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神ですか⁉︎
すごい深い作品ですね…… かさみねちゃんっ、お久しぶり!覚えてるかな?前垢の名前はSᗩKi🍓◡̈でした。コンテストとか参加してくれたよね!覚えてないかな……
んー、深い!! 時に人は『死にたい』と考えてしまう事があるかもしれませんが、 それでも『死ぬ事は悪い事だ』としっかり強く止めてくれる人は必ず存在してほしいと思っています。 死立て屋さんは強く、それでいて優しく、温かいとても素敵な存在ですね。良いお話でした!!
医療が発達し、誰もが不死身と なった世界
ここは、そんな世界で死を願った者に
〝死を提供する〟場所だ。
今日も死を乞う人々がやって来る。
死立て屋
「楽に、死にたいんです」
そう言ってやって来たのは二人の 老夫婦だった。
二人は用紙とペンを受け取ると
時々目配せをし、微笑み合いながら
紙にペンを走らせていった。
紙には、自分がとうに九十をこえた 身であり
もう死に時なのではないかと 考えていることと
二人で安らかに死にたい、という ことが綴られていた。
老婆
二人はゆっくりと、言葉を つむいでいく。
老爺
老爺
それは、曇りのない笑顔だった。
…この二人に、私が死を止める 理由はない。
老婆
二人の夫婦は「ありがとう」と 礼を言ってから店を出ていった。
…やはり、慣れていても人の死を 手伝うというのは
気持ちの良いものではない。
政府と死立て屋は繋がっている。
死立て屋は政府に、 〝死を願った人〟への死の提供を お願いされている立場であり
依頼を引き受けたときは、誰がいつ 亡くなるのかを知らせなければ ならなかった。
連絡を一通り終えた頃、 一人の訪問者が
店の扉を開け放った。
言えば、その少年は異質だった。
年は高校生くらいだろうか
整った顔立ちでありながらも、 その表情は
これから死を迎えようとしている 人間とは思えないような
何かに興奮しているような、 まるで攻撃的ともいえるような
異様な空気を纏っていた。
用紙とペンを渡すと、少年は一つの 迷いもなく書き進め
空欄は一瞬の間に埋まっていた。
紙を受け取り、そこに 記入された言葉を見て
私は愕然とした。
少年は、狂ったように早口で まくし立てる。
ハッとして声のした方向に 振り向くと
一人の少女が受付の前に たたずんでいた。
どうやら、大声で言い合っていた せいで
客が来たことに気づかなかった らしい。
うるさい少年は無視して、私は 少女の方に向き直った。
少女は綺麗な文字で言葉を 書き綴る。
その言葉が薬の決定を尋ねているものでないことは
まだ幼い少年少女でも分かった。
少女の目には、少しの迷いが 生じていた。
少女は、少し考えてから
やがて小さく首を振った。
しかしその目は、強い意思で あふれていた。
私はふっと微笑んだ。
少女は携帯番号の書かれたメモ用紙を 握りしめると
店の扉に手をかけた。
ふわふわと手を振る少女の笑顔には、 まだぎこちなさが残っていたが
彼女の本来の明るさを、垣間見せて くれたような気がした。
少年は真剣な眼差しで尋ねた。
死立て屋は、まだ誰にも話した ことのなかった
「死立て屋」を始めた理由について
ついさっき出会ったばかりの少年に、 語り始めていた。
それは、誰かに一度
自分の思いを聞いて欲しかった からかもしれない。
死立て屋は立ち上がると
もう少女に必要のなくなった安楽死の 薬を、棚に戻していった。
死は、誰でも一度は願ってしまう ものだ。
そんな時は、誰かに助けを求めて みて欲しい、と死立て屋は思う。
明日も死を乞う人々がやって来る。
死立て屋の扉は、明日も開く。