テラーノベル
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ぱちぱちと。雨が地面を鳴らす。
明日は良い日になるかもしれないと、 そう思いながら中学生時代の俺は毎晩眠りについていた。
ある日突然クラスメイトから無視されるようになったみたいに、 ある日突然それが終わるのではないのかと。
それが明日かもしれないと。
けれど終わらないまま中学を卒業し、 俺は高校生になった。
新しい環境になれば、楽しく過ごせるかもしれないと思った。 幸い友だちはできた。ほっとした。
けれど、自分の言動が相手にどう思われているのかわからなくて 顔色ばかりうかがってしまう。
何か失敗したらまた無視されるようになるのではないかと、 いつも気を張って過ごさなければいけない。
目立たないように、浮かないように、 友だちを怒らせたり嫌な気持ちにさせたりしないように。
あいづちを打って、欲しくないおそろいのキーホルダーを買って 楽しくないのに笑って、息苦しさが増すばかり。
いつの間にか、未来になんの期待もできなくなった。
いつまでこんな日々が続くのかと考えると 目の前が真っ暗になる。
高校を卒業したら?大学生になったら?社会人になったら? そのころには、今より楽に息ができるようになるのか?
そんな保証どこにもない。むしろ今より生きにくいかもしれない
そんなことを考えていると、夜に眠れなくなった。 二十四時間ずっと不満とか不安とかがまとわりついて、
夜が果てしなく長く感じる。 つらいのに、朝が来るのも嫌。
早く終われ。
こんな日々終わってしまえ。
そうだ、俺は死にたい、ではなく、 やめたい、のだ。終わりたいのだ。
ア ー サ ー
期待も希望も不安も絶望も感じずに。
ア ル フ レ ッ ド .
顔色も悪すぎてビビる、と少年が笑った。
ア ー サ ー
楽しげにケラケラと笑う少年は、 死にたいようには見えない。
俺とちがって、 毎日楽しく暮らしているのではないかと思う。
それほど、彼の瞳からは生気を感じた。 キラキラとかがやいていて、未来を見つめているのがわかる。
俺には、ないものだ。
ア ル フ レ ッ ド .
ア ル フ レ ッ ド .
ア ル フ レ ッ ド .
悲しくて苦しいことも特になかったけど、 楽しいこともうれしいことも、なかったしね、 と少年は言葉を付け足した。
ア ル フ レ ッ ド .
少年は、目を伏せてさびしげに微笑んだ。 なつかしむような、悔いているような、
そんな不思議な表情に胸がうずく。
一見、俺なんかよりもずっと生きやすそうな少年も、 いろんな思いが胸の中に渦巻いているのだろう。
知らず知らずに不幸の優劣を測って、見た目だけで少年は 軽い気持ちと判断した自分がはずかしくなる。
言動が自分とちがうからといって、 俺よりも強いとか弱いとか重い軽いとか、わかるはずないのに。
さっき見た笑顔は幻だったのかと思うほど、 今の少年はかげり、歪んでいる。
なんでこんな子が死のうと思わなければいけないのだろう。
きっと、この世界がくだらないのが、悪い。
ア ル フ レ ッ ド .
そんなの今までさんざん探して、考えた。 その結果が今だ。
ア ー サ ー
俺の返事は期待していなかったのか、 少年はひとりで話を続ける。
ア ル フ レ ッ ド .
ね、と同意を求められて、俺は何も返すことができなかった。
ア ル フ レ ッ ド .
少年が空を指さした視線を動かすといつの間にか雨がやんでいて 雲のすきまから太陽の光がこぼれ落ちている。
濡れた屋根が道が、その光を反射させてキラキラと輝いている 世界に光が注がれているみたいだ。
ア ー サ ー
思わず口にすると、少年は「だよね」と笑った 中学生らしい無邪気な笑み。
それは、今俺の視界の中でもっとも美しくまばゆかった。
ア ル フ レ ッ ド .
目を細めると同時にもち上がった口角。 やっぱり、この少年は笑っていたほうがいい。
そのほうが似合う。
なんで、こんな子が死のうと思わなければいけないのだろう。
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