夕方
動画の撮影を終えた○○は
三脚を片付けながら
リビングの窓越しに外を眺めた
...佐久早くん、か
今日もまた彼の部屋からは何の音もしない
あんなに近くにいるのに
まるで誰もいないみたい
そう
まるで昔から変わらない
高校1年生の春
同じクラスになったばかりの頃
席が近かっただけで
まともに話したことなんてなかった
○○
横にいる人すごい足長い
モデルかな...
顔もちっちゃいし
佐久早
○○
○○
私は無意識のうちに
彼を目で追っていた
佐久早くんはいつも眠そうで
冷たくて
目もあんまり合わなかった
夏の入りかけ
放課後の教室
私は教室に忘れ物を取りに来た
そこには
佐久早くんが寝ていた
佐久早
○○
○○
私は佐久早くんの腕をつんつんした
それでも反応は無い
可愛いな...
○○
私は口に出して言ってしまった
恥ずかしかった
やば...寝てるのをいいことに
変なこと言っちゃった
自分の顔が火照るのが分かり
急いで立つと
手を掴まれた
佐久早
佐久早くんは私を見ていた
○○
佐久早
最悪だった
○○
○○
佐久早
○○
佐久早
佐久早
○○
○○
佐久早
淡々とした会話だった
まるで告白とは言えない
○○
佐久早
佐久早
佐久早
佐久早
なんとなく始まって
部活が終わるのを待って
なんとなく毎日一緒に帰っていた
私が風邪をひいた時は
ポカリを買ってきてくれたっけ
でも...
ちゃんと何かを話しあったことは
1度もなかった
所詮高校生の恋愛
あの時の私は...
佐久早のこと何も知らなかったんだな
○○
その時ピンポーンと
インターホンがなった
突然のチャイムに、心臓が跳ねる
インターホン越しに見えたのは
昨日と同じ表情の
佐久早だった
○○
佐久早
○○
○○
佐久早
佐久早
それだけ言って
佐久早くんは直ぐに家に入っていった
ドアを閉める音すら
静かだった
○○
○○
○○
私は思わず口をとがらせた
確かに高校の時から
穏やかではなかった
どちらかと言うと冷たかった
でも無愛想でも
優しかった
風邪の日にポカリを持ってきてくれたのもそう
その上お粥も作ってくれた
でも今の彼は
「気をつけろ」
「うるさい」
そんなことばかり
○○
○○
○○
ぽつりと呟いた声は
静まり返った部屋に吸い込まれそうだった
22歳
それは大きな転機だった
MSBYに所属し
そこでも順調に功績をあげていた
佐久早
今日は試合の後のインタビューが長引き
帰るのが遅くなった
自販機で水を買いながら
ふと空を見上げた
月がやけに明るかった
部屋に戻っても
誰もいない静けさ
だけど最近、その静寂のなかに
彼女の声が混じっていた
こんにちは〜!トマトの相談室です
今日もお悩み解決していきます!
佐久早
無視をしようとしたその瞬間
インターホンがなった
宮
勢いよくドアを閉めると
ドンドンとドアを叩いた
宮
佐久早
佐久早
宮
そう言いながらてへと言っていた
佐久早
宮
宮
佐久早
宮
俺にお構い無しに
ズカズカと宮は入ってきた
許可もしていないのに
ビールの缶を開け
ごくごく飲んでいた
宮
佐久早
宮
宮
佐久早
久しぶりに疲れて
少し飲みたい気分だった
飲み始めて1時間
少し酔いが回ってきた時
【こんにちは!トマトの相談室でーす】
という声が聞こえた
あいつまた撮り直してんのか
宮
宮
佐久早
宮
宮
佐久早
宮
宮
宮はそう言いながらにやにやしてた
佐久早
佐久早
宮
宮
佐久早
佐久早
俺がそう言うと
食べる手を止めて
身を乗り出してきた
宮
宮
宮
佐久早
宮
宮
宮
佐久早
宮
佐久早
宮
宮
佐久早
宮
宮は急いで携帯で調べようとした
俺はそのスマホを取り上げた
佐久早
宮
宮
宮
宮
佐久早
俺はここ最近あった○○との事を話した
宮
宮
宮はズバッと言ってきた
宮
佐久早
宮
佐久早
声のトーンも
笑い方も
何も変わっていなかった
すぐに気がついた
宮
宮
佐久早
佐久早
宮
佐久早
佐久早
宮
前にいる宮は
少し笑っていた
佐久早
宮
宮
佐久早
佐久早
宮
宮
宮
宮
佐久早
宮
宮
そう言いながら親指を立てた宮が
何故かムカついた
佐久早
宮
その日の夜
隣は少し騒がしかった
○○
私は隣の話し声を聴きながら
スマホを見ながらため息をついた
○○
○○
私はあまりアンチはいない
湧かないように気をつけているから
でもちらほら
《トマトちゃんの声めっちゃ響いてる笑笑》
《俺、隣の部屋だったらすぐ気づきそう》
視聴者にも言われるってことは
やっぱり気をつけた方が良さそう
本当に聞こえてるんだ...
壁一枚越しの佐久早のことを考える
いつもより騒がしい感じは伝わるが
声は聞こえない
もしかして...女の子とか?
まぁ...有り得るか
でも
4年ぶりに再開したのに
何も話さず
こんな形で終わるのは...少し
○○
○○
私は立ち上がり
ドアノブに手をかけた
○○
正直話すことも
なんて話しかけたらいいかも分からない
私はドアノブから手を離し
そのままソファに倒れ込んだ
日曜日のお昼
私は久しぶりに外に出た
周りを見渡すと
仲睦まじい家族や
手を繋ぐラブラブなカップルがいる
充実した人を見ると
何故か
自分だけ世界に取り残されている
そんな気がしてしまう
○○
私は特に変装はしない
気がつく人もいないし
街をキョロキョロしていると
ビルに貼り付けられたポスターを見た
○○
MSBYの選手たちだった
○○
一面に貼られているポスターは
とてもかっこよかった
その近くには若い女の子たちが写真を撮ってる
いわゆる
推しってやつなんだろうな
何故か私もカメラを構えて
写真を撮ろうとしたその時
臣くん...?
あ...佐久早くんのことか
○○
そう言って女の子は私にスマホを渡し
小走りで佐久早くんのポスターの横に行った
私は写真を何枚か撮り
その子にスマホを返した
○○
○○
○○
○○
その後流れに乗ったら
写真を撮ることになってしまった
複雑な写真だなと思いながらも
私はふっと笑ってその写真を見た
○○
家に帰り
私は残りの編集を終わらせ
少しうたた寝をしていた
宅配便のピンポンがなった瞬間
○○は飛び起きた
○○
今の今まで寝ていたため
頭がぼんやりとしている
○○
私は配達員からダンボールを受け取り
ドアを閉めようとしたその時だった
手が滑って
思いっきり足元に落としてしまった
○○
重さにバランスを崩し
そのまま尻もちを着いた瞬間
佐久早
不意に低い声が
真横から聞こえた
○○
○○
私は思わず言ってしまった
一瞬だけ佐久早くんは驚いた顔をしてから
佐久早
佐久早
佐久早
彼は無表情のまま
私が落としたダンボールを片手でひょいと持ち上げ
佐久早
玄関のすぐそこにそっと置いた
○○
○○
○○
無言のまま
気まずい時間が流れる
○○
○○
気まずさに耐えきれず
私は謝ってしまった
佐久早
佐久早
佐久早
○○
佐久早
佐久早
佐久早
佐久早
その言葉に
私の瞳は少し揺れた
やっぱり...気が付いてたんだ
○○
○○
佐久早
佐久早
言い捨てるようにして
彼はエレベーターへ向かった
けれどエレベーターに向かう直前
ふと振り返って言った
佐久早
佐久早
佐久早
○○
○○は小さく笑った
その背中が見えなくなったあとも
心臓の鼓動だけは
しばらく早かった
コメント
2件
おいっ!沼男め!このやろー! 幸せになりやがれ下さい👊
おみおみさすが沼男