コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ぼくが目覚めると、何もない白くて広い空間にいた。
何もなくはないか。
ぼくの体は、白いパイプベッドの上で横になっていた。
全身にじっとりと汗をかいていて、服が肌に張り付いている。
体を起こしてから、服の前を両手で軽く引っ張って、服を体からはがした。
いつ着替えた(着替えさせられた?)のかわからないけど、入院患者が着るような薄手の白いガウンを来ていた。
起き上がって周りを見て気づいたけど、自分がいる場所は、まさに病院の病室だった。
ぼくが寝ていたのと同じ白いパイプベッドが、広い部屋の中で100基以上が整然と並べられている。
まだ寝ている子、起きて他の子とおしゃべりしている子、ひとりで周りをじっと見ている子など様々だけど、みんなの顔にはどことなく見覚えがある。
入学試験の会場で見かけた子供達だ。
ユウゴ
少しずつ思い出してきた。
ぼくはアミキティア魔法学校の入学試験に挑んでいた。
いくつもの問題をクリアしていったけど、失格になり、消滅した。
ここにいるのは試験に失格した子供達なのだろうか。
ベッドから降りようと体をよじると、ガウンのサイズが合っていないのか、前が大きくはだけた。
とっさにガウンの前を隠して、左右を見回す。
誰にも見られていないと思うけど、やっぱり気になる。
ぼくの体には、大きな傷痕がある。
左肩から左胸にかけての広い範囲に、大きな獣の咬まれ痕が。
幼い頃に行ったキャンプで、熊か何かに咬まれた傷だ。
人に見られると怖がられるか、逆に面白がってからかってくるか、とにかく良い反応をされた覚えはない。
体育の授業では、夏でも長袖ジャージを来ているし、プール授業は全部見学にしてもらっている。
5年来のコンプレックスだから、一生克服はできないと思う。
アルク
ユウゴ
となりのベッドから聞き覚えのある女の子の声。
アルクがいた。
ぼくと同じく白いガウンを着ている。
アルク
ユウゴ
アルクに傷の話はしていないはずだ。
アルク
アルクが自分の右脇腹を手でおさえる。
アルク
ユウゴ
手をおいた場所に自然と視線がいっちゃっただけだ。
アルク
ユウゴ
病院に集められたということは、傷の検査か治療のためだろうか。
アルク
アルク
ユウゴ
アルク
アルク
魔法使いの話をするためには、その前提として魔力と魔物の話をする必要がある。
魔力とは石や木、金属、水、空気にいたるまで、世の中のありとあらゆる物質に内在する、存在をたしかなものとする力のことだ。
例えば石が石としてこの世に存在するのは、魔力があるから石として認識される。
言い方が回りくどいが、物がそこにあると確定するための力だと思ってくれればいい。
時に魔力が物質の檻を抜け出し、自然と外に出てしまうことがある。
量が少なければ拡散して空気などに取り込まれてしまうが、量が多いと集まって固有の存在となってしまう。
それが、魔物。
一言でいうならば、意思を持った魔力の塊が、魔物だ。
元が魔力から生まれた魔物は、物質への帰属意識が高く物に執着する習性がある。そのために、物を集めたり、近づく生き物を集めた物から遠ざけようとする。
結果、狭い生息域を縄張りにして、少しでも入り込んだ相手には問答無用で攻撃するようになる。
アルク
ユウゴ
アルクが話を続ける。
魔物に傷つけられると、傷口から魔物の魔力が入り込む。
その魔力量は微々たるもので、通常は傷の治りと同時に体外に排出されて消滅する。
ただし、内蔵、骨、太い血管などの重要な部分にまで傷が達していた場合は、魔力は体内の深いところに残り続ける。
元は一滴の水よりも少ない魔力は、成長とともに大きくなっていき、いずれは体の隅々にまで行き渡るようになる。
ここまでくれば、あとはキッカケがあるだけで、体内の魔力が体外に放出されるようになる。
その魔力を自由に使いこなせる人間こそが、魔法使いと呼ばれる。
アルク
ユウゴ
アルク
アルク
ユウゴ
幼い頃のおぼろげな記憶だ。
獣に襲われて朦朧としている時に見た幻覚か、助けに来たレスキュー隊の見間違いかと思っていたけど。
ユウゴ
今のアルクの話と照らし合わせると、こういう事だろう。
アルク
ユウゴ
アルク
アルク
ユウゴ
アルク
アルク
アルクが言う2つの事実が、最低最悪の形でひとつにつながった。
アルク
アルク
アルク
ユウゴ
ユウゴ
ユウゴ
アルク
アルクの言葉が、急にずんと冷たくなった。
ユウゴ
アルク
アルク
シシロウの神酒杜《みきもり》家ほど有力ではないけど、アルクの十二月三十一日《ひづめ》家も代々魔法使いを輩出している家系らしい。
アルク
アルク
アルク
ユウゴ
どんな理由があろうと、子供が大ケガをしたのを喜ぶ親がいるなんて信じられなかった。
アルク
アルク
ユウゴ
アルク
アルク
ユウゴ
アルク
アルク
ユウゴ
アルク
アルク
アルク
お嬢様ってイメージはないけど、家に蔵があるって言ってたから、かなり大きいお屋敷に住んでいるんだろうな。
アルク
アルク
アルク
ユウゴ
魔法使いも魔物も今まで知らなかったのだから、失格になっても残念という気持ちはあまりない。
むしろ、失格しても、消滅して死んじゃったりするわけではなく、家に帰れるんだとわかってほっとしている。
ユウゴ
アルク
病室にいる他の子達も、にわかにざわつき始めた。
アルク
ユウゴ
アルク
ユウゴ
ユウゴ
アルクのセリフが気になって、自分のガウンをめくってにおってみた。
ユウゴ
アルク
ユウゴ
ここは病院の病室のはず。 それなのに病院特有の消毒薬のにおいが全く感じられない。
においが感じないのは、この病室だけじゃない。
もっと前からだ。
ガイド妖精が燃えたときも焦げ臭さを感じなかったし、 大量のシャボン玉の中にいても石けん臭さを感じなかったし、 石レンガの通路を歩いていたときもカビ臭さを感じなかった。
入学試験が始まったからずっと、においを感じていなかった。
なんでにおいを感じなかったのか。
いつ、どうやって、試験会場までやってきたのか。
それらの疑問に関する答えが、脳裏に浮かんだ。
ユウゴ
景色が消えた。
パイプベッドも、病室内にいた子供達も、アルクも消えて、視界が黒一色の闇になった。
ガイド妖精
これまでに何度も聞いた機械的な音声。
闇の中にガイド妖精が浮いていた。
ガイド妖精
ガイド妖精
ユウゴ
ガイド妖精
敗者復活戦のようなものらしい。
ユウゴ
ユウゴ
ガイド妖精
ガイド妖精は光を放つと、扉に変化した。
あたり一帯は何も見えない闇の世界。
闇雲に歩き回って闇の中に取り残されるよりは、目的地がわかっているこの扉のほうがまだいいだろう。
ユウゴ
そう願って、扉を開いた。