TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

夕方

動画の撮影を終えた○○は

三脚を片付けながら

リビングの窓越しに外を眺めた

...佐久早くん、か

今日もまた彼の部屋からは何の音もしない

あんなに近くにいるのに

まるで誰もいないみたい

そう

まるで昔から変わらない

高校1年生の春

同じクラスになったばかりの頃

席が近かっただけで

まともに話したことなんてなかった

○○

...

横にいる人すごい足長い

モデルかな...

顔もちっちゃいし

佐久早

...なに

○○

え、あ...いや

○○

なんも無いです

私は無意識のうちに

彼を目で追っていた

佐久早くんはいつも眠そうで

冷たくて

目もあんまり合わなかった

夏の入りかけ

放課後の教室

私は教室に忘れ物を取りに来た

そこには

佐久早くんが寝ていた

佐久早

...

○○

佐久早くん...?

○○

おーい

私は佐久早くんの腕をつんつんした

それでも反応は無い

可愛いな...

○○

好きだよ...佐久早くん

私は口に出して言ってしまった

恥ずかしかった

やば...寝てるのをいいことに

変なこと言っちゃった

自分の顔が火照るのが分かり

急いで立つと

手を掴まれた

佐久早

今の...何

佐久早くんは私を見ていた

○○

え...起きてたの?

佐久早

うん

最悪だった

○○

いや...嘘

○○

今のは冗談だから

佐久早

いいよ

○○

へ...?

佐久早

涼森と付き合う

佐久早

告白の返事

○○

私と

○○

付き合ってくれるの?

佐久早

うん

淡々とした会話だった

まるで告白とは言えない

○○

でも...なんで?

佐久早

別に理由とかない

佐久早

ただ...

佐久早

気になった

佐久早

それだけ

なんとなく始まって

部活が終わるのを待って

なんとなく毎日一緒に帰っていた

私が風邪をひいた時は

ポカリを買ってきてくれたっけ

でも...

ちゃんと何かを話しあったことは

1度もなかった

所詮高校生の恋愛

あの時の私は...

佐久早のこと何も知らなかったんだな

○○

いや...何を今更

その時ピンポーンと

インターホンがなった

突然のチャイムに、心臓が跳ねる

インターホン越しに見えたのは

昨日と同じ表情の

佐久早だった

○○

...はい

佐久早

...また聞こえてた

○○

え...?でも

○○

今日はそんなに喋ってな...

佐久早

お前の声

佐久早

通るから

それだけ言って

佐久早くんは直ぐに家に入っていった

ドアを閉める音すら

静かだった

○○

...は?

○○

なんなの態々

○○

静かにしてたのに

私は思わず口をとがらせた

確かに高校の時から

穏やかではなかった

どちらかと言うと冷たかった

でも無愛想でも

優しかった

風邪の日にポカリを持ってきてくれたのもそう

その上お粥も作ってくれた

でも今の彼は

「気をつけろ」

「うるさい」

そんなことばかり

○○

あんな人だったっけ...

○○

それとも...

○○

彼女にだけ優しいタイプだったのかな

ぽつりと呟いた声は

静まり返った部屋に吸い込まれそうだった

22歳

それは大きな転機だった

MSBYに所属し

そこでも順調に功績をあげていた

佐久早

寒...

今日は試合の後のインタビューが長引き

帰るのが遅くなった

自販機で水を買いながら

ふと空を見上げた

月がやけに明るかった

部屋に戻っても

誰もいない静けさ

だけど最近、その静寂のなかに

彼女の声が混じっていた

こんにちは〜!トマトの相談室です

今日もお悩み解決していきます!

佐久早

はー...

無視をしようとしたその瞬間

インターホンがなった

来ちゃった♡

勢いよくドアを閉めると

ドンドンとドアを叩いた

なんで閉めんねん!

佐久早

うるさい

佐久早

近所迷惑

おじゃましまーす

そう言いながらてへと言っていた

佐久早

帰って

えー...酷いわ

お酒買ってきたのに

佐久早

いらない

ええやろ

俺にお構い無しに

ズカズカと宮は入ってきた

許可もしていないのに

ビールの缶を開け

ごくごく飲んでいた

あ、いる?

佐久早

いらない

釣れへんなぁ

ハイボールは?

佐久早

それなら...飲む

久しぶりに疲れて

少し飲みたい気分だった

飲み始めて1時間

少し酔いが回ってきた時

【こんにちは!トマトの相談室でーす】

という声が聞こえた

あいつまた撮り直してんのか

ん?

何や今の声

佐久早

あー...お隣さんか

めっちゃ聞こえんな声

佐久早

うん

というか女の子の声やん

可愛ええかな

宮はそう言いながらにやにやしてた

佐久早

いや...

佐久早

知り合い

知り合い?

臣くん知り合いなんておんの?

佐久早

知り合いというか

佐久早

元カノ

俺がそう言うと

食べる手を止めて

身を乗り出してきた

え!え?!

あの?!

臣くんを落としたあの!?

佐久早

何...うるさい

あっち気づいてるん!?

いや、気づくか

臣くんやし

佐久早

知らない

え、顔みたい!

佐久早

なんで

臣くんの事を落とした人なんて

気になるやろ

佐久早

別に...普通だよ

さっきトマトの相談室って

宮は急いで携帯で調べようとした

俺はそのスマホを取り上げた

佐久早

いいから

え!なんでや!?

まぁ...ええけど

元カノと隣の部屋なんて

絶対なんかあるやつやろ

佐久早

いや

俺はここ最近あった○○との事を話した

なるほどね...

終わってんな臣くん

宮はズバッと言ってきた

でもすごいな

佐久早

...何が

よう気がついたな

佐久早

まぁ

声のトーンも

笑い方も

何も変わっていなかった

すぐに気がついた

なんでうるさいとか言うん

ほんまに迷惑なん?

佐久早

別に、ほんとに

佐久早

うるさい訳じゃない

と言うと?

佐久早

誰かに身バレしたら

佐久早

大変になる

臣くん...

前にいる宮は

少し笑っていた

佐久早

なに

心配なだけやろそれ

伝え方下手やな

佐久早

別に...

佐久早

そういうのじゃない

そういうのじゃない...か

ええわ

そういうことにしたるけど

もっと優しくしや

佐久早

うん

彼氏いなさそうやったら

俺の事紹介したって

そう言いながら親指を立てた宮が

何故かムカついた

佐久早

やだ

はー!?

その日の夜

隣は少し騒がしかった

○○

...珍しい

私は隣の話し声を聴きながら

スマホを見ながらため息をついた

○○

今日もコメント欄は...

○○

平和かな

私はあまりアンチはいない

湧かないように気をつけているから

でもちらほら

《トマトちゃんの声めっちゃ響いてる笑笑》

《俺、隣の部屋だったらすぐ気づきそう》

視聴者にも言われるってことは

やっぱり気をつけた方が良さそう

本当に聞こえてるんだ...

壁一枚越しの佐久早のことを考える

いつもより騒がしい感じは伝わるが

声は聞こえない

もしかして...女の子とか?

まぁ...有り得るか

でも

4年ぶりに再開したのに

何も話さず

こんな形で終わるのは...少し

○○

寂しい

○○

...話しかけてみようかな

私は立ち上がり

ドアノブに手をかけた

○○

いやいや...流石に変か

正直話すことも

なんて話しかけたらいいかも分からない

私はドアノブから手を離し

そのままソファに倒れ込んだ

日曜日のお昼

私は久しぶりに外に出た

周りを見渡すと

仲睦まじい家族や

手を繋ぐラブラブなカップルがいる

充実した人を見ると

何故か

自分だけ世界に取り残されている

そんな気がしてしまう

○○

人多い...

私は特に変装はしない

気がつく人もいないし

街をキョロキョロしていると

ビルに貼り付けられたポスターを見た

○○

あ...

MSBYの選手たちだった

○○

すごい...

一面に貼られているポスターは

とてもかっこよかった

その近くには若い女の子たちが写真を撮ってる

いわゆる

推しってやつなんだろうな

何故か私もカメラを構えて

写真を撮ろうとしたその時

すみませんお姉さん!

臣くんと写真撮りたくて...

撮ってもらっていいですか?

臣くん...?

あ...佐久早くんのことか

○○

はい

そう言って女の子は私にスマホを渡し

小走りで佐久早くんのポスターの横に行った

私は写真を何枚か撮り

その子にスマホを返した

ありがとうございます!

やったー!

○○

いえいえ

あ...そうだ

お姉さんも撮りますか?

○○

え?

臣くんのファンかと...

すみません違ったら

○○

いや...えっと

○○

撮ってしまった...

その後流れに乗ったら

写真を撮ることになってしまった

複雑な写真だなと思いながらも

私はふっと笑ってその写真を見た

○○

変なの...

家に帰り

私は残りの編集を終わらせ

少しうたた寝をしていた

宅配便のピンポンがなった瞬間

○○は飛び起きた

○○

ん...宅配か

今の今まで寝ていたため

頭がぼんやりとしている

シロネコヤマトです!

印鑑押してもらっていいですか?

○○

はーい...

私は配達員からダンボールを受け取り

ドアを閉めようとしたその時だった

手が滑って

思いっきり足元に落としてしまった

○○

いった...

重さにバランスを崩し

そのまま尻もちを着いた瞬間

佐久早

何してんの

不意に低い声が

真横から聞こえた

○○

え...なんで

○○

佐久早くん

私は思わず言ってしまった

一瞬だけ佐久早くんは驚いた顔をしてから

佐久早

エレベーターで降りようとしたら

佐久早

聞こえた

佐久早

ドサッて音

彼は無表情のまま

私が落としたダンボールを片手でひょいと持ち上げ

佐久早

重...

玄関のすぐそこにそっと置いた

○○

え...あ、うん

○○

ちょっとね

○○

ありがとう

無言のまま

気まずい時間が流れる

○○

あの...この前はごめん

○○

うるさかったよね

気まずさに耐えきれず

私は謝ってしまった

佐久早

...別に

佐久早

うるさい訳じゃない

佐久早

声は聞こえるけど

○○

え?

佐久早

隣に声が聞こえて

佐久早

身バレする

佐久早

生配信中とか

佐久早

何があるか分からない

その言葉に

私の瞳は少し揺れた

やっぱり...気が付いてたんだ

○○

じゃあ...迷惑じゃなかった?

○○

私の事嫌いなのかと

佐久早

嫌いなら

佐久早

そもそも話しかけない

言い捨てるようにして

彼はエレベーターへ向かった

けれどエレベーターに向かう直前

ふと振り返って言った

佐久早

佐久早

思ったより薄い

佐久早

もっと危機感持って

○○

...うん

○○は小さく笑った

その背中が見えなくなったあとも

心臓の鼓動だけは

しばらく早かった

この作品はいかがでしたか?

220

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚