テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
花梨
148
神奈川県警公安部庁舎を出る頃には、日付が変わりかけていた。
夜風が冷たい。数日ぶりの外。 深緒は小さく息を吐き、返却されたスマホの電源を入れた。 次の瞬間。
ブブブブッ!!!
大量の通知が一気に流れ込む。未読メッセージ。不在着信。メール。 その中に。
【降谷零】
深緒の指が止まった。 着信履歴。メッセージ。何件も並んでいる。
『深緒さん』 『大丈夫ですか?』 『連絡ください』 『どこにいますか』
拘束初日。二日目。三日目。
だが。ある日を境に、それはぴたりと止まっていた。
松田深緒
深緒は静かに画面を見つめる。なぜ。急に連絡をやめたのだろう。私から状況を聞く必要が無くなった?
一体なぜ。
深緒はゆっくり思考を巡らせる。 千速から聞いた?
いや。それは無理だ。 あの日、神奈川県警公安部は、あの場にいた全員へ箝口令を敷いたはず。刑事部ですら、簡単に情報共有できない。まして降谷さんは神奈川県警ですらない。
松田深緒
兄と研二の警察学校の同期だから、警察の人間だという認識はあるが、所属は知らない。
松田深緒
ぽつりと漏れる。そして少しだけ苦く笑った。
松田深緒
そう呟き、空を見上げる。そしてもう一度思考する。
まるで、“もう連絡しても意味がない”と分かっていたみたいに、連絡をしてこなくなった。その理由はなんだ?
もうどうでもいいと諦められた線もあるが、流石にそうだとは思いたくないし、おそらく違う。
松田深緒
深緒の頭に、1つの仮説が浮かぶ。その時。
ブブッ。 スマホが震えた。
【高橋】
科捜研で、深緒の唯一の後輩。
深緒はすぐ通話を取る。
松田深緒
高橋
安堵した声だった。
高橋
高橋
松田深緒
高橋
高橋
松田深緒
深緒は息を飲んだ。 解放されたのは、高橋と私だけ……?
松田深緒
深夜のファミレス。人の少ない店内。
松田深緒
高橋
深緒は席に座る前、短くメッセージだけ送った。 『ファミレス寄って帰ります。帰ったら話します』
送信先は降谷零。
向かいに座った高橋は、疲れ切った顔で水を飲み干した。
高橋
松田深緒
高橋
高橋
高橋
その言葉で、深緒の思考が止まる。新人。そうだ。高橋は若い。
そして。
松田深緒
高橋
松田深緒
高橋
きょとんとした顔。
高橋
そこで。深緒の中で、何かが繋がった。
十年前の医療事故。証拠隠蔽。当時の科捜研。
科捜研は高齢化が進んでいる。 所長。主任。ベテラン研究員達。ほとんどが、十年以上前から科捜研に所属していた。
でも。深緒と高橋だけは違う。
松田深緒
高橋
つまり。“今の科捜研”ではなく、“十年前を知る人間”を押さえたかった?
しかし先走った神奈川県警公安部が、深緒と高橋を含めた全員を拘束した。そこに警察庁公安部が介入したのだろうか。知らせが来てからの解放は早かった。
それにしても。ただの県警公安案件に、警察庁公安部が?
深緒は無意識に唇を噛む。
松田深緒
高橋
深緒は小さく息を吐く。 不意に、脳裏に一人の顔が浮かんだ。
高橋
深緒はハッと顔を上げた。
松田深緒
小さく笑う。でも。心臓だけが、嫌なほど速く脈打っていた。その時。
店の外へ、一台の車が静かに停まった。深緒の視線が向く。
運転席には、見慣れた金髪。思わず目が離せなかった。
高橋
深緒は答えなかった。
ピコン メッセージの通知が鳴る。
降谷零
ただ、静かにスマホを見下ろす。
降谷には、『ファミレスに寄って帰る』としか伝えていない。この周辺だけでも、ファミレスは複数ある。 降谷は、一体どうやって私を見つけたのだろう。
その時。ふと、前に一度だけ感じた違和感を思い出す。
“充電切れそうでしたよ” そう言って、降谷が深緒のスマホに触れた日。なんてことないことだ。 けれど、深緒だって科学者の端くれだ。
設定画面。僅かな権限制限。そして最近、充電の減りが異様に早い。気のせいかと思って流した、小さな違和感。 深緒は静かにスマホを見下ろす。
松田深緒
考えすぎかもしれない。でも。色々な点が、妙に繋がっていく。
多忙すぎる生活。所属を濁す態度。“安室透”という偽名。そして。
警察庁公安部。
深緒は小さく息を吐いた。怖いとは思わなかった。むしろ、どこか納得してしまった自分がいた。
高橋
松田深緒
高橋
松田深緒
松田深緒
高橋
深緒はバッグを持って立ち上がる。
店を出る。夜風が吹いた。 車の窓が、ゆっくり下がる。
降谷零
いつも通りの声。 深緒は助手席のドアを開け、乗り込む。静かにシートベルトを締めた。 車が走り出す。
しばらく沈黙が続いた。 やがて、降谷が前を向いたまま口を開く。
降谷零
松田深緒
掠れた声だった。
松田深緒
降谷零
その声が、少しだけ柔らかい。深緒は窓の外を眺める。 そして、小さく笑った。
松田深緒
松田深緒
ほんの僅か。降谷の目元が緩む。
降谷零
赤信号。車が止まる。 深緒は数秒、降谷を見つめた。
聞きたいことは山ほどあった。 ーーどうして私の居場所が分かったんですか。ーー ーーどうしてあなたは、全部知っているような顔をするんですか。ーー
『あなたは一体、何者なんですか。』
でも。 今はまだ、聞くべきじゃない気がした。
コメント
1件
…(*´ω`*)(尊死) この二人の距離感好きすぎる…💕