あ。梅雨入りか…。
五月後半。
ついに、アナウンサーが梅雨入りを告げた。
秋原 蓮
まじか…。
窓の外は、どんよりと灰色の雲が空を覆いつくしていて、
それはまるで、自分の心を表しているようで。
鈴木 涼
ピンポーン、蓮ー!学校行くぞー!
鈴木 涼
起きてんのかー?
秋原 蓮
おい…お前、人ん家の前で朝から叫ぶなって…。
鈴木 涼
いいだろ~、昔からの付き合いじゃんか~。元気なのはいい事だし。
秋原 蓮
いや、お前の場合は元気すぎんだよ。
蓮の母親
あら、涼くん、おはよう!
鈴木 涼
あー、蓮ママじゃん、おはよー!やっぱ、ママさん、いつまでもお若いですわね~
蓮の母親
あらやだ~、涼くんったら、昔からお世辞言うのが上手ね~。
鈴木 涼
お世辞なんかじゃないっすよ~。流石、美容師さんだから、髪の毛とかも
綺麗だし!そうだよな、蓮!
秋原 蓮
…涼、なんでそんなに俺の両親と仲いいんだよ…。
蓮の母親
あ、そういえば梅雨入りしたそうだけど、二人とも、サッカーの練習頑張ってね?
パパと一緒に全力で応援しに行くから!
秋原 蓮
いや、いいって…。大丈夫だから。
鈴木 涼
わーやったぜー!蓮ママが試合のときに持ってきてくれる弁当、俺めっちゃ
好きなんすよね~。特にあの大きめのから揚げとか!
蓮の母親
あら~、ほんと?じゃあ、今年もたくさん作っちゃおーかな!
秋原 蓮
あ、そろそろ学校だから行くわ。
蓮の母親
行ってらっしゃい!あ、涼くん、今日の夜も家でご飯食べてく?
鈴木 涼
いいんすか?でも流石に三日連続は…。
蓮の母親
だって、涼くんのお母さん、病院の夜勤あるから、せっかくだし、食べてって
ちょうだい?涼くんのお母さん、いつも涼くんが適当にご飯食べてるから
心配してたわよ~?
秋原 蓮
ああ。せっかくだし、食べてきなよ。今日の夜、鍋だし。
鈴木 涼
んー、じゃあ、お願いします!
蓮の母親
了解!じゃあ、いってらっしゃい!気を付けて~!
鈴木 涼
はーい
秋原 蓮
うーい
鈴木 涼
お前ん家の母さん、いいよな~!
秋原 蓮
そうか?
鈴木 涼
ああ。なんか、凄くフレンドリーっていうか、明るいし、楽しいし。
お前のお父さんも、遊び心あって、面白いし。
秋原 蓮
あー、でも母さんは一日中元気すぎるから、たまにめんどいけどな?
後、父さんは、普通に子供…っていうか。
秋原 蓮
前も、父さんが急に「明日、アメリカ行くか?」って予定してなかったのに、
急に準備しだしたし。おやじギャグとかもとばすし…。はぁ。
鈴木 涼
いいなー。俺の父さんは真面目タイプだから、羨ましいなー。
鈴木 涼
母さんも、看護師で夜勤が忙しいみたいで、あんま会えないし。
鈴木 涼
お前ん家は年中にぎやかだから、羨ましい。
秋原 蓮
そうか…。
鈴木 涼
隣の家が、お前ん家でよかった~!
涼とは家が隣同士で、幼稚園、小学校、中学校と
ずっと一緒の幼馴染だ。
俺たちの母親どうし、父親どうしがすごく仲が良く、
家族ぐるみの付き合いをしている。
涼のお母さんは、看護師で、よく夜勤がある。
そして、涼のお父さんは会社の社長で、全国の支店を
見回っている為、一定期間、家にいないそう。
だからか、よく涼は、俺のうるさすぎる家族を
「羨ましい」という。
涼のお母さんが夜勤で忙しいときには、
涼は自分のご飯をコンビニやカップラーメンなどの
適当なもので終わらせてしまうため、
俺のうちで、ご飯を食べている。
秋原 蓮
あ、そういや、今日昼頃から雨降りそうだって。
鈴木 涼
あ、まじかー。天気予報見たけど、明日もめちゃめちゃ雨降りそうだし。
秋原 蓮
だよなー。はー、憂鬱ー。
鈴木 涼
なぁなぁ、蓮ー?
秋原 蓮
どうした?
鈴木 涼
いや、さっきちょっと聞こえてきたんだけど…。
秋原 蓮
ああ。
鈴木 涼
なんか、転校生来るらしいよ?
秋原 蓮
転校生?
鈴木 涼
うん、なんか、転校生。
鈴木 涼
可愛い子かな~?あ、でもサッカー上手い男子でもいいや。
鈴木 涼
でも、希望を言うと、女子!
鈴木 涼
可愛くて、可愛くて、可愛い女子で!!
秋原 蓮
…なんだそれ?人の事、顔で判断すんなって…
鈴木 涼
なんだよ、学校一のイケメン君がそんなこというなよ~
秋原 蓮
イケメンは関係ないだろ…。
鈴木 涼
万年モテ期のあなたにはわからないんですーっ。
俺がどんな思いでお前の親友やってきたか…ううっ…
可愛いな…って思った子、みんなお前に告白するんだもん。
このポジションが俺じゃなかったら、きっと今頃、みんなメンタルやられてるし。
秋原 蓮
ああ?
秋原 蓮
そんな事俺に言われてもしらねーって。
鈴木 涼
あー、またたくさんお前めあての女子来たぞー。
鈴木 涼
つーか、二組の野田の彼女ちゃんが、お前に告白したらしいけど、ホント?
秋原 蓮
はぁ?
鈴木 涼
なんか、野田が彼女にフラれたらしくて、その理由が、なんか蓮の事が好きに
なったかららしくて、野田がお前に激怒して、お前と殴り合いの喧嘩した
って噂だけど。
秋原 蓮
あ、ああ、あのこと?
鈴木 涼
え、事実なわけ!?
秋原 蓮
殴り合いの喧嘩…ってわけじゃないけど、向こうが殴りかかってきたから、
よけといた。
鈴木 涼
お前、柔道してたけど、技とかかけてないよな…?
秋原 蓮
え、いや、腕をねじっただけだけど、なんか逃げてったから一件落着。
鈴木 涼
……まじか。え、で、野田の彼女ちゃんに告白されたってホントかよ?
秋原 蓮
あー、まぁ。一応。
鈴木 涼
あの子、ポニーテール可愛いよな~。で?どう?オッケーしたの?
秋原 蓮
断った。
鈴木 涼
…そうだよな!そうだよな!ああ…やっぱりそうだと思ったよ!
秋原 蓮
…何キレてんだ…?
鈴木 涼
キレてねーし!
先生
おはようございます。
秋原 蓮
あ、先生来たけど。
鈴木 涼
あ、ほんとだ。
学級委員長
起立、気を付け、おはようございます。着席!
朝の会が始まった。
それなのに、クラスはいつもより落ち着きがないように見える。
教室のあちこちで「転校生」というワードが聞こえる。
先生
おーい、静かにー。
先生
転校生がいる。
先ほどまで、あれ程騒がしかった教室が一気に静寂につつまれる。
先生
入れー。