合宿一日目の夜。
練習と夕食を終えて、
高校に常設された シャワー室で汗を流す。
髪を拭きながら 脱衣所を出ると、
廊下を歩く 小さな背中が見えた。
黒尾鉄朗
( 話しかけるか?でも何も話題思いつかねぇ… )
白石汐凪
あれ、黒尾さん?
うじうじしてると 気配で気付いたのか、
白石が振り返って 声をかけてくれた。
同じく風呂上がりなのか 長い髪が濡れている。
黒尾鉄朗
お…おう、白石
昼に見た 可愛らしい印象とは一変、
どこか色気を感じる姿に 動揺してしまう。
白石汐凪
黒尾さん濡れると髪が落ちるんですね
黒尾鉄朗
まあな
黒尾鉄朗
アレ寝癖だから
白石汐凪
寝癖!?
白石汐凪
どうやって寝てるんですか 笑
黒尾鉄朗
枕で押さえ付けて寝てる
黒尾鉄朗
ちょ…あんま笑うんじゃないよ
白石汐凪
ふふ、すみません
白石汐凪
想像したら面白くて
柔らかそうな頬を 揺らしながら笑う。
前髪から落ちた水滴が 黒いTシャツに染みた。
気付いたら手が動いていて。
黒尾鉄朗
ったく、風邪ひくぞ
白石の首にかけられた タオルの片端を取って
頭の上に乗せる。
我に返った俺の手が 白石の頭上をさまよい、
最終的には ぽんと頭をひと撫でした。
黒尾鉄朗
じ、じゃあまた明日
白石汐凪
あ、はい…おやすみなさい
黒尾鉄朗
ん、おやすみ
驚いたように ぽかんと口を開ける白石。
俺は適当に言い残すと 踵を返して廊下を歩いた。
黒尾鉄朗
( やべぇ、触れちまった… )
顔から首まで 熱くなるのが分かる。
ニヤける口元を手で隠した。
白石汐凪side
お風呂上がりに 黒尾さんに会った。
白石汐凪
!
私の頭を ひと撫でした大きな手。
顔を上げると、 黒尾さんは優しく微笑んでいた。
蜂蜜色の瞳が甘く 溶けてしまいそうに思えた。
黒尾鉄朗
じ、じゃあまた明日
白石汐凪
あ、はい…おやすみなさい
どうにか返すと、
黒尾さんは 背を向けて行ってしまった。
熱を持った頬を両手で包む。
白石汐凪
( なんだろう…この感じ )
胸がキュンと締まった。