第4話 「渡辺はるか」
はるか
「みなさーん、静かにしてください」
はるか
私の呼び掛けには誰も反応しない。
はるか
教師になって早数年。こんな問題児だらけのクラスを担任するのは初めてだ。
はるか
「ちょっと、授業始められないですよー!」
生徒
「うるせーよ!始めてぇなら勝手に始めろよ!!」
生徒
「それな〜。てか授業とかぶっちゃけなくて良くね?だるいし〜。」
はるか
「授業はみなさんの為にやるものなのですよ!そんなんじゃ……」
拓海
「いやいや、先生の授業よりもYouTubeにある動画の方が分かりやすいから。」
生徒
「言えてる!!」
生徒
「やば!拓海言い過ぎ笑」
はるか
そう言ってまたクラスは騒がしくなる。学級委員は呼びかけず、ただ黙々と自学をしている。
はるか
私は泣いて逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
はるか
仕方なく、私は誰も聞いていなくとも授業をやった。板書を取ってくれてる生徒はいるのだろうか?話を聞いている、いや聞こえている生徒はいるのだろうか?
はるか
「……はい、ここまで。ありがとうございました。」
生徒
「あれ?終わってたの?存在感無さすぎて気付かなかったわ。」
拓海
「渡辺の授業が一番つまんねぇの、自覚してくんねぇかな」
生徒
「わかるぅ」
はるか
言葉の暴力が私を襲う。1年3組はここ半年で一気に治安が悪くなり、とうとう学級崩壊状態になってしまった。
はるか
他の先生にも聞いたが、やはりこのクラスは授業態度が最悪らしい。
はるか
それを全て担任である私に押し付けられていて、もう私はぼろぼろだ。
はるか
「はぁ……どうしたらいいの?」
放課後
はるか
理科室に物を忘れてきてしまった。取りに行くついでに、部活で使わない教室の見回りをしてこよう。
はるか
「よし、あった。」
はるか
理科室を出て歩き出した。すると、部活では使わないはずの教室に電気がついていた。
はるか
「失礼します……」
らむね
「ん〜?」
はるか
「え」
はるか
中にいたのはこの学校の制服を着ている子供?いや、生徒か。随分と派手な髪をしているなぁ。
はるか
「何してるの?」
らむね
「え、部活だよ」
はるか
「部活……?何部?あと、敬語を使いなさい。」
らむね
「あはは、ごめんなさ〜い。えっとね、『悩み解決部』ですよ!」
はるか
「『悩み解決部』?そんな部、あったかな?」
らむね
「あるよあるよ!何でもお悩み解決しちゃいま〜す!」
はるか
「悩み…」
らむね
「センセーも、悩みあるの?それならボクが解決しちゃうよ!」
はるか
「え、えぇ」
はるか
こんな子にこの悩みが解決できるのだろうか?まあ、騙されたと思って…。
はるか
「実は、うちのクラスがすごい荒れてて……」
らむね
「へぇ…」
はるか
「それで……」
はるか
その子はメモを取りながら、真面目に話を聞いてくれた。さっきとはまるで別人だ。
らむね
「なるほどね。理解しました!」
らむね
「でさ、ボクはどうしたらいい?やって欲しいことは?」
はるか
「え、えっと。みんなが話を聞いてくれたり、授業を真面目に受けたりして欲しいなぁって。」
らむね
「なるほど、りょーかい!!」
らむね
「じゃあ後はボクにお任せあーれ!」
はるか
「はは、、お願いね。」
はるか
元気だなぁ、この子。任せられるのかな。
らむね
「じゃあさ、明日センセーお休みして!」
はるか
「えぇ。そんな急に言われても。」
らむね
「じゃあ、明日じゃなくても出来るだけ早いうちに一日お休みして?」
はるか
「……わかった。明日休めるようにする。」
らむね
「ありがとっ。明後日をお楽しみに〜☆」
翌日
生徒
「なんか今日渡辺遅くねぇ?」
生徒
「それな、もしや辞めたとか?!」
生徒
「うわ、そうだった場合うちら悪くなんのかな」
拓海
「いやいや、俺ら何もしてないだろ笑」
ガラガラ
生徒
「あ、おせーよ先生!」
生徒
「って、渡辺じゃなくね」
らむね
「はいはーい!ちゅうもーく!」
生徒
「あんた誰?」
らむね
「発言しなーい!」
生徒
そう言ってコイツが私に指を指す。
生徒
「ん?!ん゙ん゙!!」
拓海
「は、何してんの」
生徒
喋れない?!
拓海
「おいガキ、コイツに何したんだよ?」
らむね
「あっれれ?喋らないでって言ったはずだけど〜?」
拓海
「うるっせなぁ。その喋り方鼻につくんだよ!!」
らむね
「わわわ、こっわ〜い!」
拓海
「てめぇ、マジで舐めてるだろ」
生徒
「まあまあ、落ち着けよ拓海。1回コイツの話聞いてやろうぜ。」
拓海
「チッ」
らむね
「うんうん、ありがと☆」
らむね
「渡辺先生に変わって、1日だけこのクラスを担任させてもらいまーす!」
生徒
「…は?」
らむね
「よろしくねぇ〜!」
らむね
「ボクのことはらむね先生って呼んでね!」
生徒
「ちょっと、何言ってんのか分かんないんだけど」
生徒
「そうよ!急になんでアンタみたいな子供が?」
らむね
「発言しないって言ったよな?」
それはさっきの人とはまるで違う、低く可愛らしさを感じない声だった。
生徒
「……っ」
らむね
「はーい、静かになったね!」
らむね
「頃合かな……」
そう言ってらむねは右手を前に出して、人差し指で真っ直ぐに中央を指した。
拓海
何してんだ、コイツ…。
そしてその指を床に向けた途端、生徒たちは一斉に倒れた。
らむね
「よーし、始めちゃうよぉ…」
怪しい笑みを浮かべてらむねはそこに佇んでいた。
翌日
はるか
うーん…。何だか緊張する。ほんとにみんな真面目になってくれたのかな。
はるか
「ふぅ……よし」
はるか
覚悟を決めてドアを開けた。
はるか
「おはようございます」
生徒
「おはようございます」
生徒
「おはようございまーす」
はるか
「えっ…」
はるか
みんな挨拶を返してくれた?しかも席に座っている…?!すごい、どういうこと…
はるか
「みんな、改心してくれたんだね!先生嬉しいよ!」
はるか
生徒たちは、表情一つ変えずそこにただ居る。
はるか
声も出さず、微塵も動かず。少し不気味だ。
はるか
「さぁ、ホームルーム始めよう!」
しばらくして
はるか
なんか変だ……。
はるか
あの日を境に生徒たちは、感情のないロボットみたいになってしまった。
はるか
その後、あの子にも会わないし…。
はるか
これは私の望んだクラスじゃないよ……。
らむね
あのクラス、今はみーんな真面目かなぁ。
らむね
先生の言うこと聞いてれば真面目だからね。ああやっとけば大丈夫。
らむね
「活動範囲を広げるのも1個の手だなぁ」