TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

これは 誰も知らない

「浦島太郎」の

秘密の物語

深い深い海の底に

「竜宮城」とよばれる

皆の憩いの場がありました

タイ

ヒラメちゃん!ヒラメちゃん!

タイ

新しい踊り、覚えたよ!

ヒラメ

本当に?

ヒラメ

タイちゃんは覚えるのが早いなー

タイ

そう言うヒラメちゃんは、踊りがとっても上手いじゃないの

タイとヒラメが 楽しそうに話すのを

乙(おと)

……

乙は、遠くから ぼんやり眺めていました

乙(おと)

(いいな……)

乙(おと)

(2人は、綺麗で……)

タイは鮮やかな赤い色

ヒラメはモダンなマダラ柄

それぞれ、美しい姿を 持っています

乙はそれが 羨ましいのでした

乙(おと)

(それに比べて、私は……)

乙(おと)

カメ

おぉーい

カメ

今帰ったよー

カメがぶくぶくと 泡を作りながら

竜宮城へ帰ってきました

乙(おと)

(何かしら?)

乙(おと)

(あの、背にいるのは……)

タイ

ねぇねぇ、カメさん

タイ

その背中にいるのは、誰なの?

太郎

僕は、浦島太郎

ヒラメ

うらしまたろう……

タイ

しま模様なんてないじゃない。変な名前〜

カメ

おい!

カメ

この人は、ワシの命の恩人じゃぞ?

カメ

失礼な事を言うでない

乙(おと)

(命の恩人?)

タイ

そうなの?ごめん、ごめーん

ヒラメ

おわびに、あたし達の踊りを見てってよ

そう言って、2人は 踊り始めました

タイは美しさを 見せつけるように激しく

ヒラメは柔軟な体で 優雅に

太郎

これは、これは

乙(おと)

(いつ見ても、綺麗ね……)

それを見ていた太郎は 一緒に踊り始めました

乙(おと)

(なんて……)

乙(おと)

(愉快な人なの?)

太郎の不思議な舞は

乙の心を 激しく揺さぶりました

その時です

タイ

それ!!

くるりと回転する タイの尾ビレに

太郎

あっ!

太郎の手が当たりました

乙(おと)

ダメよ!離れて!

乙はそう叫ぶと タイの元へ駆け寄りました

乙(おと)

タイちゃん!
火傷してない?

タイ

大丈夫よ。ちょっと、熱かっただけ……

ヒトの肌が 魚には熱すぎることを

乙は知っていました

乙(おと)

太郎様

乙(おと)

この度はカメを助けて頂き、ありがとうございます

乙(おと)

ですが、あなたの手は

乙(おと)

この子たちには、熱すぎます

乙(おと)

どうか、触れることの無きように……

太郎

そうなのか、ごめんよ

太郎

君は……物知りだね?

乙(おと)

いえ。それほどでも、ございません

太郎

それに……

太郎

とても、かわいいね

乙(おと)

そ、そんなことは……

乙(おと)

(太郎様が、私を褒めてくださった……)

乙(おと)

(ふくよかで、黒ずんた色の、私を……)

それは乙にとって

とても幸福なことでした

乙たちの一族は 他の魚たちと違い

子を腹から産み

乳で育てます

そして……

ヒトのように温かい肌を 持っていました

種の違いは、乙を 孤独にしていました

「憩いの場」である、 竜宮城にいても

太郎

君とは、仲良くなれる気がする

乙(おと)

……私もです

同じ哺乳類の2人が 惹かれ合うのに

そう時間は かかりませんでした

それから、しばらくして

乙(おと)

太郎様……

乙(おと)

お話があります

太郎

ちょうどいい

太郎

僕も、君に話があったんだ

乙(おと)

私に?

太郎

太郎

僕と一緒に、陸で暮らさないか ?

乙(おと)

陸……で?

それは乙には 考えられない事でした

乙(おと)

それは、できません……

太郎

僕の両親に、会ってほしい。真剣なんだ

乙(おと)

でも……

太郎

一目会うだけで構わない

太郎

いいだろう?

乙(おと)

……できません

太郎

どうして?

乙(おと)

太郎様

乙(おと)

海での暮らしは、そんなに容易いものではありません

太郎

どういう意味だい?

乙(おと)

一度この地を離れれば、戻る事はできません

太郎

それなら、カメに─

その言葉を乙は遮ります

乙(おと)

太郎様……

乙(おと)

残念ながら、私たちには

乙(おと)

太郎様と、他の人間を区別する事はできません……

太郎

なんだって!?

乙(おと)

……あなたが、タイやヒラメたちと

乙(おと)

他の魚を区別できないのと、同じです

太郎

……気づいてたのか?

乙(おと)

はい

太郎

それでも……両親には、会いに行かないと

太郎

何も言わず、ここに来てしまったんだ

乙(おと)

会って、どうするのです?

太郎

え?

乙(おと)

親元を巣立つのが、子の定めです

太郎

それは、そうかもしれないけど……

乙(おと)

では、良いではありませんか

乙(おと)

私も親元を巣立ってから、両親に会った事はありません

太郎

そんな……

太郎

寂しくは、ないのかい?

乙(おと)

心配は……します

乙(おと)

けれど、私たちは……

そこで、乙は言葉を つまらせました

言えるはずがありません

乙(おと)

(人ほど長くは、生きられないのです……)

それが二人の種の 決定的な違い

太郎

それでも、僕は……

太郎

太郎

両親に、会いに行くよ

乙(おと)

乙(おと)

わかり、ました

乙は覚悟しました

永遠の、別れを·····

太郎

両親に、告げてくる!

太郎

僕は、海で暮らすと

太郎

すぐに戻る!絶対に、君を見つけるから!!

太郎が乙に触れます

他の魚ならば 火傷してしまうほどに

熱い、その手で

乙(おと)

太郎様……

乙(おと)

お待ちしております

乙(おと)

いつまでも、あなたの帰りを

乙(おと)

(お腹の子と、一緒に)

#TELLER文芸部

この作品はいかがでしたか?

261

コメント

14

ユーザー

比較的ファンタジーな内容なのに対して、徹底して「哺乳類」と書いているのが印象的です。 乙姫が人間ではなく、あくまで海のものであることを想起させ読者が「太郎は乙姫を見つけられないんだろうな」と想像させるのがよかったです。 日本神話の豊玉姫みたいだな、と思いました。

ユーザー
ユーザー

人の価値観と海洋生物の価値観の食い違いが妙なリアルさを引き立てていて面白かったです!太郎が両親に会っている間、乙にとっては長い時間を過ごしているように感じるのでしょうね...彼女の切なさがぐっと伝わりました!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚