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あの日から数年。 私はもうサファイアではない。 今の名前は—— 桜遥。 中学一年生。 誰も。 私が女だとは知らない。
ガラッ。 教室の扉を開く。 その瞬間。 教室が少しだけ静かになる。 またか。 そう思った。 もう慣れている。
白と黒の髪。 黄色と黒のオッドアイ。 生まれつきの見た目。 それだけで。 人は勝手に離れていった。
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
聞こえないふりをする。 聞き慣れた言葉だから。 でも。 傷つかないわけじゃない。
昼休み。 一人で弁当を食べる。 誰も隣に来ない。 誰も話しかけない。 クラス全員が敵なわけじゃない。 だけど。 味方もいなかった。
帰り道。 商店街を歩く。 すれ違う人が振り返る。 視線が刺さる。 まただ。 また見られてる。 また変だと思われてる。
家に帰る。 鏡を見る。 そこには。 白と黒の髪。 黄色と黒の瞳。 昔。 母は言ってくれた。
星宮愛羅
星宮愛羅
その言葉だけは。 今でも覚えている。
だけど。 今は違う。
桜遥
桜遥
その言葉は。 誰にも届かなかった。
数日後。 遥は店にいた。 手に取ったのは。 黒いウィッグ。 そして。 黒いカラコン。
本当は嫌だった。 母が褒めてくれた髪。 母が好きだと言ってくれた瞳。 隠したくなかった。
本当は、ね…
だけど…
怖い
傷つきたくない
その夜。 鏡の前に座る。 ウィッグを被る。 カラコンを入れる。
鏡の中には。 桜遥はいなかった。
どこにでもいる。 普通の少年。
本当にこれで普通になれるのかな
ポタポタ
それから、転校した学校で
誰も見ない。 誰も驚かない。 誰も怖がらない。
クラスメイト
クラスメイトが声をかけてくる。 遥は目を見開いた。
初めてだった
桜遥
言葉が詰まる。 昼休み。
クラスメイト
また声をかけられる。 今まで一度もなかった。 普通。 ただ普通。 それだけで。 こんなにも世界は違う。 嬉しかった。 本当に。 でも。 胸の奥が苦しかった。
だって。 みんなが話しているのは。 本当の私じゃない。
偽物の私だから。
部屋に戻る。 引き出しを開く。 そこには写真。
母。
兄弟。
みんな笑っている。 遥は写真を抱きしめた。
桜遥
涙がこぼれる。
桜遥
桜遥
桜遥
ぽろぽろと涙が落ちる。
でも。 母なら。 きっと怒らない。
『頑張ったね。』
そう言ってくれる気がした。
遥は涙を拭く。 今はまだ。 勇気がない。 本当の自分で生きる勇気が。 だから。 もう少しだけ。 この偽物の姿で生きよう。
いつか。 本当の自分を好きになれる日まで。
そして。 兄弟たちに会える日まで。
私は。 桜遥として生きていく。
コメント
1件
うわあ……第16話、すごく心に刺さりました。白と黒の髪、オッドアイを「変」と言われ続ける痛みと、ウィッグとカラコンで“普通”を手に入れた代わりに本当の自分を隠した苦しさが、静かに、でも確かに伝わってきました。お母さんの「綺麗」という言葉をずっと覚えているところが切なくて。偽物の自分で生きるしかない今の遥の選択、すごくわかります。早く本当の自分で笑える日が来てほしい。続きが気になります。