先生
締め切りだ
先生
早めに持って来いよ
「はーーい」
学校が終わったあと
私はいつもの河川敷に行く。
おーっす
早くてねー
彼の名は澄くん。
学校は違うけれど、習っていた 塾が同じで仲良くなった。
進路表締め切りなんだ
しとこうかなって感じ
もう出した?
芝生の上にごろんと寝そべって、 空を見上げた。
高く見えるんだろう
感じで好きだなあ
気がするから
そう言って空に手を伸ばす君の横顔は
どこか寂しそうに見えた。
ふと、視線を彼から下げると
君の鞄に、くしゃくしゃになった紙が入っているのを見つけた。
澄くんが私の視線の先を探し、 ああ、という表情になる。
がばっと身を起こし、澄くんから受け取った進路表を見た。
もう決まってんだ
上手いし絶対なれるよ!
消すつもり
ちゃったんだよね
伝えても
届かなかったから
澄くんはそう言って私から視線を 逸らした。
その悔しげな表情は、
空に手を伸ばした時の彼を 思い起こさせた。
澄くんから強引に進路表を貰い
それを、折りたたんでいく。
進路表で作った紙飛行機を持った手を
大きく振りかぶって
勢いよく、空へと放つ。
飛べ
進め
もっと高く。
紙飛行機は、風に乗って ふわりと進み出す。
でも、だんだんと不安定になり
地面に降下していった。
澄くんは、半ば諦めた表情でそれを 見つめていた。
その瞬間、一際強い風が吹いた。
落ちてしまいそうだった紙飛行機は、また空へと
前に向かって進み出した。
空はどこまでも高かった。
澄くんの夢を乗せた紙飛行機が
青空に舞っていた。
紙飛行機は遠くへ、遠くへと 飛んでいく。
やがて空に消え、見えなくなった。
澄くん
澄くんは目を見開いて、空を 見つめていた。
そして、しばらくしたあと私に 向き直る。
澄くんはふっと笑った。
話してみるよ
そう言って、また空を見上げた。
その横顔は、決意した、表情だった。
秋の空と紙飛行機