病院の屋上

静かな笑顔で挨拶してきた君に、僕は…

病院ってなんでこんなに暇なの！？

薬品が漂う病室

前まで貸してくれたゲームも他の入院してる小さい子に回された

酷いよ…

数年入院してきて屋上は初めてきた

僕はたまに、ﾀﾋんでみたいと考えるときがある

元凶は僕の病気

病名は吐石病

宝石を吐くという意味で

vomit jewelryとも言う

ゲームとかアニメでもよくある奇病ってやつ

タイミングはバラバラで

本物の宝石だったらいいのにってぐらい綺麗な宝石を吐く

だけどその宝石は触れると血になってしまう

吐くときに痛みはないし、特に苦しいことはない

この病気の難点は、血を利用して宝石を体内で作っているということ

しかもかなりの血の量を使い、大量に作る

宝石を吐くということはいわば吐血と同じ

血はどんどん減っていくから退院することはできない

初めて症状が出たときは「気持ち悪い」って言われた

突き放されて、友達も離れていって

屋上に人なんて珍しいな…

見たことない人だし…

それに…筆談？

耳が良くないわけではないっぽい…

また…？

もう会うことないと思うんだけど…

病院内で会ったらってこと？

あーーーね？

僕の病室はもともと相部屋だった

でも、隣はずっといない

みんな石を吐くなんて気持ち悪いって言う理由

人がいるって、嬉しいなぁ…

あれ、僕なんでこんなこと…

彼はスラスラとノートに書く

…気持ち悪いって…言われちゃうかも

離れられたくない

でも僕聞いちゃったから…

僕がそう言うと彼は顔が明るくなった

綺麗…？

初めて言われた、そんなこと

でも、吐いてるとこを見たわけじゃないし…

治療法

何故か唯一教えて貰えないこと

にこりと綺麗な笑顔を見せる君

この人は僕のことを「気持ち悪い」なんて、言わない気がする

なんて、そんな夢みたいなことが湧いてくる

病室に戻ると、君は携帯の画面を険しい顔で見つめていた

そう書いて君…じゃない、桃くんは申し訳無さそうに笑った

そんな顔をさせたかったわけじゃなかったんだけどな

桃くんの手には真珠が握られていた

深夜2時

当たり前だけど、隣からは寝息が聞こえる

ﾀﾋにたいとは今でも思ってる

でも、病気が治るのなら話は別

だって、この病気がなかったら

親に、クラスメートに、先生に

親友に

突き放されることはなかったのに…

きっと、治ったら戻ってきてくれるはず

こんなの…余命宣告みたいなものじゃん…

そして僕は、数日間集中治療室に入れられた

会いたい

桃くんに会いたい

顔をみたい

声を聞きたい

数日間会えないだけなのに

心細い

桃くんがいないのが、こんなに寂しいなんて

苦しいなんて…

この気持ちを…僕は知っている

親友に抱いた気持ちと同じ気持ち

入院したばかりの頃

「親友」が来てくれた

気がついたときには、看護師さんしか隣にはいなかった

きっとまた来てくれる

そう思っていたけど

黄くんが来てくれることはなかった

数日間という短くて長い期間

苦しさに耐えて戻ってきた

でも、症状が良くなったわけじゃなくて

いつ、終わりが来てもおかしくなくなったから

最期は、桃くんと

あったかい…

生きてるんだな…

桃くんの足の鱗がなくなってる…

やっぱりこれは、真実の愛なんだ

そして青は、俺の目の前で灰となって朽ちていった

その灰は、なぜだかキラキラとしていて

綺麗だった

灰を持ち上げると、その中に青の宝石の瞳だけが残っていた

END