深夜の学校
いつも大勢の学生がいるはずの教室に 今は二人きり。
教卓に両手をつく僕と 真ん中の席に座る彼。
竜胆
竜胆
狛
竜胆
狛
竜胆
竜胆
狛
竜胆
真っ暗の教室に 月明かりだけが差し込んで二人を照らす
今日はいつもより長く 彼と居られる
竜胆
狛
狛
竜胆
狛
狛
話したくない話題に蓋をした
狛
これできっと確信しただろう
でも自分からは到底言えなかった
言ってしまえば もう二度と会えないと思うから。
そう思うと途端に寂しさが押し寄せる
竜胆
竜胆
竜胆
何かを思いついたように 瞳を煌めかせる彼が校庭を指さす
その姿はまるで少年のようで この瞬間が如何に楽しいかを 間接的に伝えてくる
狛
竜胆
竜胆
悪戯を思いついた子供のように笑いながら 席を立って窓辺に向かう彼を追って 僕も教卓から離れて隣へ並ぶ
狛
竜胆
狛
竜胆
竜胆
骨張った長い指が僕の頭を雑に撫でる
その感覚に捕らわれていたら 彼は廊下の闇に吸われかけていて
一瞬たりとも彼を見逃したくない僕は 慌てて背中を追いかけた
夜のプールは水面に月明かりを集めて 星が瞬くように反射する
竜胆
竜胆
水中からパシャリと飛び出る彼が 前髪をかき上げながら言う
僕はズボンを捲り上げ靴と靴下を脱ぐと スタート台に腰をかけ足首まで水に浸りながらその姿を眺めていた
狛
竜胆
狛
竜胆
決して誰にもバレないように
この瞬間この世界は二人だけでいい
狛
竜胆
のびのびと夜空へ両手を広げながら 僕の方へ歩み寄る彼の右半身は 学校とは似ても似つかない
それがとても美しい
竜胆
狛
竜胆
竜胆
彼は得意げに右腕を撫でながら スタート台の隣に背中を預ける。
健康的な肌の上を緻密に這う黒色は 何の迷いもなく正確に美しく 彼の体に刻まれている
竜胆
問いに答える隙もなく、 「ん」と濡れた腕を膝に置かれた
鍛えられた腕は僕よりずっと逞しくて重い
狛
黒で飾られた腕に手のひらを重ねて ゆっくりと撫でると 素肌と刺青の境い目に僅かな凹凸がある
指先でなぞる度、 ぽこぽこと段差を感じて癖になる。
竜胆
竜胆
狛
狛
狛
彼の有無を問わず腕に置いた指先を するすると滑らせると 擽感を感じるのか肩が微かに跳ねた
可愛い
でもこんなことを口に出したら 腕を引っ込められてしまうから 気合いで言葉を飲み込んだ。
狛
本当は頬擦りをして抱きしめてやりたい
でもまだ僕は君に触れるだけ。
竜胆
竜胆
彼からの声掛けに反応し 腕から顔へと視線を移した瞬間
突然の浮遊感と歪んだ視界の先で 彼が笑顔で言葉の続きを紡いでいる
なんだろう なんて言っているのだろう
そんなことを思っていたら 水面は大きな飛沫を挙げて 僕らは水の中に飲み込まれた。
慌てて、ぶはっと息を吐きながら 水中から顔を出す。
顔に張り付く髪が気持ち悪くて 首を左右に勢いよく振ってから 雑に前髪をかきあげた。
竜胆
狛
狛
笑い声を上げている彼に視線を向けては 眉間に皺を寄せる
狛
咎めてやろうと詰め寄ると 同じように顔を寄せられ、
やばい近い、と距離を取ろうとした頃には 後頭部に腕を回され唇が重なっていた。
呆気なく奪われた僕の初めての口付け。
触れるだけの唇が名残惜しそうに離れ 代わりに手のひらが頭に置かれた。
竜胆
竜胆
そう言いながら僕の目を覗く瞳も 髪から伝う雫も色っぽくて視線に困る
それ以上に返す言葉に戸惑う。
何のしがらみにも縛られず 素直に好きだと伝えることが出来たら どれだけ楽になれるだろうか
狛
狛
竜胆
竜胆
竜胆
頭に預けられた手のひらが 毛流れに沿って降りてきて僕の頬を撫でた
竜胆
貴方はいつだってずるい
僕にばかり答えを委ねてくる。
狛
狛
微塵も思っていない言葉が 水滴のようにぽたぽたと落ちてくる。
それなのに彼は愉しげに笑っている
僕は少しも楽しくないのに。
竜胆
竜胆
竜胆
狛
竜胆
竜胆
溜息混じりに吐かれた言葉の意図が読めなくて、今まで過ごした時間さえ否定されている気がして胸の奥が苦しい。
所詮御前は人質として働くだけの駒だと言われた気がして苛立った。
それならどうして心や唇まで奪ったのだと問い詰めたくなった。
でもそんなこと僕には出来ない。
狛
狛
鼻の奥が痛くなって 瞳に涙が競り上げてくる
もう会うことはないからどうだっていいのに、泣き顔は見られたくなくて俯くと
髪から滴る雫が涙を誤魔化すように頬や目元を伝ってプールに落ちる。
今貴方はどんな表情をしているのだろうか
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