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いい話すぎる…
いふ
悠佑
俺がそういうとアニキはきょとん、 とした顔でこちらの方を見つめた
悠佑
半笑いで、冗談っぽく返される 当たり前だ。突然こんなことを 言ったのだから。
いふ
言いたかったから言った。 ただそれだけだから。
いふ
いふ
話題転換で話を誤魔化す。 何も言っていないかのように、 そう見せるために。
悠佑
少し、間があったけれど、 すぐに返してくれたところを見るに 気にしてはいないのだろう。
いふ
悠佑
デート、なんてもんじゃないけど、 舞い上がってしまう辺り俺は重症… いや重体なんだと思う。
悠佑
話題が終われば、次の話題へ移る。 だから話は終わらずに続いていく。
いふ
ああ、今日のことを話すだけでも こんなに楽しい。
悠佑
君の、そんな怒った顔だって 可愛くて、キラキラして見えるのだ
いふ
ああ、幸せやなぁ
だけど、当たり前のように それら全てが悲しいのだ。
悠佑
今、君が心配してくれているのも、 嬉しいのに、悲しくて、
いふ
痛いくらいに、幸せな想い出が、
悠佑
悠佑
いつか、くるお別れを
いふ
悠佑
育てて歩いている。
いふ
「少し遅れるから校門で待っとって」
そんな風に言われたが、少しの好奇心と、驚かしたいという悪戯心に 誘われて体育館裏にやってきた
いふ
驚いた顔する君を想像しながら アニキが歩いて行った方に向かった
一つの角を曲がって、アニキに 会おうとしたとき、
愛菜
そんな声が聞こえてきた
いふ
咄嗟に、その角に身を隠したが、 やっちまった…という気持ちになった
いふ
アニキは付き合うんやろうか。
悠佑
愛菜
いふ
驚きと同時に安堵がやってくる。
いふ
愛菜
悲痛な叫び声、とも呼べる声が 頭に響く。
悠佑
悠佑
悠佑
愛菜
泣きそうな顔した女子が 走り去って行ったのを確認して 俺はアニキの前へと出る
いふ
悠佑
酷く驚いた表情をした君がいた。 俺が見たかった表情とは少し、 いやだいぶ違っていた
悠佑
恐る恐る、といった感じで 俺に尋ねてくる。
いふ
こういうときは嘘をついては いけないのだ。 後々、面倒になるから
悠佑
いふ
てっきり隠すのかと思っていた。
悠佑
うそ、ウソ、嘘。 隠すことは嘘なのだろうか?
いふ
君にとっての俺は"嘘吐き"。
いふ
でも、本心だってちゃんと 言葉にできるんだ。
いふ
悠佑
からかい半分のウソを並べれば 君は俺にいろんな顔を見せてくれる
いふ
いふ
俺が笑って冗談だ、と言えば 君は怒ったような困ったような そんな複雑な顔を見せる
悠佑
悠佑
悠佑
叫んだって解決はしないけど 空に向かって放つ君の目が 空の次に俺を見た。
いふ
煽り口調で少し捻くれた笑顔で 君に問い掛ければ
悠佑
悠佑
俺に指差しでそう言った。
いふ
いふ
嘘吐きだって君のそばにいても いいんだよね、?
いふ
自室のベッドに転がり今日のことを 考える。
いふ
誰かの居場所を、俺が奪ってしまった
そんな自覚が後から後悔や罪悪感 として襲ってくる。
いふ
放課後の告白の後悠佑が言っていた 断った理由を思い出した。
いふ
いらない、出来損ないの心。 だから俺もいらない。
いふ
いふ
君に恋してることも、 勘違いをおこしていることも、 それで戸惑ってることも
いふ
わかってるハズなんだ
いふ
消えちゃえるかな
悠佑
翌日、数学の授業でいつものように 俺を頼ってくれた。
いふ
悠佑
いふ
なるべくわかりやすいように でも答えは言わないようにして 教えてあげれば、
悠佑
理解力の高い君は直ぐに分かる
悠佑
いふ
答えがわかり嬉しそうに咲く笑顔が 可愛くて、こちらもにやける。
悠佑
いふ
笑いそうになったけれど、 ノリに乗った。 「いふ先生」うん、悪くない。
悠佑
いふ
唐突に頭を鉄パイプで殴られたような そんな衝撃が走った
いふ
悠佑
小悪魔よりも青い、けど、 瞳は真っ直ぐに俺を見ている。
いふ
君に、俺の想いが全部伝わってほしい けれど。
パチンッ
いふ
誰にも言えない秘密があるから、 俺はまた誤魔化しの嘘を吐く
悠佑
悪魔はどちらなのだろうか、 俺には皆目検討もつかない
悠佑
いふ
恋が何か、なんてこちらの方が 聞きたいというのに、君は勝手だ。
悠佑
いふ
複雑に混ざり合う感情に 俺は名前をつけることすら出来ない そんな意気地なしに聞くなと言いたい
いふ
「心臓に悪い」
悠佑
いふ
アニキがじぃっと俺のことを 見ていたように見えた。 それが気になって声をかけた。
悠佑
初めは驚いている顔だったが、 パァッと花のような笑顔が俺の瞳に 鮮明に焼き付いた
いふ
悠佑
首を傾げてどう説明していいか わからないといったように 君は声を上げている。
いふ
悠佑
二人で笑って、 授業中だって怒られて、 また二人で笑い合った
いふ
どうして、君は
いふ
そんなに優しいんだろう。
いふ
一昨日約束した映画を観ようと、 土曜の今日に駅前で集合の約束をした
悠佑
いふ
秋だからかカーディガンを羽織い 少しダボっとした長ズボンを 着ている君も可愛かった。
いふ
悠佑
いふ
いつも通りに事は進んでいた。 ゲーセン行ってお菓子食べて 映画見て、ちょっと話してさよなら。
いつも通りだったのだ。
いつも通りだったのに
いふ
俺はまだこの悲劇を知らない
いふ
悠佑
悠佑
先ほどまで見ていた映画の話を 口々に語っていた。 いつもとは違う恋愛モノで、 よく話題にも上がっていた。
いふ
俺よりも涙腺緩めなアニキの頬には 涙の跡ができていた。
悠佑
感情を押し込みきれなかった 声が耳に響いた。
いふ
悠佑
そう話すアニキの目にはまだ、 涙が光っていた。
いふ
俺以外のやつに流した涙を、 あまり見たくなかったから、 適当なモノを指差して話題を変えた
悠佑
いふ
アニキの不審な目を遮るように、 俺は走り出した。
いふ
疑り深い性格ではない、なんなら お人好しのアニキが疑問に思うほど 不自然だった、ということだろう
いふ
嘘をつかないと
そんな、くだらないことを考えていた
だからだ
悠佑
いふ
走ってきた車に 気づかなかったのは
ドンッ!!!
鈍い音、それは頭の奥底に 焼き付く夕焼けのようにこびりついた
いふ
浅い呼吸
いふ
足下に流れる赤。赤、赤
いふ
黒と、黄色の周りには赤。
悠佑
いふ
頭が熱くなるのを感じた
いふ
いふ
いふ
冷静、なんて無理だった
悠佑
いふ
君が生きている
いふ
わかった途端に、頭が冷めていく
いふ
いふ
いふ
後悔するのは、君が助かってから でも遅くはない。
俺はすぐに救急車を呼んで、 それから自分の服や、アニキの服を 使って申し訳程度の止血をした
いふ
いふ
いふ
自分の無力さに歯を噛みしめながら 救急車が来るまでの5分を待った
ピーポーピーポー…
いふ
希望のサイレンが辺りに響いていた
いふ
いふ
いふ
まだ、君のそばにいさせて
救急車がついてからは早かった 担架に乗せられて色々な線に 繋がれていた。
いふ
その様子を俺は呆然と眺めた
いふ
「乗って下さい」 そんな風に言われた気がしたので、 俺も救急車の中におじゃました
ピーポーピーポー
いふ
サイレンは鳴り止まない
いふ
病院に運ばれて、集中治療室の中に アニキはいる。
いふ
助かるか、分からないらしい
いふ
俺が、走らなければ
俺が、誘わなければ
ーーー俺が、いなければ
いふ
俺は廊下に独り。 ランプはまだ光っている
カチンッ
いふ
ランプの光が消えた
いふ
部屋から出てきた人が言った
先生
神様はまだ、俺をここに、 いさせてくれるらしい。
いふ
先生
いふ
悲しみが消えるわけじゃない その関係の綻びだって、消えない
だけど!
いふ
貴方といれば、 良かったね、って笑い合えるからっ!
いふ
いふ
今、会えるなんて思ってはない だけど、それでも君といたい。
先生
いふ
先生
いふ
先生の顔を見た。 悲しみも喜びも噛み締めて、 今を生きている人の顔をしていた
いふ
思わず、そう言った。 優しい顔をして先生は去っていった
いふ
目の前の全てがぼやけては、 溶けていくような、
いふ
足りないや。
いふ
俺の名前、呼んでくれるかな
キーンコーンカーンコーン
いふ
休み時間、生徒たちはそれぞれ 好きなように行動している
いふ
生徒
適当に話合わせるだけの"友達" なら沢山いるから暇は潰せた
いふ
そうやって、話してて思うのだ
いふ
君の居場所はどこなんだろう
生徒
いふ
生徒
なんで君だったんだろう
いふ
誰かが身代わりになれば良いのに
生徒
いふ
…お前だったら良かったのに
いふ
生徒
いふ
今、確かで細やかな見ないフリ。 自分のことを守るための、 自分の気持ちを見ないフリ。
いふ
きっと、繰り返しながら 俺は、笑っていくんだ
いふ
独りきりの部屋。 暗く静かな沈んだ心
それだけで考え事をするには 充分すぎる環境だった
いふ
三日、あと三日。
いふ
いふ
今日も枕を濡らして
いふ
誰に誓うのかも分からず、 何度も自分に誓う
いふ
何度目かは分からないが、 ただ、運命に祈る。
いふ
名前を呼ぶ資格すらもう、 俺にはないかもしれないけど
いふ
君をまだ想っていたい。
いふ
隣に、ただ近くに、いたいだけ
いふ
そうして俺はまた今日も、 明日に向かって堕ちていく
いふ
悠佑の後ろ姿がいふの瞳に映る いふは、道路の真ん中にいた
悠佑
金縛りにあったかのように動くことの できないいふを見捨てるかのように、 悠佑はそのまま歩き出した
いふ
必死に泣いて、謝っているが、 悠佑はチラリともいふの方を 見なかった
悠佑
殺したんや
いふ
いふ
崩れていくいふを見て悠佑は 高笑いをした。
悠佑
悠佑
遅いんやよ?
いふ
朝日が差し込む明るい部屋。 ベッドにいる自分。
いふ
先ほどまでのことは夢だったのだと 分かった
いふ
何度祈ろうが 何度誓おうが 惨憺たる夢を見る
いふ
いふ
まだ、小さな歪みが、いつか 俺も君も巻き込んで 呑んでなくしてしまうような
いふ
そんな気がするのだ
いふ
あの日…アニキが事故にあった日から 二週間が経った。 面会ができるようになった今でも、 アニキは昏睡状態にある。
いふ
いふ
いふ
寝たっきりだから相槌も打たないけど 今はそっちの方が気が楽だった
いふ
未だに君の名前を呼ぶことすら、 怖がっている、そんな不甲斐ない俺が
いふ
いふ
返答はなかった。
いふ
あの日から三週間が経とうとしていた
いふ
信用していないわけじゃないが、 どうしても、もう起きないんじゃ、と そんな不安が湧き上がってくる
いふ
口から漏れた、その言葉の答えを 俺は言ってもらいたかった。
いふ
泣きそうなほどに震えた声を 押し殺すように枕に顔を沈めた
いふ
まだ君に恋をしていたい
いふ
いふ
まだ、君の隣で生きていたい。
いふ
あ。
その時頭の中でなにかがぷつんと 切れた音がした
いふ
これが"答え"だったんだ
いふ
いふ
いふ
いふ
分かれば、どうすれば良いかも すぐに分かった
いふ
いふ
乾いた笑いも今はどうでも良かった
いふ
いふ
アニキが感じた、死に瀕するほどの、 死に至る痛みを感じなければ 贖罪にはならない。
いふ
自殺の方法を順番に思い浮かべて、 最後に残ったのが一つ
いふ
海での溺死。
いふ
いふ
最後に、アニキとの想い出を 感じられる場所に行っても、 それくらいなら許されると思う。
いふ
少し考えて時間に余裕があって なおかつ親に見つからずに済む日が 良いと考えた。
いふ
いふ
いふ
いふ
全ての計画が決まった。
いふ
いつまでもいつでも越えられない夜を ようやく越えられる。
いふ
いふ
いつの日か、アニキが歌っていた歌を 思い出して俺は笑った。
いふ
忘れたくても忘れられない。 だから諦められなかった。
いふ
いふ
深く深く吐き出す言葉さえも "ウソ"になってしまえば救われたのに
いふ
いふ
悠佑
悠佑
ずっと、長い夢を見ていた気がする。 長い長い、終わらない夢を
先生
悠佑
白衣を着た……医者?が 挨拶をしたのでテキトウに返した
悠佑
先生
悠佑
いまいち状況が飲み込めないでいると 医者…が説明を始めた。 要約すれば事故って入院、三週間も 寝こけていたらしい
悠佑
最初に思ったのはそれだった。
先生
悠佑
悠佑
いふが無事なのは、血塗れで ボケボケの目でも分かっていたし 無事だったからこそ俺が生きてる
先生
悠佑
先生
悠佑
ずっと寝ていた=体が萎んだ とういうことだと思うので、 土日ひたすら鍛えようと思った。
先生
悠佑
寝過ぎた反動かどうかは知らないが 頭がどうも霧がかかったみたいに 晴れない。
悠佑
先生
悠佑
勉強も筋トレも何もかんも ほっぽって純粋な思いを伝えた。 今、したいことを率直に。
先生
悠佑
先生
悠佑
どうしても声に感情が乗ると でけぇ声が出てしまう。 病院なので以後、気をつけたい。
悠佑
さっきからヤンキーっぽいなあとは 思うがあえて直さない。 面倒なだけだが。
先生
悠佑
当たり前のこと聞いて当たり前の ことを返された。 解せぬ何故親の許可が必要なのだ。 未成年だからだ。
悠佑
なんていうバカな話を自分の頭の中で 繰り広げて案外いつも通りだなと 思う俺はワンチャン異常だ
先生
悠佑
先ほどの失敗を踏まえ、声を抑える あんま変わってないとかは 言わないでほしい。
先生
悠佑
情が厚い……少し気恥ずかしいが、 それよりもなんだか嬉しかった
悠佑
爽やかな朝日を浴びながら 俺はそう思った
悠佑
久しぶりのマイホーム☆に 挨拶をかまして、家に入る
母
父
父親の言う通り元気が一番だと思う。 いつまでも健康でいたいものだ。
悠佑
ずっと病院生活(言っても記憶はない) だったので腹が減って仕方なかった
悠佑
母
母
悠佑
いつも通りの母の対応がなんだか とても暖かいものに感じた。
悠佑
今からご飯を炊くのはちとめんどいな と考えていると 麺が三袋あったのが目に入った。
悠佑
量があって腹も膨れて美味い 栄養取れるように野菜めっちゃ いれとけば丁度良くなるだろう
父
悠佑
母
悠佑
それにまだ10時だし昼飯には少し 早い。 お腹空いてる俺には関係ないが
悠佑
父
悠佑
流石の俺でもなんかないと 勉強頑張れなくなりそうだ。
母
悠佑
父
悠佑
なんて、楽しい日常の会話をしながら いついふと会おうかなんてことを 考えていた。
悠佑
父
母
父
悠佑
またバカみたいな会話が始まったので 一応ツッコんでおく。
悠佑
母
悠佑
とういうことなのでいふと連絡を とるために二階の自室へ向かった
悠佑
机の上に充電器が刺したままのスマホを見つけ手に取った。
悠佑
俺が寝ていた三週間の間 ずっとお見舞いに来たり、 ノートをとったりしてくれたらしい
悠佑
聞いたときも、なんなら今でも "嬉しい"という気持ちが残っている
俺のために、ずっと尽くしてくれて いたのだから当たり前なのだろうが
悠佑
にやけるのも仕方ないと、 その顔のまま電話をかけようとした が、俺は気づいた
悠佑
俺が優雅に家で過ごしているから 勘違いしていた。金曜日だ今日。
悠佑
できれば通話したいのだ。 目覚ましに丁度良いと思ったから。
悠佑
悠佑
授業が終わっているであろう時間帯に 絶対電話をかけると意気込み、 俺は勉強机に向かって
悠佑
勉強を 始めた
悠佑
悠佑
悠佑
ということで一階に降りることにした
悠佑
さながら少年漫画の主人公のように 叫んで親に腹が減ったことを伝える
母
悠佑
父
両親のそれぞれの反応を見ながら やっぱ腹減ったなぁと考える
悠佑
母
母
悠佑
心の中で卵かけご飯か、海苔ご飯か 納豆ご飯か、全部かけか迷いながら 炊飯器の方へと向かう
母
悠佑
焼肉のことはずっと頭の中に もちろんあるため、そこら辺は 配分するつもりだ。
悠佑
この時の俺はまだ知らない
悠佑
焼肉を食べ損ねることを。
悠佑
昼飯を食べて少しスマホをいじった後 俺はまた勉強机に向かっていた
悠佑
悠佑
なんとも驚きの事実に、 自分の集中力が怖くなった。
悠佑
ゆっくりお散歩気分でいふのとこに ドッキリで凸りに行く予定だったのにと少しばかり後悔して
悠佑
と、結論づけた。 我ながら安直でとても良い案だと思う
悠佑
悠佑
悠佑
上着を探すのに少し手間がかかったがあと20分あるのでささっと 行くことにした
悠佑
上着を探したかいがあったもんだと 走りながら思う
悠佑
頭の中に思い浮かんだ驚いた顔。 なんだか可笑しく思えて笑った
悠佑
走っている時に横目で見えた 手を繋ぐカップル。 とても羨ましい…なんて思う
悠佑
夜は寒いし長い。 だから、ちょっといふにお願いしたら 抱きしめてもらえるかもなんて
悠佑
そんな考えを振り払うように 俺は全速力で走った
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
いふ
夜の列車にゆらりゆらり。
いふ
未練たらしくそう思う。
いふ
隣にいる資格も権利もないのに、 何を考えているのだろうか。
いふ
バッテン印を頭に被った 被って仕舞えばほら。
いふ
いふ
でも、君に嫌われることだけは、
いふ
静かな列車に運ばれて、 ゆらゆらり暗いクライ海に向かう
ピンポーン
悠佑
いざとなるとドキドキするだとか、 そんなのはきっと走ったせいだとか くだらないことを考えて待つ
悠華
聞こえてきたのは彼よりも高い、 女の子の声だった。
悠華
悠佑
いふ、じゃなかったことに少し ガッカリしながらいふがどこにいるか を訪ねた。
悠華
悠佑
悠華
悠佑
こんな季節になんで海!?と思うし 妹を一人留守にしてるとこを見ると 考えなしではないように感じた
悠佑
一瞬、変な考えが浮かんで、 すぐにそれを振り払った。
悠佑
悠華
悠佑
そこは夏、俺と行ったとこだった
悠佑
そんなわけない、って
悠華
悠華
悠佑
悠華
ーーー前にいふが言っていた。 「妹の勘はよく当たる」と
悠佑
悠華
悠佑
まだ間に合う!そうと分かれば 行動するのは早かった。
いふ
いふ
満月に照らされて海がキラキラと 輝いていた。
いふ
まだ砂浜に足をついただけだが この季節だ。冷たくないワケない
いふ
夏休みの記憶を振り返りながら 靴を脱いだ。
いふ
いふ
海の中に潜っていても 陸の上を走っていても ずっと瞳に映っていたのは
いふ
君だけだった
いふ
君は、優しいからこんな俺にも、 なんて妄想をする 瞳はまだきっと月を見ていた。
いふ
ザブン、一つ足を踏み出した
いふ
ザブン、また一つ足を踏み出した
いふ
夜の冷たさと海の冷たさは、 どこか似ている
腰あたりまで海の冷たさが登ってきた それを感じてなんとなく思った。
いふ
いふ
俺の気持ち伝えておけば良かった
なんて、考えては笑う
いふ
苦くて暖かい恋ももう終わる。
いふ
そう、これで、終わるなら、
いふ
そしてまた一歩ずつ沈んでいく
いふ
冷たくて 寒くて 重くて 苦しい
いふ
月と海が俺の瞳には映っていた。
悠佑
いふ
聞こえてきたのは 俺の思考を遮るほどの大声と、 久しぶりに聞くアニキの声だった
いふ
冷たく冷えた暗い暗い海の中を ザブザブと突き進んで行くアニキ
いふ
誰にも聞こえないくらいの小さな声に アニキは反応する
悠佑
もう追いついてきたアニキは 俺の肩を持ってそう言った
いふ
君を死に追いやった人を、 一度守った奴を、 まだ守ってくれようとするなんて
悠佑
悠佑
いふ
罵倒する気のない罵倒の声は 少しだけ震えているように聞こえた
悠佑
悠佑
いふ
悠佑
めっちゃ肩を揺らしながら、 波の流れを切って話は続けられる
悠佑
悠佑
たった、一発で済むのだろうか ふとそう思ったが関係無い話だ
悠佑
いふ
肩揺らし+大声で観念し始めてしまう アニキはやはり凄い人だ、なんて思う
いふ
悠佑
そんな、何の罪もないなんて、 そんな訳がない。
いふ
罪を受ける必要があるのは俺だ。
いふ
止めないでよ、
悠佑
いふ
月の光に当てられた彼の瞳は 俺には眩しくて、眩しくて、 視界がぼやける
悠佑
悠佑
悠佑
いふ
なんだって構わない
悠佑
悠佑
いふといられるなら!
いふ
消えてしまいたいって 泣き喚いていた俺が、
悠佑
ずっと探していた光は
いふ
ボロボロと涙が溢れ出す。 当分は止まらないだろう。
いふ
悠佑
そっぽを向く君は冷たい海なんて もろともしないほど、暖かくて そんで真っ赤だった。
いふ
悠佑
もう一生名前を呼ぶことさえ 叶わないと思っていた。
いふ
悠佑
だから、いつか呼べる日が来たら、 言おうと思っていたのだ
いふ
悠佑
悠佑の赤く染まった額にキスをした
悠佑
いふ
やっぱりアニキは俺を罵倒できない りんごよりも赤い顔を見て思った
悠佑
いふ
悠佑のどでかいくしゃみを聞いて 思い出す
いふ
悠佑
悠佑
元はそのつもりで来たのに、 結局果たせず終わった
いふ
でも今はそれで良かったと思った。
いふ
いふ
いふ
いふ
月の灯が輝いていた夜
俺と悠佑が結ばれたこの夜を 悲しみも綻びも笑い合ったこの夜を 俺は絶対に忘れない
おまけ① 翌日の話。
いふ
俺こといふ、風邪をひきました
いふ
悠佑
いふ
母さんはもう、本当に…と思うが 自殺しかけてこのありさまなので 何も言えない。
いふ
悠佑
ふふん、と自慢げに語るアニキは 可愛いがなんかこう…モヤっとする
いふ
悠佑
悠佑
悠佑
いふ
それはなんの根拠もない話だ、と 言おうと思ったが、ふと思いついた
いふ
悠佑
いふ
ぐい、と強引にベッドの横にいた アニキの腕を引っ張り押し倒した
いふ
悠佑
自重しろだとかいう意見は 受け付けていない。 ただそうしたかったからしたまでだ
いふ
悠佑
いふ
耳まで赤く染まったアニキを見ながら にっこりと答えた
いふ
母性本能ならぬ父性本能を刺激する その方が効率が良いことを知ってる だからなるべく可愛くやる。
悠佑
いふ
それじゃあいただきます
そう言おうとした時だった。
悠佑
と、俺をベッドに投げて、 走って廊下に行ってしまった
いふ
そんなことは気にもせず、 アニキのあの顔を思い出す
いふ
いふ
病気の時は、俺は妙にハイテンションになる癖(?)があるらしく、 今日も例外なく発揮されたのは 言うまでもない。
悠佑
そして、いふは実は 流されそうになっていた悠佑が 廊下で心臓がうるさいことを まだ知らない
おまけ② 数日後の話。
悠佑
俺が叫んでいる原因は勉強だった
いふ
悠佑
俺といふには大きな学力の差がある まあ1ヶ月学校を休んでいたせいも あるのだが。
悠佑
いふ
悠佑
そう言いながら台パンかまして、 またノートと教科書とにらめっこを 始めた
悠佑
いふ
悠佑
俺が一所懸命解いてるところに いふが思いつき(と思われる)の質問を 投げかけてきた
いふ
悠佑
いふ
悠佑
あの頃、中学生の頃、どう思って ここに決めたか……
悠佑
いふ
悠佑
悠佑
いふ
悠佑
いふは俺のベッドの上に寝転がり スマホをいじり始めた。
悠佑
言える訳がない
悠佑
恥ずかしすぎて死んでまう!!
いふ
そんなことはつゆしらず、 いふは画面の中に悠佑の勉強姿を 納めていた
おまけ③ 数年後の話。
悠佑
いふ
はしゃぐアニキを横目に、 俺は昔と変わらない景色の海を眺めた
悠佑
ここは俺が自殺しようとした場所 であり同時に、 俺と悠佑の大切な思い出の場所である
いふ
悠佑
俺は悠佑の手をとり、 その場に跪く
いふ
いふ
彼氏として、そして
いふ
これからの夫として
悠佑
涙と喜びが混じった表情と、 その返事を聞いて俺も
いふ
泣いてしまった。
悠佑
いふ
幸せを噛み締めて歩く今日を これからもおれは愛し続ける
いふ
悠佑
だって光はすぐそばにいるから
fin.