これは 誰も知らない
「浦島太郎」の
秘密の物語
深い深い海の底に
「竜宮城」とよばれる
皆の憩いの場がありました
タイ
タイ
ヒラメ
ヒラメ
タイ
タイとヒラメが 楽しそうに話すのを
乙(おと)
乙は、遠くから ぼんやり眺めていました
乙(おと)
乙(おと)
タイは鮮やかな赤い色
ヒラメはモダンなマダラ柄
それぞれ、美しい姿を 持っています
乙はそれが 羨ましいのでした
乙(おと)
乙(おと)
カメ
カメ
カメがぶくぶくと 泡を作りながら
竜宮城へ帰ってきました
乙(おと)
乙(おと)
タイ
タイ
太郎
ヒラメ
タイ
カメ
カメ
カメ
乙(おと)
タイ
ヒラメ
そう言って、2人は 踊り始めました
タイは美しさを 見せつけるように激しく
ヒラメは柔軟な体で 優雅に
太郎
乙(おと)
それを見ていた太郎は 一緒に踊り始めました
乙(おと)
乙(おと)
太郎の不思議な舞は
乙の心を 激しく揺さぶりました
その時です
タイ
くるりと回転する タイの尾ビレに
太郎
太郎の手が当たりました
乙(おと)
乙はそう叫ぶと タイの元へ駆け寄りました
乙(おと)
タイ
ヒトの肌が 魚には熱すぎることを
乙は知っていました
乙(おと)
乙(おと)
乙(おと)
乙(おと)
乙(おと)
太郎
太郎
乙(おと)
太郎
太郎
乙(おと)
乙(おと)
乙(おと)
それは乙にとって
とても幸福なことでした
乙たちの一族は 他の魚たちと違い
子を腹から産み
乳で育てます
そして……
ヒトのように温かい肌を 持っていました
種の違いは、乙を 孤独にしていました
「憩いの場」である、 竜宮城にいても
太郎
乙(おと)
同じ哺乳類の2人が 惹かれ合うのに
そう時間は かかりませんでした
それから、しばらくして
乙(おと)
乙(おと)
太郎
太郎
乙(おと)
太郎
太郎
乙(おと)
それは乙には 考えられない事でした
乙(おと)
太郎
乙(おと)
太郎
太郎
乙(おと)
太郎
乙(おと)
乙(おと)
太郎
乙(おと)
太郎
その言葉を乙は遮ります
乙(おと)
乙(おと)
乙(おと)
太郎
乙(おと)
乙(おと)
太郎
乙(おと)
太郎
太郎
乙(おと)
太郎
乙(おと)
太郎
乙(おと)
乙(おと)
太郎
太郎
乙(おと)
乙(おと)
そこで、乙は言葉を つまらせました
言えるはずがありません
乙(おと)
それが二人の種の 決定的な違い
太郎
太郎
太郎
乙(おと)
乙(おと)
乙は覚悟しました
永遠の、別れを·····
太郎
太郎
太郎
太郎が乙に触れます
他の魚ならば 火傷してしまうほどに
熱い、その手で
乙(おと)
乙(おと)
乙(おと)
乙(おと)
#TELLER文芸部
コメント
14件
比較的ファンタジーな内容なのに対して、徹底して「哺乳類」と書いているのが印象的です。 乙姫が人間ではなく、あくまで海のものであることを想起させ読者が「太郎は乙姫を見つけられないんだろうな」と想像させるのがよかったです。 日本神話の豊玉姫みたいだな、と思いました。
人の価値観と海洋生物の価値観の食い違いが妙なリアルさを引き立てていて面白かったです!太郎が両親に会っている間、乙にとっては長い時間を過ごしているように感じるのでしょうね...彼女の切なさがぐっと伝わりました!