土屋ナオキ これ、どこの鍵？
小学校からの帰り道、ナオキは鍵を拾った。
土屋ナオキ （ひょっとして、 この近所の鍵かも）
土屋ナオキ （片っ端からドアに 差し込んでみよう）
土屋ナオキ （この家のドアかな？）
土屋ナオキ （ハズレ、差し込めない）
土屋ナオキ （じゃあこの家かな？）
土屋ナオキ （ハズレ、回らない）
土屋ナオキ （じゃあ次は… この家のドアで試そう）
ガチャリと音がした。
土屋ナオキ 開いた！
ドアを開くと、目の前に血の海が広がった。
名無し …朝…いや、夕方か
名無し …嫌な夢見た…頭痛い
名無し （…インターホンの音 …寝起きの頭に響く…）
名無しが玄関のドアを開けると、杖をついた女――陣内ヒマリがいた。
陣内ヒマリ あら、寝てました？
名無し …呼び鈴うるせえ
名無し …勝手に入って来いよ …鍵を渡したろうが
陣内ヒマリ すみません、 合鍵どっかに 落としちゃいました！
名無し …殺すぞ
陣内ヒマリ 私を殺すと、 あなたも 野垂れ死にコースですよ！
陣内ヒマリ 持ちつ持たれつ、 一緒にズルズル 生きてきましょう！
名無し …今日のお前、 一段とうざいな
陣内ヒマリ あら？ 床が一面 血の海じゃないですか
陣内ヒマリ 期待膨らみますねー、 この血は誰の？
名無し …そいつの
名無しが、リビングに横たわる女の死体を指さした。
陣内ヒマリ なかなかの美人さんです
陣内ヒマリ そしてお腹を開かれて グッチャグチャですね！
陣内ヒマリ 相変わらず、 ひどい殺し方をしなさる！
名無し …俺だって、 殺しが好きなわけ じゃない
名無し …全ては 自分を取り戻すためだ
名無し …俺には、 ここ1年より 昔の記憶がない…
名無し …自分の名前も 思い出せない
名無し …だが、 女の腹をナイフで 刺して開く瞬間、 記憶が蘇りそうになる
名無し …俺の頭が イカれちまった原因が 見えそうになるんだ
名無し …おかしくなる直前、 俺は何かを刺して 開こうとしてた…
名無し …俺は 何を刺そうとしてた？
陣内ヒマリ すみません！ 興味なさすぎて あんまり 聞いてませんでした！
陣内ヒマリ 相変わらず 中二病キマってますね！
ヒマリが死体をトランクケースにしまった。
名無し …いつも思うが
名無し …本当に、死体がカネに なるのか？
陣内ヒマリ 顔に傷がなければ、 けっこういい値で 売れますよ？
陣内ヒマリ 世の中には、 死体でしか××できない 殿方もいるものでして
陣内ヒマリ 彼らが高く買うのです！
名無し …気色悪ぃ… …イカれてるよ
陣内ヒマリ どの口！棚上げ！
陣内ヒマリ 一応お客様なんですから、 言葉を選びましょう
陣内ヒマリ 人を殺すしか能のない あなたのような人が 生活していけるのは…
陣内ヒマリ 資金豊かな死体の買い手と 私のマネジメントの おかげなのです！
名無し …感謝してるよ、 ピンハネ野郎
陣内ヒマリ そう！ すべて私のおかげ なのです！
陣内ヒマリ 褒めていいんですよ？
名無し …やっぱりお前、 今日うざいよな
名無しはソファに寝ころび、目を閉じた。
陣内ヒマリ …あなた、 一日の4分の3 寝てますよねー
陣内ヒマリ 意識ある時間 めっちゃ短いでしょ
陣内ヒマリ 人生 損してません？
名無し …損してない
名無し …その分、夢を見る
名無しはすぐに眠ってしまった。
そして、ガチャリと音がした。
陣内ヒマリ え？
陣内ヒマリ …玄関の鍵 …閉めたはずじゃ…
玄関のドアが開き、ランドセルを背負った子どもが顔を出した。
その手にはヒマリが落とした合鍵がある。
血まみれの床を見て、その子が悲鳴を上げた。
土屋ナオキ やばいやばいやばい！
土屋ナオキ （殺人鬼が 追ってきてる）
土屋ナオキ （何で叫んだんだよ！？ 何で起こしてんだよ！？ 殺人鬼は寝てたのに！）
土屋ナオキ （走れ走れ！ もっと速く！）
土屋ナオキ （この公園を抜ければ、 交番が――）
名無し （…叫び声に起こされた …死ぬほど寝覚め悪い）
名無し （…さっさとガキを殺して 寝直そう）
名無し （…もうすぐ…追いつく）
名無し …あ
名無し （…あの子 …車にはねられた）
名無し （…ドライバーが 救急車を呼んでる）
名無し （…人が集まってきた）
名無し （…とどめ刺すの、 もう無理だな…）
名無し …………