に涙を浮かべて告白してくれた。
“悪魔”に魂を売った。
と。
頭をカナヅチより重い鈍器で殴られたような気分だった。
首をも絞められた気分だった。
どうして?
そう聞くと、
それしか道がなかった、
のだと兄は言った。
……間違いなく、シュウジのせいだろう。
あの時、悪魔だなんて言わなければ
兄はきっと悪魔になんか魂を売らなかった。
死の恐怖に怯えていたのはシュウジだけでなく
兄もだったのに。
なぜあんな軽はずみなことを言ってしまったのだろうか。
そう思うと、罪悪感に押しつぶされて息ができなかった。
フョードル・ドストエフスキー(幼少期)
フョードル・ドストエフスキー(幼少期)
フョードル・ドストエフスキー(幼少期)
フョードル・ドストエフスキー(幼少期)
兄がなぜそんなことを言ったのかは理解できなかった。
だが、次の言葉で兄が言った言葉の意味をすべて理解した。
フョードル・ドストエフスキー(幼少期)
こふ。
と、目の前に赤い飛沫が舞うのが見えた。
津島修治
兄が口元を押さえて激しく咳をする。
赤い液体が滴り落ちる。
津島修治
すぐに水を持ってきた。
そして兄の口の中を何度もゆすいだ。
ゆすいでいる間、近くの女中に主治医を呼べと言っておいた。
そうして少しばかり待つと
兄の主治医がやってきて、解毒薬を飲ませてくれた。
幸いにも主治医が兄が飲んだ毒の解毒薬を持って……
……え?
津島修治
おかしい。
なぜちょうど来たところで素早く解毒薬を飲ませることができた?
変だろう。
おかしいだろう。
主治医は目をつむって
申し訳なさそうに
「フョードル様が私に毒を持ってくるよう命じました。」
「ですので私はいつもその毒の解毒薬を持ち歩いていたのでございます」
と答えた。
はなから死ぬつもりだったのだ。
とんだ茶番劇だと思った。
生きたいと願って悪魔に魂を売ったのに、
売ってしまったことに悔やんで命を捨てようだなんて。
とんだくだらない茶番劇だ。
だから、怒れて怒れて仕方がなかった。
生きたいと強く願うのなら、貪欲にも生きようとすればいいのに!
シュウジは拳を強く握って、
兄が起きるのをじっと待った。
そして兄が目を覚ました直後。
なんの脈絡もなく、兄にこう言い放った。
津島修治
津島修治
死んだはずなのに生き永らえてしまって、
加えて生死の狭間から起きたばかりだと言うのに
こんなことを言ってしまうのは申し訳なかった。
だけど、こうでもしないと守れそうになかった。
こうでもしないと、兄自身も。
そして、私……シュウジ自身も、またこの世の異能力者たちも守れそうになかったから。
フョードル・ドストエフスキー(幼少期)
コメント
7件
ちょっとこちら私の私情になるんですけど、話させていただきます。 こちら二次創作だと分かっているのですが物凄いこの2人に感情移入してしまいました。 私文ストの1話しか出てこないカルマと言うキャラが大好きなのですがその子をドストエフスキーによって○されたことによって少し苦手意識を持っていました。しかし羊右さんのこの作品で今とてつもなくフョードル推しになりそうです。つまり何が言いたいかって言うと羊右さん