風花の舞う日

自宅に戻り靴を脱いでリビングに入る。

お帰りの声は聞こえない。 子供部屋として用意された部屋に入ると既にシオが入院用に準備した荷物が ひとまとめにされて置いてあった。

渡辺先生の言葉を思い出し 緊張と不安をほぐすため シャワーを浴びることにする

頭から全身にお湯を浴びる

深呼吸を何度か繰り返して 精神統一をはかる。 シオは大丈夫だろうか…。 苦しい思いをしていないか 気になって仕方ない 子供達は？ 無事に産まれてきてくれることを 祈るしかない。

くよくよしていてもキリがないので ガチャガチャと頭と身体を洗い、 タオルで身体を拭いていく。 暫くは独りになるだろう。 この寂しさにも慣れて いかなきゃいけないな。と 自嘲気味にため息をつく。

鏡に向かいドライヤーで丁寧に頭を乾かし髪型を整えていく。 外はまだ寒い。 ダークグレーのタートルネックの セーターとブラックジーンズを チョイスした

待合室

渡辺先生は売店で買ってきただろう、 俺の対談記事に目を通しながら 紙コップに入ったコーヒーを飲んでいる。

蓮は手をヒラヒラさせながら 出口に向かう渡辺の背中に頭を下げる

全身麻酔の中母体の負担を考えると 手術の時間は3時間以内

羊水を吸い出すと元気な泣き声 すぐさま身体を拭いて保育器へ入れる

1人目男の子1510ｇ 16日1時21分誕生

医師の言う通り時間経過3時間を過ぎている。女児の身体は青みがかった酸欠の状態で産まれてきた

すぐさま羊水を吸い出し身体を逆さまにし背中を叩く

バン！バン！

2人目1260ｇ2月16日2時16分誕生

長い廊下を3人横並びになって 歩いていく。

ふと横を見ると目黒の頬には涙が。

あぁ。感動してるんだろうな。 宝物が一気ににふたつも増えた その喜びを噛み締めているんだろう。 ふっかと岩本は見つめ合って 笑顔を交わし目黒のその姿を 静かに見つめていた。

ガラス越しに子供の頭の位置で手を向け撫でる仕草をする まだ触れられない愛しい宝物達。 手を離せば消えてしまう儚い生命 護りたくなるのは当たり前なのかもしれない

2人ともありがとう。

眠っているシオのおでこにキスを落とす

腰掛け背中を壁につけてもたれる

力尽きるかのように眠りにつく。

10分後

目を開けると見慣れない白い天井 混濁する記憶の中で周りを確認する ここ……どこ？病院？ 次第に意識が鮮明になってくる。 視線を移すと壁にもたれて 静かに眠っている蓮の姿が映る

扉を開ける音がする

搾乳器を取り付け搾り取るように 初乳が哺乳瓶に落ちていく

看護師が出ていく

ブランケットを蓮の膝にかけてあげる。 きっと付きっきりで そばに居てくれたんだろうな。 看護師さんに気付かないくらい爆睡してるし(笑)

肩を揺すり蓮に声を掛ける。

目を擦りながら 軽く伸びをしてあくびを逃がす。

そう言って手を回し抱きついてくる

シオはクスクスと笑い 抱きついている蓮の手を撫でる

身体を離し、布団を肩までかけて 頭を撫でられる。蓮に休んで欲しくて 無理矢理眠りにつくことにする。