放課後。 薄く夕日が差し込む廊下を、一歌・咲希・彰人の探偵部3人は歩いていた。 演劇部部長・秋園みすずから届いた依頼―― 『演劇部のことで相談したい』 その一言に、一歌は眉をひそめつつも部室へ向かう。
演劇部部室 部室の扉を開けると、舞台衣装や小道具が乱雑に置かれた独特の空気が広がっていた。 部長・みすずがぱっと明るい顔で迎える。
みすず
天馬咲希(幼なじみ)
みすず
トラブルってほどじゃないの。
ただ……
君たちも演劇、やってみない?
その瞬間、三人の表情が見事に固まった。
東雲彰人(探偵助手)
東雲彰人(探偵助手)
天馬咲希(幼なじみ)
部長は気にせず、どんどん台本を渡してくる。
みすず
演劇部だけだと演技の癖が出ちゃうしね。
だから探偵部のみんなに、軽く“役の雰囲気”だけ掴んでほしくて!
三人は台本を握りしめたまま、まるで石像。
みすず
星乃一歌(探偵の孫)
部長は乗り気で、どんどん距離を詰めてくる。
仕方なく舞台中央に立つ一歌。 咲希は横でそわそわ。彰人は腕を組んだまま不満げ。
みすず
“この人形は、あなたの心を映す鏡なのよ……”って感じで言ってみて!
星乃一歌(探偵の孫)
声が震えている。
みすず
天馬咲希(幼なじみ)
東雲彰人(探偵助手)
部長が笑顔で強引に配置し、奇妙な“即興芝居”が始まろうとした―― その時。
ガタン!! 奥の道具倉庫から、重いものが倒れたような音が響いた。 一歌はハッと表情を変える。 探偵としての勘が働いたのが、自分でもわかる。
星乃一歌(探偵の孫)
東雲彰人(探偵助手)
みすずは一瞬だけ目を逸らす。
みすず
その“違和感”を、一歌は見逃さなかった。 咲希もそっとつぶやく。
天馬咲希(幼なじみ)
一歌は小さくうなずき、倉庫へ近づく。 ――その瞬間、倉庫の扉の隙間から、 人形の腕のようなものが、ゆっくりと転がり出てきた。 咲希が小さく悲鳴を上げる。
天馬咲希(幼なじみ)
星乃一歌(探偵の孫)
だが一歌が拾い上げた瞬間、 その人形の“首”に、妙に擦れた跡があることに気づいた。
星乃一歌(探偵の孫)
彰人が険しい顔をする。
東雲彰人(探偵助手)
――操り人形殺人事件は、 ここから静かに幕を開ける。
倉庫の不穏な気配に気づいた一歌たち。 その直後だった。 演劇部の控え室側から、 甲高い悲鳴が響いた。 「きゃああああああっ!!」 一歌・咲希・彰人が一斉に振り返る。
天馬咲希(幼なじみ)
みすず
部長が慌てて廊下に飛び出し、 一歌たちも慌てて後を追った。 ⸻ 控え室の扉は大きく開いていて、 中でひとりの演劇部員―― 舞山(まいやま)ひなこが震えながら立ちすくんでいた。 その視線の先。 ――そこには、 衣装ラックの陰にひとりの男子生徒が倒れていた。 全く動かない。 顔色は悪く、腕はだらんと床に落ちている。
ひなこ
さっきまで普通に大道具を……!
彼女の声は震え、呼吸は荒い。
天馬咲希(幼なじみ)
東雲彰人(探偵助手)
咲希が青ざめ、一歌は唇を噛みしめる。 一歌の頭の中で“探偵としてのスイッチ”が音を立てた。
星乃一歌(探偵の孫)
彰人、この部屋には誰も入れないようにして。
部長さん、警察を――
言い終わる前に、ひなこが叫ぶ。
ひなこ
震える手でスマホを取り出し、番号を押す。
ひなこ
宮益坂女子学園です……!
人が……人が倒れていて……!
その声は今にも泣きそうだった。 みすず部長も顔面蒼白で彼女の肩に手を置く。
みすず
ほどなくして、 制服姿の日野森志歩警部と 後輩の青柳冬弥刑事が駆け付けた。 志歩の鋭い目が現場を一瞥する。
日野森志歩(警部)
状況を説明してもらえる?
一歌が冷静に答える。
星乃一歌(探偵の孫)
彼が倒れていました。
脈は確認できませんでした。
冬弥が倒れた男子生徒を観察し、 志歩に小声で耳打ちする。
青柳冬弥(刑事)
“誰かにやられた跡”があります。
志歩は静かに頷き、 演劇部員たちを見渡した。
日野森志歩(警部)
全員、事情を聞かせてもらうよ。
その瞬間、部員たちの間にざわめきが走った。 反応を見守りながら、一歌は心の中でつぶやく。
星乃一歌(探偵の孫)
(演劇部の“操り人形”……
まさか、本当の事件に繋がるなんて……)
―こうしてー 操り人形殺人事件の幕は本格的に上がる。
部員たちがざわつく控え室。 冬弥が遺体の周囲を調べ、志歩は証言の整理を始めている。 だが―― 一歌はひとり、じっと倒れた男子生徒の“ある一点”に目を留めていた。 咲希がそっと声をかける。
天馬咲希(幼なじみ)
星乃一歌(探偵の孫)
一歌は静かにしゃがみ込み、床を指差した。 ⸻ **一歌の推理 — その① 『倒れた位置が不自然』**
星乃一歌(探偵の孫)
大道具の木箱、さっきまでここに置いてなかった?
彰人が眉をひそめる。
東雲彰人(探偵助手)
星乃一歌(探偵の孫)
本来なら“倒れたまま動かしていない”なら、
木箱と遺体の位置関係はもっと接近してる
咲希がハッとする。
天馬咲希(幼なじみ)
一歌は静かに頷いた。 ⸻ **一歌の推理 — その② 『左腕の擦り跡と“細い線”』** 一歌は倒れた男子生徒の“左腕”を指した。
星乃一歌(探偵の孫)
左腕の手首に“細い線の跡”がある
志歩警部が近づき、目を細める。
日野森志歩(警部)
星乃一歌(探偵の孫)
何か“紐のようなもの”で引っ張られた跡……
そう見えるんだ。
冬弥が小さく息を呑む。
青柳冬弥(刑事)
部屋の空気が一気に冷える。 ⸻ **一歌の推理 — その③ 『部屋の鍵と“演劇部だけが持つ合鍵”』** 一歌は控え室の扉を見た。
星乃一歌(探偵の孫)
中から鍵がかかった形跡がない。
つまり外部犯の可能性は低い
咲希が小さくつぶやく。
天馬咲希(幼なじみ)
一歌は演劇部の面々をゆっくり見渡す。
星乃一歌(探偵の孫)
この部屋に自由に出入りできる人物。
そう考えるのが自然だよ
演劇部員たちの顔が、一斉に強張る。 ⸻ 志歩警部の反応 志歩は腕を組み、静かに一歌へ視線を向ける。
日野森志歩(警部)
状況証拠だけなのに、よくそこまで気づけたね
一歌は少しだけ照れたように視線を落とす。
星乃一歌(探偵の孫)
でも――
“この部屋で何があったのか”は、
ここからもっと見えてくるはずです
志歩は小さく頷く。
日野森志歩(警部)
冬弥、現場保存を徹底。
それと演劇部全員から事情を聞くから
冬弥が動き始め、部員たちの間に再びざわめきが走った。 ⸻ 一歌(心の声)
星乃一歌(探偵の孫)
(操り人形……紐……倉庫の人形……
全部つながってるような……?
この事件、何か“仕掛け”がある)
一歌は視線を鋭くした。
星乃一歌(探偵の孫)
人形じゃなく、“誰かの心”なのかもしれない)
―推理は、まだ始まったばかりー
志歩警部と冬弥が演劇部員一人ひとりに事情聴取を行い、 全員の“事件当時の行動”が明らかになった。 部室に集まった面々を前に、 志歩がまとめるように声を出す。
日野森志歩(警部)
この時間のアリバイは――
志歩が読み上げる。 ⸻ ◆演劇部員たちのアリバイ ① 部長・みすず → 音響室でスピーカーの調整 → 「一人でいた」と証言 ② 舞山ひなこ(第一発見者) → 衣装直しのため控え室へ向かった際に発見 → アリバイなし ③ 大道具担当・成海 → 別棟の倉庫から木材を運んでいた → 他の生徒が見ている ④ 小道具担当・ユイ → 演劇用の照明テストに立ち会っていた → 演劇部の男子2人が証言 ⑤ 衣装係・里奈 → 教室で文化祭準備の裁縫 → 担任の先生が確認 どれも“完全なアリバイ”とは言えないものの、 決定的な「犯行可能者」は絞れない……はずだった。 しかし。 一歌は、彼らの話を聞きながら ――ずっと違和感だけを拾い集めていた。 咲希が心配そうに近づく。
天馬咲希(幼なじみ)
一歌は静かに息を吸った。 ⸻ ■ 一歌:アリバイの“ほころび”を指摘する
星乃一歌(探偵の孫)
一見すると、誰が犯人でもおかしくないように聞こえる
部員たちがざわっとする。 だが一歌は続ける。
星乃一歌(探偵の孫)
絶対に見逃しちゃいけない矛盾がある。
志歩警部も思わず一歌を見る。
日野森志歩(警部)
星乃一歌(探偵の孫)
これが崩れた瞬間、犯人は“ひとり”に絞られる。
部室の空気が一気に張り詰めた。 ⸻ ■ そして―― 一歌の名ゼリフ発動 一歌はゆっくりと前に出る。 その目は鋭く、しかし静かに燃えている。 そして。
星乃一歌(探偵の孫)
この事件の“トリック”も、“犯人の嘘”も。
――謎はすべて解けた。
部員全員が息を飲む。 続けて、一歌はほんの少し微笑んだ。 ミクを尊敬する少女でありながら、 星乃家の探偵の孫としての“覚悟”を帯びた顔で。
星乃一歌(探偵の孫)
真犯人を、必ず暴く。
志歩がわずかに口角を上げる。
日野森志歩(警部)
咲希は思わず胸を押さえる。
天馬咲希(幼なじみ)
彰人も腕を組んだままつぶやく。
東雲彰人(探偵助手)
一歌は静かに、 犯人の方へと指を伸ばす――。
犯人指摘:小道具係・ユイ** 一歌はまっすぐ、小道具担当のユイへ視線を向けた。
星乃一歌(探偵の孫)
小道具担当のユイさん。
部員たちが一斉に騒然となる。
みすず
ユイは目を大きく開き、震える声で返す。
ユイ(演劇部・小道具担当)
私、照明スタッフの二人と一緒に照明テストしてたって……!
志歩警部も警戒しながら、一歌へ問いかける。
日野森志歩(警部)
一歌は小さくうなずき、一歩前に出た。 ⸻ ■ 一歌の推理:アリバイの嘘を崩す ① “照明テスト”の時間に矛盾がある
星乃一歌(探偵の孫)
でも――照明スタッフの二人はこう言った。
一歌は冬弥が取ったメモを指す。
星乃一歌(探偵の孫)
星乃一歌(探偵の孫)
その“25分の空白”を、あなたは説明できてない。
ユイは唇を噛む。 ⸻ ② 照明テスト後、小道具室には“あなたしか入れない”
星乃一歌(探偵の孫)
小道具室に入った人は――
鍵を持っているユイさんだけ
ユイが震える声で反論する。
ユイ(演劇部・小道具担当)
小道具を確認しに……!
星乃一歌(探偵の孫)
あなたが部室から消えていた時間は“20分以上”
演劇部員たちがざわつく。 ⸻ ③ 犯行に使われた“操り人形のワイヤー”を扱うのはユイ 一歌は倉庫から転がり出た人形の腕を持ち上げる。
星乃一歌(探偵の孫)
これは“指”じゃない。
操り人形のワイヤーで引っ張られた跡。
志歩警部も小さくうなずく。
日野森志歩(警部)
ユイの顔色が一気に青ざめる。 ⸻ ④ そして決定的な“嘘” 一歌は静かに目を閉じ、そして開く。
星乃一歌(探偵の孫)
『照明テストに立ち会っていた』というあなたの証言。
それ自体が――
一歌はユイを指さす。
星乃一歌(探偵の孫)
ユイの横にいた照明スタッフの男子高校生が慌てて言う。 スタッフ 「ゆ、ユイ先輩……! 僕たち、テスト終わったあと先に屋上に行きましたよね? なんで一緒にいたなんて……」 完全に、ユイの嘘が崩れた。 ⸻ ■ 追い詰められるユイ ユイはその場に崩れ落ち、肩を震わせた。
ユイ(演劇部・小道具担当)
星乃一歌(探偵の孫)
ユイが顔を上げる。
星乃一歌(探偵の孫)
あれは“確認しながら作った嘘”の目。
咲希がそっとつぶやく。
天馬咲希(幼なじみ)
志歩警部が前に進む。
日野森志歩(警部)
あなたを、殺人の容疑で任意同行させてもらうよ
冬弥が静かに手錠ケースへ触れる。 ユイの目から涙がこぼれ―― ⸻ ■ 一歌がつぶやく(心の声)
星乃一歌(探偵の孫)
ユイさんの“動機”はまだ見えていない。
彼女は本当に“単独”で犯行を?
それとも……
彼女もまた“操られていた”の?)
探偵部・任務完了…のはずが** 宮益坂女子学園・探偵部部室。 夜の校舎はしんと静まり返り、外は虫の声だけが響く。 事件解決後、 一歌・咲希・彰人の3人は部室の机に資料を広げていた。
■ シーン:任務終了の確認
天馬咲希(幼なじみ)
ユイさんの動機はまだ調査中だけど、事件自体は解決って感じだよね?
東雲彰人(探偵助手)
あとは警察に任せりゃいい。
星乃一歌(探偵の孫)
今日の資料はまとめて、志歩さんに渡しておこう。
そう言いながら、一歌は資料を閉じる。 やっと緊張が解け、部室にゆるい空気が戻る。 咲希は伸びをして大あくび。
天馬咲希(幼なじみ)
帰ったら甘いもの食べて寝よっと。
そんな平和ムードの中―― ⸻ ■ コンッ…と部室の扉を叩く音
東雲彰人(探偵助手)
一歌がそっと扉へ近づく。 しかし廊下には、 人影はひとつもない。 その代わり、足元には一通の封筒が落ちていた。 白い封筒。 差出人なし。
天馬咲希(幼なじみ)
ちょっと怖い……
一歌は封筒を拾い上げる。 手触りがどこか冷たい。
東雲彰人(探偵助手)
星乃一歌(探偵の孫)
一歌は直感で“嫌な予感”を覚えていた。 そっと封を切ると―― 中には一枚の紙だけが入っていた。 その紙には、奇妙に整った筆跡でこう書かれていた。 ⸻ **『星乃一歌さん。 あなたの推理……実に見事でした。 ですが、次の“舞台”はこれからですよ。 ――また会いましょう。』** 一歌の指先がわずかに震える。 咲希が不安げにのぞき込む。
天馬咲希(幼なじみ)
一歌は喉がひくつくのを感じながら答える。
星乃一歌(探偵の孫)
彰人が眉をしかめて紙をひったくる。
東雲彰人(探偵助手)
その時、一歌は気づいた。 手紙の一番下。 送り主を示す、独特のサイン。 ――“Lui Kamishiro”
星乃一歌(探偵の孫)
咲希が息を飲む。
天馬咲希(幼なじみ)
彰人が眉をひそめる。
東雲彰人(探偵助手)
つかコイツ、どこまでも芝居がかった文書きやが――
一歌は紙を強く握りしめる。
星乃一歌(探偵の孫)
彼は劇作家じゃない。
“犯罪者の天才”だよ。
――マジシャンのように。
咲希と彰人が凍りつく。
天馬咲希(幼なじみ)
今回の事件って……
一歌は頷く。
星乃一歌(探偵の孫)
“操り人形事件”は……
神代類が仕掛けた“序章”にすぎない
部室の空気は、一瞬で緊張に満ちた。 ⸻ ■ 一歌(心の声)
星乃一歌(探偵の孫)
まるで私たちを試すように。
これから起きる事件の“招待状”みたい。)
星乃一歌(探偵の孫)
あなたは私に、何を見せようとしているの……?)
―次の事件の幕は、 すでに上がっていたー







