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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで

ぼくが目覚めると、何もない白くて広い空間にいた。

何もなくはないか。

ぼくの体は、白いパイプベッドの上で横になっていた。

全身にじっとりと汗をかいていて、服が肌に張り付いている。

体を起こしてから、服の前を両手で軽く引っ張って、服を体からはがした。

いつ着替えた(着替えさせられた?)のかわからないけど、入院患者が着るような薄手の白いガウンを来ていた。

起き上がって周りを見て気づいたけど、自分がいる場所は、まさに病院の病室だった。

ぼくが寝ていたのと同じ白いパイプベッドが、広い部屋の中で100基以上が整然と並べられている。

まだ寝ている子、起きて他の子とおしゃべりしている子、ひとりで周りをじっと見ている子など様々だけど、みんなの顔にはどことなく見覚えがある。

入学試験の会場で見かけた子供達だ。

ユウゴ

そうだ、あのあとどうなったんだろう?

少しずつ思い出してきた。

ぼくはアミキティア魔法学校の入学試験に挑んでいた。

いくつもの問題をクリアしていったけど、失格になり、消滅した。

ここにいるのは試験に失格した子供達なのだろうか。

ベッドから降りようと体をよじると、ガウンのサイズが合っていないのか、前が大きくはだけた。

とっさにガウンの前を隠して、左右を見回す。

誰にも見られていないと思うけど、やっぱり気になる。

ぼくの体には、大きな傷痕がある。

左肩から左胸にかけての広い範囲に、大きな獣の咬まれ痕が。

幼い頃に行ったキャンプで、熊か何かに咬まれた傷だ。

人に見られると怖がられるか、逆に面白がってからかってくるか、とにかく良い反応をされた覚えはない。

体育の授業では、夏でも長袖ジャージを来ているし、プール授業は全部見学にしてもらっている。

5年来のコンプレックスだから、一生克服はできないと思う。

アルク

なんで胸を隠してるのよ。
君、女の子だったの?

ユウゴ

そういうデリカシーの無いことを言われるから、隠すクセがついちゃったんだけどね

となりのベッドから聞き覚えのある女の子の声。

アルクがいた。

ぼくと同じく白いガウンを着ている。

アルク

冗談よ。
そこに大きい傷があるから隠したんでしょ

ユウゴ

……なんで?

アルクに傷の話はしていないはずだ。

アルク

あたしにも傷があるのよ。
右脇腹のところにね

アルクが自分の右脇腹を手でおさえる。

アルク

見せないけどね

ユウゴ

見ようと思ったわけじゃないけどね

手をおいた場所に自然と視線がいっちゃっただけだ。

アルク

あたしやユウゴだけじゃないよ。
集められた子供全員が、体のどこかに傷があるわよ

ユウゴ

ここの子供達全員に?

病院に集められたということは、傷の検査か治療のためだろうか。

アルク

ここだけじゃなく、シシロウやユトリ……入学試験に集められた全員によ。

アルク

それが魔法使いになるための第1条件だからね

ユウゴ

条件?

アルク

ここまで巻き込んだお詫び代わりに教えるわ。

アルク

人がどうやって魔法使いになるかを、ね

魔法使いの話をするためには、その前提として魔力と魔物の話をする必要がある。

魔力とは石や木、金属、水、空気にいたるまで、世の中のありとあらゆる物質に内在する、存在をたしかなものとする力のことだ。

例えば石が石としてこの世に存在するのは、魔力があるから石として認識される。

言い方が回りくどいが、物がそこにあると確定するための力だと思ってくれればいい。

時に魔力が物質の檻を抜け出し、自然と外に出てしまうことがある。

量が少なければ拡散して空気などに取り込まれてしまうが、量が多いと集まって固有の存在となってしまう。

それが、魔物。

一言でいうならば、意思を持った魔力の塊が、魔物だ。

元が魔力から生まれた魔物は、物質への帰属意識が高く物に執着する習性がある。そのために、物を集めたり、近づく生き物を集めた物から遠ざけようとする。

結果、狭い生息域を縄張りにして、少しでも入り込んだ相手には問答無用で攻撃するようになる。

アルク

ここにいる子供のほとんどは、
森とか山、
公園の林、
何年も放置されている空き家など、
そういう人が寄り付かない場所で、魔物に襲われて傷を負っているはずよ

ユウゴ

ぼくはキャンプの時……山の中でだ

アルクが話を続ける。

魔物に傷つけられると、傷口から魔物の魔力が入り込む。

その魔力量は微々たるもので、通常は傷の治りと同時に体外に排出されて消滅する。

ただし、内蔵、骨、太い血管などの重要な部分にまで傷が達していた場合は、魔力は体内の深いところに残り続ける。

元は一滴の水よりも少ない魔力は、成長とともに大きくなっていき、いずれは体の隅々にまで行き渡るようになる。

ここまでくれば、あとはキッカケがあるだけで、体内の魔力が体外に放出されるようになる。

その魔力を自由に使いこなせる人間こそが、魔法使いと呼ばれる。

アルク

つまり、魔法使いになるためには、魔物に襲われて大ケガを負う必要があるってわけ

ユウゴ

ぼくが幼い頃に襲われたのも、ただの獣じゃなくて、魔物だったってこと?

アルク

ここにいるってことは、そういうことよ。

アルク

ユウゴは覚えていないかもしれないけど、魔物に襲われた時に魔法使いに助けられているはずよ

ユウゴ

いや、覚えているよ

幼い頃のおぼろげな記憶だ。

獣に襲われて朦朧としている時に見た幻覚か、助けに来たレスキュー隊の見間違いかと思っていたけど。

ユウゴ

ぼくが魔物に襲われた時に、魔法使いが助けてくれた

今のアルクの話と照らし合わせると、こういう事だろう。

アルク

半分。
いや、4分の1くらいの正解かな

ユウゴ

残りの4分の3は何?

アルク

その魔法使いは、純粋にユウゴを助けたわけじゃないわ。

アルク

ユウゴが魔物に襲われる前から、近くにいて現場を見ていた

ユウゴ

なんで、そんな事がわかるのさ?

アルク

魔物は魔力の塊だから、銃とかの武器は通じない。

アルク

魔物を倒せるのは魔法使いだけなのよ

アルクが言う2つの事実が、最低最悪の形でひとつにつながった。

アルク

気づいたみたいね。

アルク

魔物を倒せるのは魔法使いだけ。

アルク

で、魔物に襲われて大ケガを負うと、魔力が体内に入って魔法使いになる場合がある

ユウゴ

その魔法使いは、魔物に襲われるのを待ってから助けに来た。

ユウゴ

ぼくが魔法使いになる可能性のために

ユウゴ

そういうことか?

アルク

そうよ

アルクの言葉が、急にずんと冷たくなった。

ユウゴ

そんなこと、あるわけが

アルク

あるのよ。

アルク

あたしの家も、魔法使いの家系だから

シシロウの神酒杜《みきもり》家ほど有力ではないけど、アルクの十二月三十一日《ひづめ》家も代々魔法使いを輩出している家系らしい。

アルク

だから、小さい時に魔力を体内に入れるために、蔵に閉じ込められて魔物に襲われた。

アルク

右脇腹を魔物に咬まれて大泣きしていたのに、一晩中扉を開けてくれなかった。

アルク

もっと最悪だったのは、翌朝、血まみれで蔵から出された時に、
『これだけ大きな傷なら取り込んだ魔力も多いだろう』って、
両親が大喜びしていたことよ

ユウゴ

そんな

どんな理由があろうと、子供が大ケガをしたのを喜ぶ親がいるなんて信じられなかった。

アルク

それを見てあたしは誓ったの。

アルク

自分は絶対に魔法使いにはならないって

ユウゴ

じゃあ、試験の最中、たまにふざけたりしていたのって……

アルク

ミスって失格になるためよ。

アルク

最初にユウゴに声をかけたのも、そのつもりだったんだけどね

ユウゴ

ぼくが?

アルク

ぼーっとして頼りなさそうだったから、

アルク

『こいつと一緒にいたら、ヘマして失格になるだろうな』って思ってさ

ユウゴ

それ、ひどくない?

アルク

しょうがないじゃん。

アルク

自分ひとりで失格になったら、家で何言われるかわからないもん。

アルク

これでもお嬢様なんだからね

お嬢様ってイメージはないけど、家に蔵があるって言ってたから、かなり大きいお屋敷に住んでいるんだろうな。

アルク

でも、思ったより出来たからビックリした。

アルク

あたしが邪魔をしなければ、最終試験までいけてただろうからね。

アルク

それは、ごめん

ユウゴ

そこを謝られても

魔法使いも魔物も今まで知らなかったのだから、失格になっても残念という気持ちはあまりない。

むしろ、失格しても、消滅して死んじゃったりするわけではなく、家に帰れるんだとわかってほっとしている。

ユウゴ

家にはいつ帰れるんだろう?
失格になったってことは、もうここにいる理由はないよね

アルク

そういえばそうよね?

病室にいる他の子達も、にわかにざわつき始めた。

アルク

帰るにしても、着替えくらいさせてほしいけどね。
寝汗で気持ち悪いし

ユウゴ

そうだね。
ぼくも起きたときはグッショリだったよ

アルク

あー、あんま近づかないでよ。
においとか恥ずかしいし

ユウゴ

言われなくてもわかって……

ユウゴ

あれ?

アルクのセリフが気になって、自分のガウンをめくってにおってみた。

ユウゴ

……においがしない

アルク

自分の体臭は気にならないって言うじゃん?

ユウゴ

それだけじゃなくて、何もにおいもしないんだ

ここは病院の病室のはず。 それなのに病院特有の消毒薬のにおいが全く感じられない。

においが感じないのは、この病室だけじゃない。

もっと前からだ。

ガイド妖精が燃えたときも焦げ臭さを感じなかったし、 大量のシャボン玉の中にいても石けん臭さを感じなかったし、 石レンガの通路を歩いていたときもカビ臭さを感じなかった。

入学試験が始まったからずっと、においを感じていなかった。

なんでにおいを感じなかったのか。

いつ、どうやって、試験会場までやってきたのか。

それらの疑問に関する答えが、脳裏に浮かんだ。

ユウゴ

ぼくは、夢の中にいる?

景色が消えた。

パイプベッドも、病室内にいた子供達も、アルクも消えて、視界が黒一色の闇になった。

ガイド妖精

よく気がついた

これまでに何度も聞いた機械的な音声。

闇の中にガイド妖精が浮いていた。

ガイド妖精

アミキティア魔法学校の入学試験は、予告なしに夢の中で行われる。

ガイド妖精

これに気づいた君は、第2試験の再試に合格した

ユウゴ

再試?

ガイド妖精

これから君には最終試験の会場に向かってもらう

敗者復活戦のようなものらしい。

ユウゴ

ぼくひとりだけ?

ユウゴ

アルクや他の子はどうなったの?

ガイド妖精

試験の監督官として、他の受験生の情報をもらす訳にはいかない

ガイド妖精は光を放つと、扉に変化した。

あたり一帯は何も見えない闇の世界。

闇雲に歩き回って闇の中に取り残されるよりは、目的地がわかっているこの扉のほうがまだいいだろう。

ユウゴ

みんなにまた会えますように

そう願って、扉を開いた。

アミキティア魔法学校の闇

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