#1 社交辞令
放課後、図書室
静寂の中に ページを めくる音が響く
その音の出処は わたしと、
彼。
私
…あの
私
私、思うんです
彼
んー?
私
人生って、きっと
私
私達が自覚するよりずっと短くて
私
あっという間に過ぎ去ってしまうんじゃないかって
彼
うん
彼
そうなのかもね
答えながらも、彼は雑誌から 目を離さずにいる。
私はそれに構わず話を続けた。
私
時間は無限じゃない
私
人生には終わりがある
私
だからこそ
私
興味のないものに
時間を費やすほど
時間を費やすほど
私
無駄なことはないんじゃないかって、思いませんか?
私
例えば
私
社交辞令とか
私
辞めたいって言い出せずに続ける部活とか
私
私
読んだフリで
ページをめくる本、とか
ページをめくる本、とか
彼
……何が言いたいの?
私
私
その雑誌、本当は読んでないんじゃないですか?
彼
あ、ばれた?
気付いて欲しかったと 言わんばかりの笑顔。
どうやら彼は私が思うより ずっと子供で面倒くさいらしい。
私
…わかりますよ、それくらい
私
ページをめくるのが
早かったり遅かったり
早かったり遅かったり
私
その割には全然目が動いてない
彼
すげー
彼
でも残念、不正解
彼
ちゃんと読んでるよ
彼
でもこの雑誌、読んだことあるやつだから
彼
気になったとこしか
読んでないってだけ
読んでないってだけ
彼
内容は大体覚えてるけど久しぶりに読むと楽しくて
私
…そうですか
彼
で、山野サンは何読んでるの?
私
そして誰もいなくなった、です
彼
ふーん…面白い?
私
面白いですよ
私
とある孤島に集められた10人の人間が次々に殺されていくお話です
彼
なにそれ、ホラー?
私
ミステリーです
私
読んでみますか?
彼
えー、読まない
私
そんなはっきり…
私
こんなに丁寧に説明したのに
彼
字ばっかりの本は苦手でさ
彼
ほら、
彼
社交辞令は無駄、なんでしょ?
悪戯っぽく笑った彼は私がそれを否定できないことを知っている。
本当に面倒臭い人だ。
私
…篠宮くんはもう少し人との関わり方を考えた方がいいです
彼
えー、僕だって色々考えてるのに
彼がなにやら文句を言っているが聞こえないふりをして
私は読書に集中し、 ページをめくる
フリをした。